第12話

席に案内された村雨は、お通しとして運ばれてきたカルビを焼きながら夜斗に続きを促した



「お前次第だ。邪法に手を染めてまで、生き延びる必要があるのか?」


「…ある。少なくとも、瀬奈にいい彼氏ができて、甥か姪を見るまでは生きたいと思ってる」


「えっ私?」


「ま、及第点といったところか。簡単なことだ、お前が葵さんだっけ?その人と同じ状態になればいい。そうすれば出力が上がる」


「…は?けど、それは生まれつきのもんだって…」


「医学的にやるなら脳の入れ替えになるけどそれはあんま意味ねぇし」


「俺の体を葵が使うことになるじゃんそれ」


「実際それが一番楽なんだよ。考えるのが」


「どういうことですか?」



瀬奈が問うと、夜斗は小さくため息をついた

悪気があってのことではない。躊躇っているわけでもない

ただ、癖で出たものだ



「葵さんは脳の出力が高い。村雨は体の負荷が高い。つまり、もし葵さんが村雨の体を使えばうまく帳尻が合うんだよ。それを擬似的に体現する方法もあるけど、ちょっと寿命伸ばすくらいの効果しかないと思う」


「擬似的に…?」


「ああ。ただ、これに関してはマジでオカルト。成功するかどうかすら試さないとわからない。成功しても計算上5年くらいしか寿命が伸びない。ハイリスクローリターンの大博打ってことだ」


「…なるほどな」



村雨は考えた

そもそも、脳が悲鳴を上げているのは体の負荷のせい

負荷を軽減する方法ばかりを考えていたが、脳の方をなんとかするというのが夜斗の考えだと解釈した

その解釈は間違っているわけではないが…



「やるなら病院に俺を呼べ。5分くらいで終わる」


「わかった。土曜日でどうだ」


「やるんだな。土曜日は午後なら空いている。午前は出勤だ」


「了解、頼む」


「おう」



後の時間は、ただ昼飯を食べるだけの時間だ

とはいえ会話はするのだが、瀬奈はあまり元気がない

いつもが有り余っているせいか気づきにくい差ではある



「うし帰るか。つっても俺は沼津に行くけど」


「なんかあんの?」


「ツレの誕生日渡すの忘れたからな、渡してくる。もう10年くらい渡してるんだよ」


「ほーん。そら中々だな」


「だろ。今年は超適当に腕時計にしといた」


「俺にはないのか?」


「土曜日にやってやるから許せ」


「ソウダナ」



村雨の誕生日は来月だ

バレンタイン前日がその日なのだが、まともに祝ってくれたのは瀬奈と夜斗のみ

葵にも言えば祝ってもらえるだろう



「じゃあな、村雨」


「おう」



夜斗はバイクに乗って去っていった

残された村雨は、先に部屋へ戻った瀬奈のところへ戻る



(余命を伸ばす…オカルト…。何するかわからんな)



村雨は少しだけ不安を感じつつ、瀬奈に帰ることを伝えた

瀬奈は下まで見送りに来て、見えなくなるまで村雨の車に手を振っていたが、手を下ろすと同時に膝をついて顔を伏せた



(お兄ちゃん…)



なんとも言えない感情が目まぐるしく体を回る

そして震える足を無理やり動かして立ち上がり、部屋へと戻っていった

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