第2話 私の居場所
「さっさと出ていけ」
王城から町へと続く門に差し掛かったところで、私は背中を押され強制的に門の外に出された。
思わず振り返りここまで連れて来た兵士を睨みつける。
「「も、申し訳ありませんティア様!」」
恐れをなしてか、兵士として身に着いた習性か、二人の兵士は深々と頭を下げた。
「お待ちくださいティア様」
その兵士達の背後から、聞き覚えのある声が私の名を呼んだ。
黒い紳士服に白髪の頭と髭、齢70近いその老人は昔から私の世話をしてくれたセバスだった。本名は他にあるらしいのだが、彼の要望によりそう呼んでいる。
「セバス……」
「これを」
そういって彼が手渡してきたものは、金貨20枚は入っているであろう袋だった。
「これは……」
「どうかご無事で」
お父様の最後の情けだろうか? それともセバス自身の最後の餞別か……。
返事はあえて返さない。
私は金貨の入った袋を受け取り、その場を後にした。
町の中を歩けば罵倒、侮辱、軽蔑の声と眼差しが次々と飛んでくる。
だが、それもこの国を出るまでの我慢だ。
私は所詮次期王女でもなんでもないただの第二王女。遠い国まで行けばきっと私のことなど知らず、気にもかけられないだろう。
そう、旅立つ前は思っていた。
だが実際は違った。
隣国ツーベリヒ共和国、さらにその先のヴィアーナ女帝国、さらにその先の――。
どこまで行っても私に対する対応は変わらなかった。
その理由はこの世界が平和過ぎることにあった。300年程前までは勇者と魔王がこの世界の覇権と平和を巡って争っていたらしいが、それも今では全くと言っていい程なく、人間達と魔族達は住む大陸を別けてお互い干渉することなく生活している。
そのため平和に飽きた人間達は刺激に飢えていた。そして、そこに起きた今回の事件。その噂はあっという間に広まり、どの国に行っても私の顔は知られており、酷い国では賞金首にされていた。それもただ首を獲れば金が貰えるものではない。生きたまま捕えるのが条件というもの。捕らえられた後、どんな奴の下に連れて行かれるのか、考えただけで吐き気がする。
ただ、事あるごとに襲撃は受けていたが、あいにくと私は風の魔法が扱えるため、妨害、速度上昇、飛行によりその都度上手く逃げて来た。上級の冒険者がいなかったのも幸いした。平和になったとはいっても世の中から魔物がいなくなったわけではないので、私を捕まえるために動く冒険者はいなかったようだ。
しかし、もう疲れた――。
逃げ続けること約1年。訪れた国の数も小さな国を入れて100を超えようとしていたところで、さすがにセバスからもらった路銀も尽き掛けていた。このまま逃げ続けるのはさすがに無理がある。
一度国に帰ろうか……。
もしかしたら、この1年でお父様もやり過ぎたと後悔しているかもしれない。
もしかしたら、フィリア姉様なら探してくれているかもしれない。
もしかしたら、セバスならなんとか助けてくれるかもしれない。
…………。
生憎と、今いる国からは船で一日かからない。
そう思い船着き場に向かう途中のことだった。
「もし、そこのお嬢さん」
いかにも怪しげな黒いローブの男が、私の進路上に突如として現れた。
さっきまでこんな奴……いた?
声の感じからするとまだ若い男の人のようだが、目深に被ったフードのせいで全く顔が見えない。
「――酷い絶望と悲しみを感じます。さぞ苦労されてきたのでしょう」
慰めて何か怪しげな宗教へ勧誘するのかと警戒する。
男は懐から黒い石を取り出し、強引に手渡してきた。
本当に真っ黒な謎の石。何かのアイテムだろうか?
「死ぬ間際に使うと良いでしょう。黒き炎が周囲を包み込み、あなたと対象を灰すら残さず燃やし尽くします。その時もしあなたが――」
男の言葉が途切れた。
ふと石から視線を戻せば、黒いローブの男の姿はどこにもなかった――。
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