異世界系夢雑記

柴犬美紅

第1話 異世界を救わなかった『僕』の話

 これは自分というよりかは、自分が乗り移った男の子の視点で進む夢の話である。


 自分の視点には、制服を着た数人の男女が雲の上みたいなところに立ち、ゲームでで見るような神々しい杖を持った偉そうな子供の前にいた。

 髪色金色緑の瞳の美青年で頭に神々しい輪っかと白い衣装が印象的な少年だ。間違いなく神様だろうと思った。


「君達は不慮の事故にあって、本来なら死ぬ定めではなかった。」


 神様と仮定した少年は言う。


「お詫びとして、転生先でも困らないよう、好きな力をあげよう。」


 神様の言葉に、よっしゃあ!!と声を上げたのがいた。


 元は黒髪だろう金髪に染めて制服を着崩し、高校デビューが成功した雰囲気イケメンっぽい感じの謂わば陽キャラという感じの少年だった。


「じゃあ俺勇者みたいな力欲しい!!チート?ってやつ?あれがいい!!そんでモンスターとか世界救う無双してえ!!」


 彼は無邪気にテンプレート的な能力を神様に要求した。曲がりになりにも神様に対してその態度はないだろうとか思ったのは内緒である。

 同じく巻き添えをくらい死んでしまっただろう同級生の少女達は、戸惑いながら、能力は指定しなかったものの、陽キャラと同じ世界に転生したいと言う希望を告げていた。彼女の容姿は覚えてないが、美少女だった気はする。


「君は?」


 とうとう神様は自分に問うた。転生すると答える前に流れ込んで来たのは、憑依している『僕』の感情と、言葉の海。


『僕はこのメンバーで一括りにされているけれど、仲がいいわけじゃないんだ。イジメられていたわけじゃないけれど、いたら便利って扱いだ、例えばファーストフード店で、混んでる中席を取りに行かされる、戻ってきた皆は自分だけの分を頼んで、僕は自分で注文しに行かないといけない、どこかに遊びに行くのだって、計画を立てるのは僕の役目、面倒なことを押し付けていい存在なんだ。いやだ、死んでもこのメンバーと一緒なのは嫌だ。僕だって一生懸命明るい性格を目指そうとした、でもダメだった。滑稽だって笑われて、また此処でもそう言われるのは、便利に使われるのは、嫌だ、嫌だ、いやだ。』


「僕は転生したくないです。」


 彼の記憶が映像を流し込みかけた瞬間、口が動いた。自分が動かした。彼の湧き上がった感情を言葉だけでも理解できた、だからそう動かした。

 というか勇者みたいなチート能力が欲しいとか言い出す奴と行動を共にする選択をしたら、面倒ごとがわんさか待っているなんてお約束、よって自分も転生否定派だった。ちゃんと日本式の転生手順を踏みたい。


「わかったよ。」


 色々言われるかと思いきや意外にも神様は納得し、逆に驚いてこっちをみている転生希望な男女だけをさっさと光に包んで何処かへ飛ばした。

 さて取り残された自分はどうなるかと思っていると、神様は言った。


「君は転生を拒んだ。それはとても賢い選択だ。」


 唐突に褒め出した。


「彼らを送り出した世界は、今まさに破滅を止めねばならない世界。でもね、君が同行しないと止めることができない世界でもあったんだ。」


 神様の言いたいことが汲み取れない、それって逆に行けよと言うパターンではないのか?


「君に送る能力は抑止だった。要は使い過ぎをセーブする能力だね。」


 種明かしと言わんばかりに説明をする神様。その言い方や設定がマジなら完全にあの陽キャラに無能認定されそうなやつやなと思っていると、神様は悪戯っ子のような笑顔を浮かべた。


「ねぇ、抑止を失った彼らがどうなっているか、見てみたいと思わないかい?」


 自分がいないと救われない世界、救わないと選んだ世界。そこへ果敢にいったあのメンツがどうなるか確かに気にはなると思って、自分は頷く。


 すると神様は杖を振る。フワッと世界が色づいて、居酒屋見たいな建物の壁際に浮いている状態となった。


「君も知識としてなら知っているだろう、酒場は情報が飛び交う場であり、憩いの場でもある。」


 誰もが酒を飲み、談笑しているが浮いている自分達を気づくことはない。半透明な神様に自分がどうなっているかは察しているが、改めて自分がどうなっているか伝えられた。


「大丈夫さ、僕らは魂だけだから誰にも見えない。」


 やっぱりか、と思い、ワイワイガヤガヤと賑わうところを眺めていると、ある一つのテーブルから気になる会話が聞こえてきた。 


「最近グングン実力伸ばしてる若い勇者パーティーいるだろ?」


「ああ、すっげぇ強い魔法と剣技使う若いのな。」


「前に襲われそうになったのをあっさり助けてもらったんだよ、感謝してよぉ、別れようとしたら掴み掛かられたんだ。」


 酒で喉を潤した青年の言葉に、自分は凍りつく。


「顔見てびっくりしたよ、頬はこけてっしボロボロだし、必死の形相でさあ、何を言ってんのかさっぱりわからなくてよ、俺、怖くて逃げちまったわ。」


 隣の神様を見る。彼は笑っていた。


「君の存在がいかに大事なものだったか、彼らのことを見に行ってみようか。」


 神様が杖を一振りすればまたワープする。

 今度は夕暮れの森の中だった。禍々しいわけじゃないが日が当たらないせいでよく見えない。ただ、3つの影が蠢いて、次々と襲いかかる何かへ攻撃していた。


「ああくそ!!くそ!!休む暇もねぇ!!何で俺達には宿屋も酒場も見えねぇんだよ!!」


「何でよ、何でよ疲れてるのに、魔法なんてもう打ちたくないのに!!」


「なんで無限に使えるの?魔力って、魔法って、限度があるんじゃないの!?ゲームならありがたいけど、これはゲームじゃないでしょ!?」


 声に覚えがある。鎧は立派なものを着込んでいるが、顔が疲労で酷いことになっているのは陽キャラの男だ。かつて生気に溢れていたのにもう見る影もない。そもそもあの短時間で、彼らの時間はそんな強さになるくらい進んでいたことにも驚きだ。


 抑止力、自分に与えられるはずだった力。それはつまり、休むと言う当たり前の行為も含まれているとするなら、「休みたい。」という訴えすらも彼らは取り上げられたと言うのだろうか。

 意味不明な言葉が気味悪くて逃げた、と言う青年の言葉を思い出す。


「その通りだよ、ある意味、君は大事な役目を放棄した。」


 神様は告げる、責めるような言葉を使っているけれど、穏やかな静音だった。


「けれど転生するかしないかは自由な選択だ。君はしないことを選んでも良かった。」


 神様はがむしゃらに戦い続ける同級生を、冷ややかに見ていた。


「彼らは相当僕が与えたチートの力に溺れたんだろうね。だから伝説の鎧も、武器も、法具も、法衣も、杖もこの世界における最強のものなんだ。あの短時間でよくそれが眠るダンジョンを攻略出来たものだねぇ。」


 ダンジョン攻略とかあったのだろう、それこそ休まず最初は行ったんだ。でも。


「君がいたら、きっと無茶を止めただろう、皆の身体を労っただろう、でも彼らの性格だ。それを跳ね除け、むしろ疎まれて君は傷ついたことだろう。」


 それがわかったから、自分は転生を拒んだのだけれど、神様もどうやらその思考を汲み取っていたらしい。『僕』へ向ける顔は優しかった。


「君がいたら、休むことなく戦い続けることが辛いなんて知ることはなかっただろうね。もう遅いけど。」


 終わらない戦い、終わらない旅路、そこに憩いはなく息つく間も与えられず、彼らはずっとその役目を全うするまで戦うのだろうか。


「神様、僕は転生したくないです。」


「うん。」


 だけど抑止がないと、世界は救えない。それこそこの世界はずっと破壊が付き纏っていることになるとも言える。


「でもこの世界が破滅したら困るんですよね、だから、破滅を企てているところに抑止の力を与えるのってできますか?」


「ふむ、それはどう言う意味かな?」


「抑止の力をそのまま世界の破滅とかこの世界にとってよくないことにぶち当てておけば、僕がいなくても抑止力が働いて、世界の破滅とかが大丈夫になるかなと思ったんですけど。」


 自分と『僕』の思考が混じった提案に、神様はきょとんと目を丸くした後、お腹を抱えて笑い出した。


「あはっははっはははははは!!最高の提案だ!!君は本当に英雄になりたくないんだねぇ?」


「僕は僕の世界での輪廻転生がしたいです。」


「そうかい、分かったよ。けれど抑止力を使えるのは君だけだ。僕がサポートして、その力を与え、世界の巨悪に抑止力が与えられた結果を見届けてもらいたい。」


「それならいいですよ。」


 ありがとう、と神様は笑ってまた杖を振った、降り立ったのは黄金の玉座。そして、玉座の上に黄金の地球儀みたいなのが浮いている。敵らしいものは何もいないが、ギンギラ金色の装飾は目が痛いなと思った。


 そうして自分は『僕』として神様の杖に、手を添えた。杖の矛先は地球儀を指していた。


「さあ見届けてくれ、抑止が生まれる瞬間を。」


 そうして真っ白い視界に包まれて、夢はそこで、終わりを告げた。

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