第3話 探偵学校卒業前の事件の夢
探偵学校的な場所の生徒と言う設定に『自分』はあった。
異次元な仕事には興味を持つと言う性質がうまいこと働いたのか、優秀な成績を収めていたらしい。卒業の証に探偵専用の占いトランプが配られた、何故占い要素が入ってくるかは知らないが、成績優秀者に配られるらしいそれに、同級生は喜んでいたし早速使って自分のことを調べていた。
「ねぇねぇ、あんたこれからカード一枚選んでよ。」
興味がなくてトランプを閉まっていたら同級生の女の子が強引にカードを見せてきた。
自分は適当に選ぶと、彼女は早速占いの手引書みたいなものを調べ、自分にその結果を見せて嘲笑した。
「あんたは今は優秀だけど、そのうち落ち目になるってさ!アタシとは大違いね!」
偉そうに言う女の子と、くすくすと笑う周り。まあよく見れば自分の占い結果は『大器晩成型』とあり、元々優秀さを持っているが多大な努力と行動力を要すると書いてあった。
彼女はどうやら華々しい活躍が約束された生まれと結果が出たらしくそれを自慢している。自分が彼女より成績が良かったのが相当悔しかったからか声がデカかったし、ちょっと自分でも凹んだ。更に邁進せねばとはわかっているが、果たして自分にそんな度量があるか、とちょっと凹んでいたら、同じような絡み方をされた女の子がある一言を言った。まるで私にも聞かせるようにも思えた。
「どうして私達のこれからの活躍がトランプ一つで決まると思っているの?それはあくまでも判断材料の一つ、指標の一つでしょ、自分の行動一つでいい方向に変わるかもしれないし、そうやって胡座かいていたら重い描いていた結果になるとは思えないけど。」
女の子はクラスでも目立たない方だった。私とも接点はないが、黙々といい成績を収めているのを知っていた。クールな姿がかっこいい印象だったと思う。
帰るか、と思ってるとふと思い出すのは入学当初にスパルタ教育で徹底的にお世話になった先生のこと。眼鏡のクールイケメンというテンプレート極まりない先生に、挨拶をしようと考えた。というかお礼の品くらい持ってくれば良かったかもしれないが、見た目がいいから逆にないほうがいいか、と開き直って先生を探す。ちょうど授業が終わったのか先生は大量の荷物を抱えて出てくるところだった。教材と多分貢物的な何かだろう、持ちましょうかと尋ねたら大丈夫だと断られた。一年の頃お世話になった礼を言えば、先生は穏やかな笑顔を浮かべた。
「君は心遣いも勘の鋭さも群を抜いている。いい探偵になると思っているよ。私へのお礼の品を忘れたことを詫びたがとんでもない。これ以上渡されたら収納場所や消費にどうしよう思っていたところだった。」
一番厳しかった先生の中で、私の心象は良かったらしいことに驚いていると、先生は続けて聞いてきた。
「ところで、ブルーベリーは好きかな?」
「あ。はい、大好きです。」
「じゃあブルーベリージャムを卒業式の際あげよう。1人では消化仕切れなくてね。」
逆に物を貰ってしまう結果になった。人気あるイケメンの先生から物貰ったとか多分知られたら殺されそうだと思ったが貰えるものは貰う主義のため、ありがとうございますと返した。
視点が変わって、だ。卒業生の最後の課題として課せられたものがとある子供の護衛だった。
実は少年とは知り合いだった。探偵の実習課題で特別講師として話をした、父親が警官関係の最高峰の少年だ。それもあって彼自身も天才的な頭脳を持っていて、犯罪に関するあれこれみたいなものを教えてもらったエピソードがある(らしい)。
特別課題は自分1人が担当することになった。というのも、少年と最も息が合ったのは自分だけだったとの理由からだ。これで大犯罪だったらどうするんだ。
基本的に少年と自分は彼の部屋にいることになる。本棚の中に様々な勉強関係の本やら辞書、警察関係の教本が詰まっているが、実はその本棚に細工をして、彼の好きな趣味のゲームなどが隠してあることを知っている。パソコンは与えられている。プログラミングやそういった真面目な用途での使用は許されているがそれだけだ、少年はゲームや娯楽が禁止されていた。が、自分がその犯罪講義の中でゲームをやっているという話からうっかりオタク布教をし、その隠し方までも逆に教えていたらしい(何をしているんだ己は)。護衛1人が自分だけっていうのもそれが理由なのだろう。
父親や母親は仕事でおらず、護衛理由の概要としては少年に対し殺すというような内容の手紙が届くようになったり、実際に外出時に危ない場所へ突き飛ばされかけたりとか、もう手が出されている状態で自分がどうこうできる内容か?と疑問を感じた。下手しらた自分も死ぬのだが。
「まあとりあえずゲームしよっか。」
「いいのか?」
「今、リラックスしていたほうがいいと思うんです。たまに聞きたいことあったら聞いていいすか。」
「ああ、いいぞ!」
偉そうな口調のお坊ちゃんだが笑顔だった。いそいそと某ゲームを起動させ操作を開始する。音量は小さめにして響かないようにしている。
少年の環境は述べたように勉強に雁字搦めだ。今まではその環境に疑問を持ったことはなかっただろう
けれど、他者と接して、年齢が上がって、本当にそれでいいのかと疑問を持った時。
「君、最近父親と喧嘩した?」
「……。」
「君が危ない時、もしかして楽しいことがあった時じゃない?」
「え?そ、そうだ、何故わかったんだ?」
無言は肯定。そして続けた質問への驚きと答えに直感は当たる。
周囲を見回す。あからさまな監視カメラはない、しかし彼が、楽しいとバレているとしたら。
「ちょっと音量上げてゲームしてみて。」
「何故、だ?」
「犯人わかった。もしきても、部屋から出ちゃダメだけど、110番で『火事だ!!』的な嘘でっち上げといて。」
自分の推理は人の心から解くタイプだ。要は『動機』から入るタイプである。
対象の置かれている背景から、対象に危害を加えるために十分な動機を持つ人間から洗い出し、その人の最近の行動を改めて情報として集めるタイプ、というわけだ。
だが今回は、そんな悠長なことをしている場合じゃない。恐らく既に犯人は此方に向かっているはずだ。
「〇〇ぅ!!」
ガンガンと野太い声が響いて、ドアが開いた。もう既に、スーツが返り血で真っ赤な紳士が立っていた。
「どうして勉強をしていない?最近はずぅぅっと生意気だなぁお前はあ!!」
やっぱりな、と思った。少年はゲームを持ったまま固まっている。しかし自分はぐだぐだと人の御託を聞いている程優しい性格はしていないので、腰を低くして両手を広げて無防備な腹部に向かってタックルをかました。
まあ女性の渾身のタックルなんて大したものじゃないのだが部屋から出してひっくり返すくらいには不意打ち効果の威力はあった。チラ見した銃はすかさず抜き取って後ろに放り投げる。
馬乗りで、ついでにナイフっぽいヤバいものが手から離れていたからそれも遠くへ投げ飛ばしとりあえずマウントは取った。
「あんた、誰殺してからきた?」
「俺の邪魔をするやつだ。」
返り血をみて嫌な予感はしていた。母親は結構放任主義だが、この犯人、基父親に対して最近離婚を仄めかして、親権を持とうとしていたという情報もあった。
「人は成長するし、性格だってある。テメェの人形になんて一生涯ならねぇよ。」
「貴様のような人間がいるから!!あいつは変わったんだ!!私に間違っていると指図してきたのだ!!」
「間違っていることを間違っていると指摘して何が悪いんだか。あんた自分のやっていることが全て正しいと思っていたら間違いだよ。正しい部分だってあるし間違っている部分があることを認めない性格自体が間違ってるわボケ。」
こんな煽りまくって大丈夫かと思った。案の定めちゃくちゃブチ切れた男の顔が自分に拳振り上げようとしているし、と思ったら自分は自分でピックを懐から出して首筋スレっスレに突き刺したし、というかちょっと刺さって首から血出てるし。
「動いたら殺すぞ。間違っている人間を殺していいなら私もテメェ殺していいってことになるからねぇ。何故ならテメェ、もう犯罪っていう間違い犯しているしな。警察がしちゃいけないこと、してるもんな?」
サイレンが近づいてきた。ゾロゾロと警察やらなんやらがなだれ込んできて、自分にボッコボコにされる寸前な男が立たされ、連れていかれる。だらんとした身体は、自分の言葉が効いたのか何なのかは知らないが、力はもうなかった。
事情聴取に付き合わされる寸前、部屋で所在なく蹲る少年を見た。
少年は父親に憧れていた。厳しくても父親のような警官になることを夢見ていた。でも、時々でいいから遊びを許容して欲しかった。普通の子供のようにさせてほしいと願ったのだろう。
「君の父親は、間違ったことをしたけれど。君が目指そうとしていることは間違ってないよ。」
少年は涙で濡れた目をこっちに向けた。
「君がお父さんから貰った知恵は、決して無駄じゃない。そして君自身が君の考えを持つことも間違ってないから!!」
彼が父親全てを否定することはしてほしくなかった、だからそう叫んだのだろう。
少年の目に希望の光が見えた時、自分はほっとして警察へ同行したところで、目が覚めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます