第10話
夜、ベッドにて
壁際では瀬奈が、ピンクの可愛らしいパジャマで横になってスマホを触っている
村雨自身も、スマホを弄り友人に余命宣告の件を伝えていた
「瀬奈」
「なに?お兄ちゃん」
「まだ終わりじゃないが、今までありがとうな」
「…まだ5年あるじゃん」
「あの博士曰く、さらに短くなる可能性もある。言えずに死ぬよりは早く言っておこうと思ってな」
村雨は瀬奈に背を向けながら、そう伝えた
親は先日行方不明になり死亡判定となったため、残された家族はお互いのみ
だからこそ自然と、村雨から言葉が綴られた
「すまない。お前を一人にしてしまうことが、決まってしまって」
「謝るようなことじゃないよ。わかってたことなんだから、そんなこと言わないで。今まで強く潔く生きてきたお兄ちゃんなんだから、私の前では…私の前だけは、素直でいてよ」
黙る村雨を力づくで自分の方へ向かせる瀬奈
目にはいっぱいの涙を溜めている
それを見て村雨の視線が右往左往して、また瀬奈を見た
というより目の前に瀬奈がいるのだから、どこを見たところで瀬奈が見える
「ったく…。少しは繕った兄でいたいものだが…」
「わかるよ。兄妹だもん。私も、笑って見送るつもりだった。でも、耐えられない。これから誰を頼ればいいのかわかんないし、誰のために生きればいいのかもわかんない」
「常々言ってるだろ。自分のために生きろって」
「私はお兄ちゃんのために生きることが私のためなの」
「ふむ…」
頭ごなしに否定することはしない
本人がそうだと言うのに否定するのは無能がやることだと思っているからだ
「老衰で死んだ後で、話を聞こう。俺がいなくなってからのお前の人生を。そのために生きるというのはどうだ?」
「うーん…ありっちゃありだね。60年分の話しなきゃいけないけど」
「長生きの予定だな、いいことだ」
笑い合って、村雨は瀬奈の髪に手を触れる
瀬奈は猫のように目を細めて、すぐに元のように目を開けた
「一先ず仕事を辞めるつもりでいる。葵が死ぬまで一緒に過ごして、その後はその時に考えるかな」
「うんうん。いい判断だと思うよ。亡くなったあとを考えないとこもね」
「どうせしばらく何も考えられないだろうからな。今考えても同じことだ。死なない前提で生きるのが一番いい」
そこまでいって欠伸をする村雨
寝よ、という瀬奈の声に同意して電気を消す
数分で深い眠りにつき、瀬奈は目を開けて村雨の頭を撫でた
(ちょっとくらい、甘えても…いいよね?)
その問いかけに答える声はない
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