あの日桜の木の下で君は
さむがりなひと
意外と大切な約束も忘れちゃうよねって話
第1話
実家の片付けをする最中
屋根裏収納にある数多の書類の中から、1つの手紙が見つかった
『15年後に、公園で』
それだけ書かれた手紙を手に、青年は外に出てタバコを吸う
(…あの時の、あの子からか…。いやはや、記憶から抜け落ちていたな)
青年は忘れていた約束を思い出し、ふぅ…と息と共に煙を吐き出す
それはかなり昔、実家が少し離れたアパートの一室だった頃のこと
妹が生まれる少し前、青年と遊んでくれていた女の子がいた
当時から容姿は優れていたが、青年が小学校に入る直前に引っ越してしまい、会うことはなくなっていた
(現在20歳ですが何か?)
そう、実はもうすでに15年が経過してしまっているのだ
手紙の日付は1月15日。つまり今年でいうと今日である
(まぁ暇だから言ってもいいけどね。そんな遠くないし)
妹に少し出かけると伝えて外に出る
バイクにまたがりヘルメットを被ると、シールドに『WELCOME』と表示され、速度や周辺地図が表示された
(ヘッドアップディスプレイ付ヘルメット…15万円したんよなぁ)
青年はバイクのエンジンをかけ、15キロほど遠くにある公園へと向かった
そこはかつて青年が住んでいたアパートの目の前にある公園で、周辺の子どもたちがよく集まる憩いの場だった
最近では子どもが減り、危険だからと遊具も消されて、残されたのは謎の巨大石碑とベンチのみ
(子どもの成長の機会を奪うのはいつも大人、か。腐ったババアが、危険だとか言うんだよな。「こういうことをしたら危険だ」とか「見えないところに危険がある」っていうのに気づかせるのが公園だというのに)
実際砂場は、「砂の中に尖った石が落ちてたら危険だ」という理由で撤去された
しかし設置理由の方に目を向けると、「見えなくても尖った石という危険があるということに気づかせるため」なのだから本末転倒である
「ふむ、わりと時間がかかったか?いやそうでもないな、ちょうどいい時間だ」
ヘルメットを脱いでバイク側面にあるヘルメットホルダーに引っ掛けて公園の中に入る
夜斗がかつて遊んでいた頃の記憶によれば、アパート側から入って左に砂場があった
砂場のむこうに滑り台、一番奥にブランコ
逆に、右側には高さが三段階ある鉄棒と、水道
これだけしかないが、地域の公園にしては十分な遊具だった…のだが
(なんもなくなっちまったな。ベンチだけ…一応石碑もあるけど、アレ何の石碑なのか今も知らんのよな)
元々鉄棒があった場所に置かれた、申し訳程度のベンチに腰を下ろす
ポケットに押し込んだコーラを取り出して飲んでいると、目の前に人が現れた
「こんにちは」
「んー?ちわっす」
それは女だった。パッと見は青年と同世代か少し下くらいに見える
冬場だというのにTシャツの上からパーカーを着ているだけで、下はスカート
見ているだけでかなり寒そうだ
「こんなところで何を?」
「特に何も。暇だったからきただけで」
「そうでしたか」
「逆に貴女はここで何を?」
「私、は…人探しです。15年前、このあたりに住んでいた男の子を探しています」
ふむ、と唸って顔を見上げた
少し憂いげな顔をして、少女は青年に目を向ける
青年は隣に座るように目で促し、少女はそれに従い横に腰掛けた
「どんなやつなんすか?そいつは」
「…知らないんです」
「知らない?探してるのに?」
「正確に言うのなら、その人を探してるのは姉です。私は当時、まだ3歳とかそれくらいで…家から出れなかったので」
「お姉さんはいくつですか?」
「今は23です。当時は7歳とかそれくらいで…」
「俺は今22です。このあたりに住んでたやつに心当たりがありますが」
「本当ですか!?」
少女は距離を詰めてきた
よほど興奮しているのか、その距離はわずか数センチといったところ
「え、えぇ…。お姉さんの名前と連絡先を教えてくれれば、そいつに伝えておきます」
「あ…。連絡先…」
「ご存知ないのですか?」
「いえ…。姉は、スマホを持ってないんです」
「固定電話でも構いませんよ。最悪は住所だけでも。いざとなれば手紙を書かせます」
躊躇い、何も言わなくなった少女
青年もメモ帳片手に固まるしかできない
数分後、ようやく少女が口を開いた
「姉は、入院してるんです。それで、外部との連絡が取れなくて…」
「入院…では面会も厳しいでしょう」
「それは大丈夫です。お姉ちゃんが病院に許可を取って、その人だけは可能にしてくれました」
「特例措置ですか」
このあたりのことはメモを取らない
割とよくあることなのだ。現代において、面会許可を取るのには複雑な手続きが必要となる
しかし裏道はあるもので、家族なら取れるとか、今際なら通るとかいろいろある
「はい。…姉は、余命1年なんです」
「余命…1年…?」
「姉はその人と離れるときに、15年後に会おうといったらしいんです。そして、ちょうど15年後に当たる2年前、ここにきた」
「ほう」
青年は内心焦っていた
予想が正しければ、自身が相当クズだと確定してしまう
「その時に、彼は来なかったんです。それが最後の日だったため、翌日から今日までずっと入院していて外に出れず、私が変わりにここにきて探しています」
(終わったァァァァ!!俺余命僅かの女の子放置してたァァァ!!)
「だからせめて最後に、会ってほしいな…と」
目に涙をためて話す少女
青年は少女の頭を撫でながら、聞き出すべきことを聞いた
「病院と号室を教えてください」
「え…?で、でも…」
「責任をもって僕が行かせます」
「本当にその人がどうかわかりませんし…」
「僕が友人から聞いた話に酷似しています。僕の友人が、君のお姉さんに確認すればいいだけですから」
「…わかりました。市立病院の708号室です」
「了解…っと。では僕はそいつを連れて病院へ向かいます。が、見ないであげてくださいね」
返事を聞かずに青年はバイクへ走り、エンジンをかけながら乗り込んだ
サイドスタンドを上げてアクセルを回し、クラッチを繋げて急加速
病院へと向かった
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