第9話 突然の来訪
うーん、暇だ。
この国を占領して十日経ったのだが、特にやることがなくて私は暇をしていた。
占領した翌日は城下町を見て回ったり、元兵士達の相談に乗ったりしていて良かったのだが、それは日を追うごとに減っていった。
また、町でも見て回るか。
と、王座から腰を上げようとしたところで、この王の間に繋がる扉がノックされた。
「陛下、商人を名乗る者がぜひお目通りを、と来ておりますが如何いたしましょう」
やっと商人が来たか。
君主が変われば体制が変わる。体制が変われば商売も変わる。この国が変わったことを知れば、鼻の利く商人なら必ず訪れるだろうと思っていた。
私は右肘を肘掛けに立てて頬杖を突き、左腕は普通に肘掛けに乗せ、右脚を左脚の上にクロスさせて脚を組む。
父上が良くやっていたスタイルだ。昔は偉そうで嫌いだったのだが、今では気に入っている。血は争えないものだ。
「入れ」
ゆっくりと扉が開かれ、中に入って来たのは意外にも若い女だった。赤い髪を後ろで短めのポニーテールにまとめており、目の色も同じ赤色で、小さな丸いフレームの眼鏡をかけ、革製のカバンを肩からたすき掛けにしていた。
てっきり小太りの髭を生やした中年男とばかり思っていたのに、拍子抜けだ。
彼女は私の目の前に来ると膝を付き首を垂れた。
「皇帝陛下に付きましてはご機嫌うるわ――――」
「ああ、そういうのはいらん。堅苦しいのは好きではない。いつものお前通りで話せ」
彼女は顔を上げニヤリと笑みを浮かべると、姿勢を崩し床にあぐらをかいて座った。
「いや~、助かるわ。あたしこういう堅苦しいの苦手なんだよねぇ」
急に砕けた口調になる彼女。
早まったか?
「まずは、名を名乗れ」
「おっと、そうだった。あたしはガレア・クレイン商会の商人、ルメア=バークレン。ここに寄ったのはこの国が急に変わったからと、こんなバカなことをするのがどんな奴か興味あったから」
ふざけた一言にイラッと来た。
くだらん用事なら殺すか。
「死にたいのか?」
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って! 前の国王の時はまともに取り合ってもらえなくて何も出来なかったからさ、今日は真面目に取り引きの話しをしに来たんだよ」
いつもより低い声で脅すと、彼女は両手を振り弁解した。
「それなら町の人間とせよ。彼らに全て一任してある」
「なるほど、それなら後で彼らと交渉してみるよ」
本来なら国で管理すべきなのかもしれないが、私一人では難しいだろう。今はまだ小さな国なので、細かい話はグイン達に任せてある。
「あともう一つ、この国に入るのに一切お金を取られなかった。通行証などの提示も必要が無い。なにか狙いがあるの?」
「特には無い。商人からすれば気軽に取り引きに訪れやすい国となるだろう、と考えただけだ」
「なるほど」とルメアは首を縦に振って頷く。
「ただ一つ条件がある」
「条件?」
「この国で100万リベの取り引きをして欲しい」
私の言葉にルメアは一瞬目を丸くし、すぐさまカバンから紙とペンを取り出して熱心に何かを書き始める。
しばらくしてから彼女は顔を上げ、
「それは無理だよ」
「それは何故だ?」
「これは別に嫌がらせとか適当に答えてるんじゃないよ」
先ほどと同じように声のトーンを落として聞いたのだが、彼女は真剣な表情のまま一歩も引かなかった。
「この国に来た時にお店を見て回ったんだけど、あたしの見る限り多めに買ったとしても、そこまで行くような商品はなかった。無理に買い込めばこっちが在庫を抱え込んじゃうことになるし、食品なんかはダメになれば赤字に繋がる」
そうか。前の国王のせいで廃れていた分、そもそも取引するための商品すら少ないというわけか。
さてどうするか。
いや、せっかく商人がいるのだし、それは彼女に考えさせるか。
「ならば――」
「お話し中失礼致します!」
私の言葉を遮り、突然王の間の扉が勢いよく開かれた。
「何事だ?」
入って来たのは商人をここに連れて来た元兵士だ。
彼は慌てた様子で倒れ込むようにルメアの隣に膝を付くと、呼吸を整えてからこう言った。
「陛下、隣国が――セルガナが攻めてきました」
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