第6話
それから半年は飛ぶように時間が流れていった
村雨の職場は葵がいる病院から遥か60キロ以上離れており、毎日多少の残業がある
それのせいで面会時間を大幅に過ぎてしまうため、毎日会うことはできない
それでも毎週土曜日に病院へと見舞いをかねたデートへ行き、病院内を歩き回った
葵の紫電病は衰えを知らず、その力はどんどん増していく
マッドサイエンティスト曰く、「魔法という仮定が正しいのなら、使うことで強化されている。筋肉の成長みたいなものなんじゃないか」という見解を示した
(毎週の散歩のせいで、どんどん症状が重くなってるのか)
村雨は迷った。散歩をやめて、病室でただ話をするのも悪くない…と
しかし当の本人がそれを許さなかった。延命しながら生きるくらいなら、楽しい思い出を残して死ぬ方を選ぶと
それにより村雨は、結局毎週病院敷地内を散歩することになっていた
(ここんとこ筋力上がったんよな、俺。運動全くしてこなかったのに急に散歩するようになったからか?)
「…め、ん…。む…めくん…?村雨君!」
「ハッ!?な、なんだマッドサイエンティスト残念ガールか…」
「ちょ酷くない!?というか話を聞いてくれないかな」
「何の話だっけ」
「紫電病を抑える方法を思いついたって話だよ」
「え?ほ、ほんとうか!?」
食い気味で博士に詰め寄る村雨
普段は距離を詰める側である博士が若干引いている
「ほんっとうに可能性の話だよ。どんな力も無限に出るわけじゃない、という仮定を元に考えたってだけでね」
「ど、どうするんだ!?」
「簡単だよ。めっちゃ運動させて、紫電を放つ力の源を極限まで減らすの」
「…はぁ」
「あんまピンときてないね。彼女を電気部品に例えたとき、バッテリーなら運動しまくって放電させまくれば、死ぬより早く残量がゼロになる」
「発電機だとしたら無意味に寿命減らすだろ」
「発電機だとしたら、燃料が尽きるかもしれない。あくまで可能性だけど」
村雨は最近になって医学に興味を示し、よく博士の部屋に立ち寄るようになっていた
土曜日は葵に、日曜日はここで授業を受けている…しかし、理解できることは少ない
何故ならこの科学者は理論の話しかしない上に説明が驚くほど下手なのだ
「…電気設備関係業務に従事する者として意見具申するのなら、もしバッテリーの寿命が葵の寿命なら…」
「そうなんだよねー。だからオススメはしないよ、やるだけ無駄。思いついたから言ってみたかっただけ」
「…あんたらしいな。どうせそれだけじゃねぇだろ」
「もう魔法だってことで話すけど、使い続ければ魔力みたいなのがなくなるはずなんだよ。そうなると魔力欠乏症ってのになるかもしれない」
「なんだそれ」
「血中酸素レベルがゼロになったみたいなものだよ。あくまで考え方の1つだけど、もしやりすぎたら死ぬより苦しいかもしれないってこと」
「はーん。難しいところだな」
「ま、君が満足できるなら何でもすればいいさ。私はあまり今言った話は参考にしないでほしいけどね。責任取りたくない」
「やらせる気はない。それに、散歩して放電量増えてるけど電圧が下がったことはないんだ、やるだけ無駄だろう」
「だよねー。科学者として悔しいなぁ…電気なら科学で通じると思ったのに」
「ま、多少参考にするさ。今日はもう帰るぜ、明日も仕事だ」
「はいはーい。あ、いつでも助手は募集してるからね」
「考えとく」
村雨は博士を振り返ることなく手をヒラヒラと振って部屋を出た
廊下を進むと、ふと葵の病院を思い出した
(寄ってから帰ろう。それから一週間頑張ろう)
村雨はそう予定を確定させて早歩きで車に戻っていった
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