第5話 変な姉妹に絡まれたチャリコギの『俺』

 小学生の『俺』は周りの人間よりチャリの運転がうまかった。人のいないところを狙って加速したまま急カーブするとか、より加速するために愛用車(ママチャリ)を改造したりとか、そういうことをしていた。

 今日もチャリを適当に走らせていたら、1人の同い年の女子に声をかけられた。


「ねぇ待って!!アタシに協力して!!」


 無視して通ろうとしたが目の前に通せんぼされたら止まるしかなく、『俺』は女子の言葉に従うことにした。

 女子は、道端じゃ話せないと言って『俺』を公園の端っこに連れて行くと、自分の姉も連れてきた。『俺』を連れてきた女子は小麦肌で快活、クラスのリーダーって感じの女子だが、姉は違った。顔は病人みたいに真っ白で全体的に細い、後喋ると時々咳をして苦しそうだったのが印象的だった。


「お姉ちゃんを連れ出して欲しいの。外に。」


 もう外じゃねぇかと言ったら、女子は首を振る。

 じゃあ何だよって思う前に事情を説明された。どうやら、姉とやらはこの世のものじゃない力を持っているということで、研究施設で閉じ込められているとか何とか。

 その研究施設は、才能を持った子供を研究する場所とやらで、姉は身体が弱く治療と研究を兼ねてずっと閉じ込められていて、妹の方はその姉を不憫に思い、ここじゃないどこかへ姉を連れ出したい、ということだった。

 そこで『俺』がいつも爆速でチャリを漕いでいるのを見かけ、『俺』なら姉を連れ出してくれると思ったらしい。

 病弱な人間を『俺』のチャリに乗せていいのかとか、そんなことは吹っ飛んだ。

 儚げ美人の姉が、お願いしますと言ってきたなら叶えられなきゃ男じゃねぇ、と思ったのだ。


「後ろに乗ってしっかり掴まれよ。」


 姉を後ろに乗せる。急遽2人乗りしやすいように改造して、負担がかからないことを確認すると妹と俺はチャリを漕ぎ始めた。

 妹が言うには、ここら一帯は研究者達の監視下に置かれているとのことで、この公園の森林地帯が唯一監視カメラだのが引っかからない場所だったらしいから、姉には隠れてもらっていたとのことだ。

 『俺』は別に特別な力だのはないから、この姉妹を監視外から離せばそれでさよならだ。 


「俺の道に文句言うなよ!!」


 『俺』は道路のない細道ばかり進んでいく。


「ねぇ!!どうしてこう言う道ばっか行くの!?」


「なんか検問見てーな場所まで遠回りだろーが、車で追っかける連中は全員撒けるからだぜ!!」


 妹がスピードを上げて俺についていく、よく見りゃ妹はマウンテンバイクに乗っていた。姉を乗せられるよう改造はされているが、あくまで乗せられるようってだけで、乗せて逃げられる風には作られていなかった。

 『俺』は細道を選んで進む。言っていなかったがチャリ狂の『俺』は、チャリが通れる道は全て頭の中に入っている。


「あそこが検問所か。」


 音を立てないよう足とブレーキを使ってチャリを止める。よくわからん機械が門みたいな形でデカデカと鎮座していた。これを見るのは初めてで、本当にこの地区はそんな研究所があるんだと実感できたが、関係ない。

 よく見れば、人がわんさかいて、まるで何かを待ち構えている風でもある。待っているのは絶対、『俺達』だろう。


「……あの、我儘を言ってごめんなさい。もう、いいですから……。」


 後ろの姉が、申し訳なさそうな声で、咳混じりに謝ってきた。女子1人の願いも叶えられなきゃ男が廃るし、この鉄壁の守りを破りもしないなんて諦めるなんて、チャリ狂なんて名乗れねぇ。


「妹、俺のチャリとマウンテンバイク交換しろ。俺のチャリなら漕げばスピードは自動でどんどん速くなる。姉貴と逃げたいんだろ。俺のチャリなら逃げ切れる。」


「それでもどうやってここを突破するのよ?」


「要はアレって機械なんだろ、エラー起こせばパニックになるんじゃね?」


 『俺』の考えはこうだ、あの門なり何なりを壊して、周囲をパニックにさせるところに俺がチャリで突っ込む、煽りに煽りまくっている隙をついて、ただのお飾りになった門を姉妹が通過する、という案だ。


「それじゃあ、私達が門を破壊すればいいわね。」


「そうね、私と貴女なら……。」


 姉妹同士が顔を合わせて頷く、どうやら機械系に強いようだ。それなら『俺』がやることは一つ。


「ひゃっはあああああああああ!!」


 物陰からマウンテンバイクのギアを最大にして飛び出す。と、白衣のまさに研究者って感じの連中が騒ぎ出す。チャリと同化した俺は風だ、何言っているのか知らないから、連中の周りを(ぶつからないよう注意しつつ)爆速で暴れ回る。


「オラオラオラあああああああ!!捕まえてみやがれえええええ!!」


 と、煽り散らす『俺』の脳内に、何かの映像が飛び込んできた。銀色と色付きの線が絡み合ってよくわからん何かを、誰かの手があれこれと千切ったりしている図だ。そう言えば姉は何かしらの力を持っているとか言っていたが、もしやエスパーか?

 まあそんなことはどうでも良かった。俺は2人から注意を逸らすためにマウンテンバイクで爆走を続ける。このマウンテンバイク自体がいいものだから、めちゃくちゃ改造して常にギア最大状態のまま漕ぎやすくしようと思っていたら、門が突然変な音を立てた。

 それから、別の場所へと進んでいく視界が俺の脳内に飛んでくる。


『ありがとう。』


 その言葉も一緒だったから、どうやら作戦は成功したらしい。門が壊れただの研究対象が逃げただので騒ぎまくる大人達を尻目に、俺は脇道へ速攻消えた。

 愛車(爆速ママチャリ)と引き換えにしたマウンテンバイクを改造して、明日からこいつを愛車にするぞ、で、終われば良かった。


 翌朝俺は、研究者と黒い車とヘリコプターに追われていた。


「止まりなさい。そこの少年、止まりなさい!!」


「クッッソ!!俺の自由を邪魔すんじゃねぇえええええ!!」


 車連中は細道がないのをいいことにしつこく追いかけてくる。運が悪いことに今日は細道が見つからない場所を走っていた。

 イライラした『俺』に、逆にこの新マウンテンバイクの速度の限界を試すチャンスじゃないか?と閃くと、自然とテンションが上がった。

 直線道の最中、速度を変えないで方向転換、からの元来た道を戻っていく。

 ヘリはともかく、車は急な方向転換なんてできない。車は動揺したらしく急ブレーキをかけたが気にかけている暇はない。『俺』はそのまま爆走して、知った細道を見つけるとそのまま突入、喧騒が遠ざかるのを耳で確かめつつ、研究者達との根比べといくか、そう思った時だった。


「は?」


 目の前に広がったのは『俺』の知る道じゃなかった。何チーム、何区、と書かれた部屋が並ぶ、建物の中。


「ようこそ僕たちの研究所へ。飛んで火に入る夏の虫、だね。」


 どこぞのスピーカーから同い年の女子の声。だが一人称が僕とか言っていてどっちかわからん。


「ここからは逃げられないし、逃すつもりもないよ。君を『こっち側』として歓迎するからね。」


 もっとわけわからんことを告げられる。『こっち側』ってなんだよ。

 だが、建物内をチャリで走ったことはない。向こうは俺を捕まえるつもりらしいが面白い。


「歓迎するのは、俺をチャリから引き摺り下ろしてからにしろよ。」


 ペダルに力を込める、道筋をある程度予測する。中の道は長くない。


「3番能力使用して!!絶対に捕まえて6区に連れてきて!!」


 疾走し始めた俺に、スピーカーから焦るような怒号が響いた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界系夢雑記 柴犬美紅 @48Kusamoti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ