第8話 国のあるべき姿

「あるべき姿……ですか」


 グインに続き隣にいた兵士が口を開く。


「そうだ。私はこの国に入った時に思った。寂れ過ぎている、とな。それはなぜだ?」


 兵士達がお互い顔を見合わせる。だが、視線を交わし首を振るだけで私の問いに答える者はいない。


 まさか、長い間この状況であった為、慣れてしまい理由を忘れたか?


「お、おそらく……税が高すぎるせいだと、思います」


 答えが返ってきたのは兵士達からではなく、か細い女の声だった。


 いつの間にか兵士達の後ろに一人のメイドが立っていた。


「メイドか。お前一人か?」

「は、はいぃ! 他の方は皆逃げてしまいました」


 答えながらメイドは頭を下げる。

 おそらくディエヌにこき使われて癖がついてしまっているのだろう。


「頭を下げなくても良い。続きを話せ」


「は、はい……この国の現在の税率は80パーセントです。他の国に伝手がある者、お金に余裕がある者は皆早々に国を出て行きました。ですが、それ以外の者は他に行く当てもなく、高い税に苦しみながらもこの国で生きていくしかないのです」


「はち――!」


 彼女の答えに私は思わず驚いて叫びそうになった。


 ルーネンブルク王国でも税率は20パーセントくらいだった。それでもたまに税の引き下げを巡って暴動が起きる程だったのだ、80パーセントでよくも今までやってこれたものだ。


「わかった。今日からこの国の税率は1パーセントとする」


「「なッ! い、1パーセント!?」」


 今度は兵士達が驚きの声を上げた。そんな中、メイドは冷静に念を押して確認してくる。


「よ、宜しいのですか?」

「これでも不服か?」

「い、いえ! 滅相も御座いません!」


 そしてまた頭を下げる。


「今までディエヌはそうやって私腹を肥やして来たのだ。何かあればその金を使えばよい。それに、私はそれほど金に興味はない」


 兵士達は顔を見合わせ、小声で意見を交わし合う。

 こればかりはお互い納得した形の方がいいだろう。完全に無くせと言うならば、無くしてしまっても構わないと思っている。その場合は他の問題が起こる可能性もあるが……。


「まぁ、ディアーネ様が良いというのでしたら、断る理由はありません」


 グインが代表して私に返答する。

 どうやら皆納得したようだ。


「それでは、次はお前達兵士の処遇だ」


 その一言で周囲に緊張の色が走る。おそらく言いたいことはあるだろうが、そこは訓練された兵士として、次の私の言葉をジッと待っていた。


「この城の兵士は全員解雇とする」


「そ、そんな……」

「兵士を辞めたら俺達はどうしたら……?」


「知らん。お前達の好きな仕事をするといい」


 この城には私がいれば他の兵士は必要ない。自分より遥に弱い者を守りに付かせても意味がない。


「それともう一つ。この国に入る時に求められた許可証とはなんだ?」


 前に訪れた時にはそんな物はなかったし、わざわざ入るためにどこかで許可書をもらわないといけない国なんて聞いたことが無い。


「半年ほど前から急に始まった制度です。隣国のセルガナにて許可証を購入しないとこの国には入れません。しかも1回入るのに一万リベと高額。そのせいでこの国を訪れる商人はいなくなり、この国は完全に孤立した状態になったのです」


 今度はグインの後ろにいた兵士が答えた。


 これも寂れた原因の一つでもあるというわけか。


 それにしても、セルベラとセルガナ――名前がかなり似ている。姉妹国か、友好国なのだろうか? それでセルガナから許可証を買わないといけないとなると、セルガナもこの国から金をむしり取るのに一枚噛んでいそうだな。


「わかった。今後この国を通る者からは金は取らないものとする」


「え……無料にするのですか……? お言葉ですが、どの国も200リベ程は回収しております。ですので――――」


「不要だ」

 

 グインが進言してくるが、私はそれを一蹴する。


「はっ。も、申し訳ございません」


 普通の国ならばそれで十分なのだろうが、この国の現状は普通ではない。それに、許可証が無いと入れないと思っている商人が多数いるはずだ。なんとか一人でもいいから商人と交渉し、この国の悪いイメージを払拭せねばなるまい。


「他になければ解散とする。明日から励むが良い」


 私の言葉に兵士達は今一度姿勢を正し、口を揃えてこう言った。


「「陛下の仰せのままに」」

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