第3話
病室に医者がきて、村雨の手首に腕輪をつけていった
それは葵についてるものと同じで、そこからさらに線が伸びて壁のコンセントに入っていた
正確にはコンセントの下にある端子に、だが
(アース…ってことか。万一触れてもそこから地面に流すわけだな)
「それは、私が触れても大丈夫な機械…らしいよ?詳しいことはわからなかったけど」
「そうか。……外に出れるのか?」
「敷地内ならね。どこか行く?」
「散歩だ」
「おっけー。あ、けど車椅子借りてこなきゃ…。私歩くと発電するから極力歩かないようにしてるんだよね」
「押してやってもいいが、まぁ少し歩くくらい良かろう。電気は空気を媒介に人へ伝達することは殆どない」
実際空気は抵抗が強すぎるため、よほど高電圧でない限り電気を通さないことで知られている
空気を使ったスイッチもあるくらいだ
「じゃあ…行こっか!歩きだとエレベーター乗れないけど」
「そうなのか。じゃあ、階段で降りて、帰りは車椅子借りてエレベーターだな」
「はいはーい」
病院着のまま村雨の隣に立つ葵はどこか明るい
部屋に入ったときはここだけ梅雨かと思うくらいには空気がジトッとしていたのだが、今はそんなことはなくなっていた
「どこいくの?私基本的に施設入るときは許可がいるんだけど」
「逆にどこならいいんだ?」
「うーん…。屋上とか、外の運動場かな」
「あー、なら屋上にするか。あまり階段使いたくないし」
「いいよー」
階段で1階分上に登るとそこに屋上がある
無機質なコンクリートで作られた床と、転落防止のための5メートルほどの鉄柵があり、鉄柵の上には害鳥対策の有刺鉄線が張り巡らされていた
(…いや、実際のところは…)
「自殺対策だよ。私みたいな、死にたがりが死なないための」
「…死にたいのか」
「そりゃあね。だって、まともには生きられないんだよ?」
少しだけ村雨の心に刺さるものがあった
まともに生きられないという言葉の重みを感じて
「もう23になるのに、食事も運ばれてくるしトイレも部屋に備え付け。定期的に血液検査があるけど自分で採血しなきゃいけないし、気休めの薬を毎日毎食後に飲まなきゃいけない。私は前世でどんな業を積んだのかわかんないよ」
「…そうだな。けど、お前は綺麗だ。俺はそれだけでも、居てくれてよかったと思ったぜ?再会の約束もしてくれたしな」
「君は忘れてたけどね」
「何も言い返せん…」
笑う弥生の横顔を見ていた村雨は、その表情に憂いを感じた
「甘えられないってのは心に来るわな」
「…まぁね。小学校上がるくらいから、家電が壊れるようになってて通院になったの。しばらくは大したことなかったんだけど、5年前くらいから急激に電圧が上がっちゃったの。で、4年前に入院が決まって3年前に入院アンド余命宣告」
「…俺らくらいの歳じゃきついもんあるよな、余命宣告は」
村雨はふと医者の言葉を思い出した
医者というよりマッドサイエンティストなのだが、奴は村雨にこういった
【君は普通の人より200倍電気抵抗が高い特殊体質だよ】
(思い出せオームの法則…!電流は電圧÷抵抗だ、つまり人間が耐えられる0.1Aを超えないためには最大電圧を求める必要がある。…普通の人間の抵抗が5K。つまり俺は1メガだ。つまり1メガボルトに耐えることができる。1メガはたしか…10万…?)
うろ覚えの知識を総動員して暗算する
あのマッドサイエンティストの言うことを信じるのなら、葵の放電を耐えることができる
しかしもし嘘だったら?
問題なく村雨は死ぬだろう
(イチかバチか、やってみるのもありだな)
村雨は外を眺める葵の手を取った
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