第4話 動揺する幼なじみ



 昨日の件についての結果としては、麻黒家から冬夜に対して厳重注意を行ったということらしい。

 効果はあったのかはまだ経過時間が少ないので確定できないが、今のところ、これと言ってなにかしら攻撃的な態度をとってきてはいない。

 残り帰りのホームルームのみしかないことを考えるとその評価で間違いないかもしれないが。


「テスト期間が近いことでの短縮授業ですから皆さんしっかりと準備をしてーー」


 ホームルームが始まり、テスト前に設けられた短縮授業期間のことに関して、教師が訓示を述べていると徐に摩耶の呟く声が聞こえた。


「そういえばもうすぐテストよね」


「範囲は少ないし君は成績優秀なんだ。そこまで思い悩むほどのことではないだろう。まあ例外もいるだろうが」


 いつもはテストの話などしないと言うのに、嬉々として話題を振って席一つ分ほど距離が設けられている冬夜と話始めた。

 後半の含みのある言葉から察して、やはりこっちにちょっかいをかけてきたようだ。

 冬夜の性格に関しては麻黒さんの言った性格が全てだと思った方がいいかもしれない。

 俺が一時でも信じた分け隔てなく誰にでも接することができるいい奴だったことが随分昔のように感じられる。


「国語が苦手なだけで他はそこまでひどくないだろう」


「テストで大事なのは総合点数なんだよ。一つ悪いだけでも致命的だろ。なんでお前みたいな庶民がここに入学できたのかはだはだ疑問だな。なあ麻耶」


「エ!? ええ、ホ、本当ね……」


 こちらの成績不振のことについて責める冬夜から話を振られて、摩耶が口籠った。

 今まで俺が教えながら勉強していて、今回初めて自分だけでテスト勉強するので、いい点数を取れる自信がないのだろう。

 悪い点数をとる確率が高いのに今ここで大口を叩いたら、後々そのまま自分に帰ってきて致命傷になりかねないからな。

 おそらくこのことについて把握していない冬夜は、今の様子からして額面は成績一位である摩耶のテスト成績でマウントを取ろうとでも腹つもりを立ってているのだろう。

 そんなことをすれば、勉強が苦手な摩耶の首が締まるというのに。


「ああ、少し言っておくことがある。国語の前山田先生が持病が悪化して入院なされた。その関係で早乙女先生がしばらく授業を執り行うことになったのでよろしくお願いします」


「なんだと!?」


 テスト勉強に力を入れようかと考えていると、事務連絡をした言葉に対して冬夜が大声を上げた。

 一体どうしたって言うんだろうか。

 時期的にテストはもう作成されているはずだから、出題傾向に違いが生じる可能性が低いと言うのに。


「いきなり大声を上げてどうしたの?」


「い、いやなんでもない」


 麻黒さんが怪訝そうな顔で、苦言を飛ばすと慌てながら冬夜が否定していた。

 物申された瞬間に切れるかと思ったが意外だな。


「もう少し慎みも持って下さると嬉しいわ」


「ッ!」


「冬夜言い返さないの」


「うるさい」


「え」


 冬夜に発破をかけた摩耶が、思わぬ反撃を受けて鳩が豆鉄砲を食らったよう顔をしている。

 今のは完全に八つ当たりだったから、摩耶も想像できてなかったんだろう。


「許さない」


 摩耶は麻黒さんを睨みつけて、恨みがましそうな声を上げた。



 ー|ー|ー



「何も起こらず終えれると思ったら今日はすごいことになったね」


「本当にね。私たちと対立しているあの二人が勝負を仕掛けてくるのは、ただの勝敗が付くだけでは済まないもの」


「クラスメイトたちも結果如何によっては何かする場合もあるってことだよね」


「そうよ。もしあの二人が勝つようなことがあれば、取り巻きたちはそれを担いで、私たちの能力の低さが元凶にあったんじゃないかって吹聴するでしょうし」


 近くに居たから忘れていたが、冬夜との縁が欲しいところなんて腐るほど多いからな。

 取り入る機会があるなら、この機会を利用しない手はないだろうし。

 でもそれは冬夜と同じくらいお金持ちである麻黒さんも例外ではないだろう。


「でも逆にこれを制すれば、その人たちがこっちに靡く可能性も十分ありそうだね」


「確かにそうね。味方が増えるほどにその人たちの問題も引き受けることになるけど、今はそれにも増して味方が増えてくれるメリットの方が大きいわ」


 今回のテストを制することはかなり重要な事柄だ。

 ここでうまくいくかどうかで、後々の婚約復活のための展開に天と地ほどの差ができることが想像できる。

 備えは十分にしたほうがいいだろう。


「対策のためにも勉強会でも開く?」


「いいアイデアね。私もあなたが現在の実力を見たいし、あなたもパートナーの実力が未知数のままでは不安でしょ」


「じゃあ、決定だね。どっちの家でやる?」


「あなたの家でやりましょうか。それと今からデートしましょう」


 駐車場までの道のり。

 想像だにしていない言葉が耳朶を打った。

 思わず麻黒さんを見つめ返すと、「行きましょ」と言って手を引き始めた。

 

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