第2話 蠱毒のヒロイン
4人のヒロインがいた。それぞれ聖女的な力を持っていて、世界を救うためによくわからない世界(もしくは魔界?)からやってくる魔物を倒す。そんなありふれた設定の世界だ。そう思っていた。
1人のヒロイン的な女の子が、魔物に致命傷を喰らわされた。即座に別のヒロインがその魔物を倒したものの、駆け寄った彼女は絶命寸前だった。そして悲しいことに、彼女だけが治癒の力を持っていて、自分達では彼女を救うことはできなかった。
結局彼女は絶命した。その瞬間、彼女の身体は光となって残ったヒロイン達に吸収される。無論、『私』にも。
それは彼女が持っていた治癒の力とその応用の術の知識……そして彼女の戦闘スタイルや『経験値』で、力が上がっていく。その感覚がもたらす意味に、ゾッとした。
ヒロインが死ぬと、『私』達は強くなった。それはつまり、魔物を倒すことでレベルを上げるよりも、同じヒロインを殺した方が、手っ取り早く強くなる。
面倒な戦いを終わらせる最短ルートであり、残酷な選択肢である。
だが、これに気づいたヒロインに自分が殺される可能性だってないとは言い切れない。『私』は周りを見回してみる。
誰もが流れ込んでくる彼女の力諸々に戸惑っているようで、その事実に気づいている様子はない。
一番最初にその事実に気づきそうなヒロインに目星をつけた『私』は、死にたくない一心でそれを決意した。
自分の力については正直よくわからないが、戦闘と殺人に特化したものだったと思う。己が抱いた敵意や殺意をそのまま魔力に変えられる、と言う感じだろうか。
『私』はその日の夜に、一番最初に目星をつけたそのヒロインの背後に立った。
ただ彼女も一筋縄では行かない力を持っていたのは覚えている。一番正統派ヒロインの力を持っていて、頭も良かったと記憶していた。確か、願いを力に反映させるなんてチートにも程がある力だったと思う。
「恨みはない、でも死にたくないんだ。」
『私』は彼女が何かを言う前にその頭に己の杖を叩きつけた。死ね、殺す、その殺意をありったけ込め魔力を宿した杖は、彼女の頭を見事に粉砕した。
力が入る感覚がする。彼女の力があれば、毎日死と隣り合わせな世界と早々におさらばできる。
『私』は正義感が強い方じゃない。ヒロインに選ばれた理由だって知らない。周りは正義感溢れた正統派ばかりで、自分だけが利己的で汚い人間に見えた。
そして今、ヒロインに相応しくないほど汚い人間に成り果てた。
朝を迎えて、『私』は最後に残ったヒロインと一緒に敵と対峙する。
彼女の力はわからない。しかし彼女が死んでも旨味はなく、性格も臆病で何より色々鈍いのに、悪は許せないと言う特徴があった。成長をテーマにすれば正統派ヒロインと言っても差し支えない性格の子だ。
彼女を守りながら戦いつつ、『私』はこの戦いを終わらせる一つの策を実行した。
その魔物は軍勢できた。その大将格らしき魔物に、杖を突き立てて『願い』を込めた。
『こいつを通して、世界から魔物が来ない障壁を!!』
『私』はそう叫んだ気がする。そして魔物から光が溢れた気がする。願いは発動したからきっと、成功したはずだから大丈夫だと思うけど。
何故全部気がする、なのかと言えば。
確実に術が発動したと確信した『私』は背中に、ドスンと衝撃を受けた。
「〇〇ちゃんを、殺したのは貴女なのね。」
振り向いたら、もう1人のヒロインが『私』にナイフを突き立てていた。
涙目には、『私』への憎悪で満ち溢れていた。
ああ思い出した、彼女は、『私』が殺したヒロインとはとても絆の深い幼馴染だったっけ。
あの日、一番聡い彼女を殺した日。経験値と光は1つだけ浮かび、『私』だけに吸収された。
つまり彼女の力を使った『私』を見て、この子は『私』が彼女を殺したことに気付いたのか。
夢だとわかっているからか、それとも最後まで『私』というキャラクターが性格が悪かったのか、憎悪を隠さないヒロインに向かって、言葉なく笑った。
(私はやっと楽になれる、せいぜい1人で頑張れよ。)
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