第7話 忠誠

「ヴァルフォリア帝国……」

「そうだ。今からここはヴァルフォリア帝国とする」

「し、しかし……こんな小さな国が帝国だなんて……」


 困惑する兵士達。

 気持ちは分からないでもないが、私の意思に彼らの思いは関係ない。


 私は数歩後ろに下がり王座に腰をかける。右腕で肘掛けに頬杖を突き、左手は肘掛けに乗せ脚を組む。


「お前達が気にすることではない。国などいずれ大きくなる」


 言うだけなら何とでも言える、とはまさにこの事なのだろう。兵士達の困惑は収まるどころか、より一層騒がしくなった。


 だが、その騒然とした状況を打ち破るように、一際大きい声が響き渡った。


「帝国だろうと何だろうと構わない!」


 全員が声の主へと注目する。それは、私が両腕を切り落とした兵士だった。両腕が無い状態でよくここまで来れたものだ。


「あんたに忠誠を誓う! だから……だから妻と子供だけは護ると約束してくれ! 俺はもうこの有様だ、どうなったっていい。だから、妻と子供だけは俺がいなくても不自由ない暮らしが出来るようにしてくれ!」


 その兵士は私の数メートル前まで来ると、崩れるように頭を地面に付けた。


 家族持ちか。

 だが、なんで私がこいつの家族の面倒を見る必要がある?


「忠誠を誓うのは構わないが、裏切った場合は即殺す」

「あぁ、それで構わない。だから家族を――」


 希望にすがる様に顔を上げる兵士に、しかし私はこう言い放つ。


「断る」


 予想していなかった答えなのか、兵士は馬鹿みたいに口を開けたまま固まった。


「グイン……」


 別の兵士が両腕のない兵士の名を漏らす。


「私はお前の家族の面倒など見ない。お前の家族はお前がしっかり守れ」


 左手を肘掛けから離しパチンと指を鳴らす。 


 その瞬間、再生の力により目の前の兵士の両腕は、一瞬にしても元の正常な状態へと復元された。


「「なッ――――!」」


 驚きの声が幾重にも重なって聞こえた。


「腕が、元に戻った……。な、なぜ――?」


「お前は私に忠誠を誓った。つまり、お前はもう私の国の民ということだ。国を治める者が民を助けるのは当たり前だ」


「あ、有難う御座います!」


 今度は両手を地面に付けて、グインは再び頭を下げた。


 なぜ礼を言うのか。

 主が部下を守るのは当たり前のことだし、そもそも腕を切り落としたのは私だ。


 ――やはり平和ボケしている。


「俺も忠誠を誓います!」

「俺もだ!」

「私も、一生貴方に付いて行きます!」


 口々に「忠誠」を口にする兵士達。誓えば腕を治してもらえると考えているのが丸分かりだ。こんなことで戻してやっては真の意味での忠誠は得られない。おそらく治した瞬間に斬りかかって来る奴もいるだろう。ほとんどの兵士は剣を持っていないが、ここから見る限り三人は剣を持ってきている。腕を失ってなお私を斬るという意思の表われだ。


 だが、見せしめとしては丁度いい。


「わかった。そこまで言うなら全員治してやる」


 再度左手で指を鳴らす。

 全員の腕が瞬時に再生され、歓喜の声が湧き上がる中それは動いた。


 上手く他の兵士達の陰を利用し、私に可能な限り近付いてから三人の兵士は私に斬りかかって来た。一人は両手で剣を持ち上段から、もう一人は中段から心臓を目掛け突きを、最後の一人は動きを封じるためか足を狙ってきた。


 いい連携だが、愚かにも程がある。


 パチンと三度を指を鳴らすと、三人の兵士の姿は黒い炎に呑まれ消滅した。


 他の兵士達の歓声がピタリと止む。

 同僚が目の前で処刑されたのだから無理もない。

 だが、私は忠告はしている。


「裏切者は即殺すと言ったはずだ。お前達も気を付けることだ」


 脅しのつもりで言ったのだが、兵士達は予想に反し冷静で、私の前で綺麗に整列して並び全員が一斉に膝をついた。


「「我々はディアーネ様に忠誠を誓います」」


「う、うむ……」


 正直ちょっと面食らった。いきなり自分達の国を支配し、生殺与奪まで握られたというのに、ここまでのことが出来るというのか……。


 もしくは、元国王がよほど酷かったか……。


「ならばそろそろ話し合おうか」


「話し合う、とは?」


 隊列の一番前にいたグインがそう問いかける。


「この国のあるべき姿についてだ」

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