第4話 分かたれた灯火
今日は昔からの親友を迎えに行った。
あなたは私のことを親友だって言ってくれるかな。
でも、もう無理かな。
あの日から私たちの住む世界は分かれてしまった。
コンコンと私はあなたの家のドアをノックする。
あなたは驚いた顔をしながらも、急いで準備をしてくれた。
私はドアの前であなたを待つ。
その間も私はあなたとの思い出を振り返る。
二人で楽しく笑いあった日、喧嘩した日、仲直りした日。
全てが鮮明に蘇ってくる。
あなたは昔と変わらない笑顔で私の前に立つ。
「お待たせ」
あなたの声は私の耳に残る。
私は隣を歩くあなたと昔話に花を咲かせる。
住む世界が分かれる前の日までの。
その日が近づくに連れて私達の声が重くなっていく。
ついには私達が声を発することは無くなった。
あの日、私はあなたを見つめていた。
私が人に囲まれて笑うその先であなたと目が合う。
私の声は聞こえていたはずなのに、聞こえないふりをする。
あなたが私に向ける悲しい視線に私も気づいていた。
気づいていたけれど私にはどうしようもできなかった。
そして、あなたが私に向けた視線を逸したとき私の中で何かが終わった。
私の中でそれが一つの引き金となった。
パツンと弾けた思考の一部が視界にも現れて、目の前が歪み、私はその場に倒れ込む。
周りのクラスメイトは私のその姿を見て嘲笑する。
あなたは別の顔をしていたのかもしれないけれど、私には確認するすべがなかった。
次の日学校へ行くと花を渡された。
スノードロップと呼ばれる白い花。
その美しさに隠された真意を知った私は今日のことを決意した。
私に引き金を引いたあなたに今度は私が引き金を引く番。
あなたはそれを知らずに私の隣を歩く。
駅のホームについたとき私はあなたと言葉を交わす。
「ねぇ、あのとき目を逸らしたのはなんで?」
あなたはハッとしたような顔をして答えた。
「ごめん……」
あなたはそれだけを私に言った。
確かにそれ以上はどれだけ言葉を取り繕っても、言い訳にしか聞こえない。
それがあなたの最適解だと私も知っていた。
それでもやっぱり許すことは出来なかった。
電車の音が段々と近づいてくる。
私は線路に背中を向けた。
後ろの人は驚いていたけれど、これからもっと驚くことになるだろう。
最後の言葉は何がいいだろう。
あなたへ贈る最後の言葉。
電車の音が更に近づいてくる。
もう時間は無い。
そうだ……この言葉がいい。
これならあなたも覚えてくれるはず。
私は線路に飛び込んだ。
最後に満面の笑みを浮かべてあなたを見つめた。
私の視界の端に黒百合が映る。
「あなたも……苦しんで」
私は電車の音よりも深く、あなたの耳に声を残した。
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