第2話

病院の受付にて事情を話し、面会許可証を取得した青年は、エレベーターで7階へ上がった

そして該当の病室の前で深呼吸してから、ドアをノックした



「どうぞ」



凛としていながら、落ち着いた雰囲気のある声が中から聞こえてきた

青年はドアに手をかけ、横にスライドさせて開く



「…?どちら様でしょうか?」


「…秋津風あきつかぜという者だ」


「ええと…」


「17年前に再会の約束をしておきながらすっぽかしたクズ、というばわかるか」


「…え…?」



少女の姉は、部屋の奥にあるベッドの上から青年を見つめていた

が、驚愕の顔をして青年に目を向ける



「あの、ちっちゃかった…?」


「あのくらいの子はみんな小さいが、まぁそうだな」


「公園でよく追いかけっことか…」


「したな。つか俺も大概だけどよく覚えてんな」


「あとはー…」


「あんたが言ってたことそのまま言うなら、大人になったら結婚しよう。か?」


「い、いったね…」



青年はドアを閉めて奥へといった

ベッドの脇に置かれていたパイプ椅子を出してそれに座る



「なんでここ知ってるの…?」


「あんたの妹に会ったんだよ。あの公園に行ったらいたから、病院聞いてきた」


「あの子…探してくれてたんだ」


「らしいな。さて、改めて久しぶりだな、あおい



クスッと笑う少女こと葵

何がおかしい?と顔をしかめる青年



「昔はあーちゃんって呼んでくれたのにね、むーくん?」


「…ガキの頃のことなんか覚えてねぇよ。今更その名前で呼ぶ権利はねぇしな」


「なんで?」


「…そもそも何故怒らない?15年後にと約束したのに私は忘れてすっぽかした。それでいて今更ノコノコ顔を出したんだぞ」



狐につままれたような顔をした葵

顔を見てられず、青年は顔を伏せた



「恨まないし怒らないよ。あんな昔のこと、覚えてる方が難しいもん。むしろ来てくれてありがとう」


「…!難儀な性格をしているな、葵」


「かもね。玲奈にもよく言われるよ」



ここでようやく公園にいた少女の名前を聞けた青年だったが、子供の頃にその名を呼んだ記憶はない

外に出れなかったと言っていたことだし、おそらく会ったこともほとんどないはずだ



「病気なんだってな」


「…うん。紫電病っていうんだけど、知ってる?」


「ああ、たまにニュースで見るな。なんだっけ、生体電気の電圧が高すぎて体外に放出される…だっけ?」


「そうそう、すごいね!物知り」


「こんくらいスマホがありゃ調べられるしな」


「すまほ…?」


「え…知らねぇのかよ」


「う、うん。機械系は触ると壊れちゃうから…」


「まぁ簡単に言うと、このちっちゃい板の中に辞書とか地図が入ってるんだよ。これで色々調べることができるんだ。紫電病のことも調べられる」



詳細を調べてみると、発病は遺伝ではなく、感染するものでもないようだ

ある日突然体から紫色の稲妻が迸るようになり、時として周りの人を殺すという

治療法は確立されておらず、現状は両腕に金属製の腕輪をつけ、地面に電気を逃がすことしかできない



「私はちょっと電気強いみたいで、病院の電気を少し肩代わりしてるんだけどね」


「すげぇな」



とはいえそれは昼の間だけだ

紫電病はあくまで生体電気信号の病気であり、体を動かすことで強く放出される

つまり、あまり動かない夜はほとんど放出されないのだ



「俺が触れたらどうなるんだ?」


「感電はすると思うよ。死ぬかどうかはわからないけど」


「…一応聞きたいんだけど電圧は?」


「10万ボルトって言ってたけど…どれくらいの強さなの?」


「なんだと…!?」


「よくわかんないんだよね、まともに小学校行ってなかったし」


「す、少しは説明してやるよ」



うろ覚えの知識からオームの法則を説明することにした青年

仕事でもよく使うため、中途半端に電気の知識を持っている



「って感じだ。人が死ぬのは電流が高いからってことだな」


「なるほどー。先生みたいたね、むーくん」


「その呼び名はやめろ心に来る…。」


「えー、名前覚えてないもん」


村雨むらさめだ。秋津風村雨がフルネーム」


「おぉー、かっこいい名前だね!」



青年こと村雨は、葵から投げられた質問を全て答えていった

どうやら外に出れないらしく、俗世に疎いようだ

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