第3話 命尽きる時

 ルーネンブルク王国に戻って来た私は、外から王城内に直接繋がる隠し通路を進んでいた。どの王城にも必ずと言っていい程設けられている、王族専用の脱出通路という奴だ。

 ここから城内に行けば町の人とは顔を合わせずに済む。


「本当に現れたわね――ティア」


 しばらく進んだところで、私の前を塞ぐ者が現れた。


「フィリア姉様……」


 ドレス姿の彼女の隣には護衛の兵士が二人立っている。


 彼女は今までもずっと優雅な暮らしをしてきたのだろう。私は国を出る際に目立たない様に町でよく見かける服に変え、それも長い旅と襲撃のせいで今ではただのボロ切れのようになっている。


「あいつの言った通りね。さぁ、ティアを捕えた者には彼女を好きにする権利を上げるわ」


 とんでもないことを言いだした。

 昔のフィリア姉様では絶対にそんなことは言わない。

 何か、何かがおかしくなっている……。


「「うぉぉぉッ!」」


「エアロ・ブラスト!」


 正面から襲い掛かる兵士二人を風の魔法で吹き飛ばす。魔法抵抗力が高いせいか、フィリア姉様には効いている様子はない。


 しかし、狭い通路の中、しかも相手の良く知る場所で戦うこと自体、私には無謀であった。


「――ッ!」


 どこに潜伏していたのか、背後から別の兵士に腹部を貫かれる。視線を下げると、赤い液体を滴らせた銀色の刃が、文字通り体から生えていた。


「かはッ!」


 呼吸をしようとすれば逆に血が吐き出される。


 ズルリと剣を抜かれ大量の血液が体外に噴出し、私は冷たい石畳の上に倒れ伏した。呼吸すらまともに出来ない…………これは、もう駄目かもしれない。


「最後に何か言いたいことはあるかしら?」


 体を屈め、倒れた私に顔を寄せるフィリア姉様。

 私はわずかに動く唇で問う。


「な、なんで……こんなこと……」


「なんで? あなたが真の王位継承権を持つからよ! 丁度1年前にお母様は言ったわ。あなたが王位を継げるようになるまでは、私が女王になりなさいと。私はあなたが王位を継げるようになったらお払い箱なのよ! なぜ私ではダメなのか何度も聞いたわ! でも、あなたには向いていない……いつもそれしか言われなかった! だから、私が女王であり続けるにはあなたが邪魔なのよ!」


 そ、そんな……なんでそんな、ありえないこと――。


 もう、口も動かせず意識もほぼない。


 なんで、私がこんな目に――?


 私だけがこんな目に――。


 悔しいという気持ちが徐々に膨れ上がり、それはあるところで怒りに変わった。


 私だけなんて不公平過ぎる。なら、いっそのこと――!


 私は最後の力を振り絞り懐にある石に指先を触れる。

 指先だけで十分。ここに意識を流し込めばそれで発動する。

 

「お下がり下さいフィリア様! マジックウォール!」


 聞き覚えのある声が聞こえたと思った瞬間、私の周囲を青い半透明の壁が覆う。それと同時に黒い石が発動し私の体を黒き炎が包み込んだ。


「こ、これは……?」

「最後の力で恐ろしい魔法を使用されたようですな。それは魔炎と呼ばれる対象を燃やし尽くすまで決して消えない炎です。しかも、その炎で燃やされた後は骨どころか、灰すら残りません」


 痛い。熱い。悔しい。憎い。なんで私が――。


 世界のどこにも私の味方はいなかった。


 こんな世界、滅んでしまえばいいのに。


 こんな世界、無くなってしまえばいいのに。


 ――いや、そんな他人任せで満足は出来ない。

 

 力が欲しい。全てを破壊する力が! 何でも出来る最強の力が!


 そして、この世界を私が――――――。

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