第14話
日曜日には結果が出たため、それを伝えに行った夜斗
かなり喜んでいたが、あくまで延命措置だと再三言い聞かせてから病院の裏に移動する
そこには今日の採血で得た血を持った夜暮がいた
「夜斗」
「夜暮。すまんな」
「置いていくとバレかねんからな。持ってけ」
「どうすんだ?今日の検査は」
「今更か…。問題はない、検査に必要な血は別途確保してある」
夜斗はそれを持って病院を離れた
少し先で待つ妻とともに自宅へ戻り、機械の最終確認を行うことにして妻が運転する車の窓から外を見る
「…ま、なんとかなるか」
村雨は上司に命じられた引き継ぎについて考えていた
とはいえ必要なことはすべて自動化されている。もはや引き継ぎに必要なことは使用方法を書いたマニュアルを作るだけだ
しかしそういうのが村雨にとっては最も苦手なのだ。自分ができる物を言語化するのが苦手なのだ
(マニュアル、か。ふむ…)
「先輩何してるんすか?」
「高杉か。引き継ぎ資料を作ってるだけだよ」
「え。辞めちゃうんすか?」
「ああ。余命5年らしいから、最後を楽しみたくてね」
村雨のパソコンにはディスプレイが2つ繋がれている
右の画面には通常業務のテスト作業が流れており、左の画面にはタスクリスト
ノートパソコン本体の画面にて引き継ぎ資料を作成していた
「余命宣告って、持病あったんすね」
「低出力症だよ。だから俺現場に出てないだろ?」
「あ〜!現場クビになっただけかと思ってました」
「まぁそうなんだけどストレートだよなお前な」
村雨の仕事は主に現場で起きたバグを直す仕事だが、外で倒れる可能性を考慮して客先に出向くことはない
誰かが持ち帰ってきた複雑なバグを片手間に直すのが村雨流だ
「先輩のプログラム見れなくなるんすね」
「そーだな。まぁわからんことあれば5年以内に聞いてくれ。墓場まで持ってくんなよ」
「持ってかないっすよ。…多分」
不安な一言を残されたが、気にすることなく業務に戻る村雨
2週間後にはここを去るのだ。早いとこ引き継ぎは終わらせなくてはならない
「立つ鳥跡を濁さず、か」
「…?」
「俺のあとはお前に任す。なんとかしてくれ」
「えぇぇぇ!?いやいやいや無理っすよ!ソースコードからバグを見つけて修正なんてやり方できるの先輩だけっすよ?」
「やれる人のほうが多いと思うが…。まぁそれはともかく、資料はお前に渡すからあとは頼んだ」
「まぁいいっすけど…。これテスト作業っすよね?」
「ん?ああ、そうだな。大したツールじゃないけど」
そう言って村雨は小さく笑った
土曜日。村雨は夜斗に呼び出され、自宅付近の公園に来ていた
子どもたちが遊んでいるのを遠目に見ながら、持ってきたコーヒーを飲む
「暇だなぁ」
「待たせたな。ほらよ」
夜斗が現れると同時に投げてきたのは少し厚い腕輪だ
一度つけると外せなくなる代わりに、寿命を僅かに伸ばせる
「どんくらい伸びるんだ?」
「お前があの人の血にどれだけ適合するかってとこだな。100%で5年伸びる。あとはまぁ、単純に割ってみれば大体わかる」
「血に…か」
理論上、血に刻まれた遺伝子情報を用いて、脳を改造できることが判明した
夜斗が作ったこの腕輪はそれを実現するため、村雨の血管に割り込んで葵の血を流し込む
ただ流し込むのではすぐに在庫がなくなるため、脳からの信号で量を調整するのだ
「サンキュー」
「上手く使え。それと、腕輪には監視装置が組み込まれている。もし無理やり外そうとすれば、腕輪の表面に葵さんが放つ電気と同じものが放出される。くれぐれも気をつけることだな」
「恐ろしいもん作ったな…」
「お前の肌に癒着するから、取ったら出血多量で死ぬ。おそらく治すとかそれ以前の問題だから」
「マジかよ…」
村雨は腕輪を左手首に付けた
焼けるような痛みと共に、腕輪が一体化したことを感じる
「実験はほぼ成功だ」
「ほぼ…?」
「正直5年後までは最終結果がわからん。せいぜい今を大切に生きるといい」
「…伸びたかもしれない、ってことなのか」
「あくまで可能性だ。もし、無理やり体を動かすときに吐気・目眩・頭痛・脱力が発生した場合は半分成功ってとこか。試しにこれでもやってみろ」
夜斗が村雨に投げたのは、百円均一でも売っているような握力トレーニング用の器具だ
15キロと書かれており、今まで村雨はそれをやろうと力を込めると視界にノイズが走っていた
「…握れる」
「目眩等は?」
「ちょっとだけ脱力感がある…かな」
「それ以外ないのなら適合率は80%を上回っている。あとはそれで寿命が伸びるかどうかだな」
「ありがとな。やりたいことは、ないけど…」
「勝手に生きて、幸せなまま死ね。葵さんが死ぬとお前は不幸になる。だから、それを超える幸せに包まれることが目標だ」
夜斗はそれだけ言い残して、何も言えなくなった村雨を置いてどこかへと去っていった
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