第4話

 それから半年後。

 貴族学校の卒業を待つことなく、アリーシャは隣国のルートリヒ大公家に嫁ぐことになった。

 それというのも、メリアの叔父であるルートリヒ大公が今回の騒動を聞き、いよいよ年下の妻を迎え入れる覚悟を決めたのである。

 元々、ルートリヒ大公はアリーシャのことを心から愛していた。

 しかし、10歳以上も年下の少女から愛されているという自信が持てず、婚姻を先送りにしていたのである。

 アリーシャがあくまでもルートリヒ大公を夫として決めており、メリアから『叔母』と呼ばれているのを受け入れていると聞き、結婚に踏み切ったのだ。


「これで本当に親戚になれたわね。メリア!」


「うん、改めてよろしくね! アリーシャ叔母さん!」


 結婚式の前日、アリーシャがメリアの屋敷を訪れた。

 2人の少女は抱き合いながら、改めてお互いの絆を確かめ合う。


「それにしても……メリアは良かったの? あんな男と結婚をすることになってしまって……」


 王太子のことを『あんな男』呼ばわりして、アリーシャは不安そうに姪の顔を覗き込む。

 国のために、混乱を避けるためにあえて嫌な立場を受け入れているのではないかと気遣うが……メリアの顔に浮かんでいるのは満面の笑顔である。


「もちろん、いいわよ! 最高じゃない。国王になった夫の弱みを握ることができるなんて!」


 今回の騒動を許すにあたり、メリアは王太子にいくつかの条件を認めさせている。


条件1

 王太子の方からメリアと別れることはできないが、メリアはいつでも婚約破棄または離縁することができる。


条件2

 王太子は側室や愛人を持つことはできない。これはメリアとの間で子供が生まれなかった場合も同様であり、その場合は他家から養子をとるものとする。

 万一、王太子がメリア以外の女性と子供ができたとしても、その子供に王位継承権は発生しない。


条件3

 王太子はメリアと別れた場合、強制的に王位継承権を失う。また、すでに王位についていたとしても退位して、他の王位継承権者に玉座を譲らなくてはいけない。


条件4

 離縁または婚約破棄した場合、王太子は過失の有無に関わらず個人財産の90パーセントをメリアに譲らなくてはいけない。


条件5

 王太子がメリアと別れた場合、王族としての地位を失って平民落ちとする。

 なお、ここでの「別れる」には「死別」も含まれる。


 これらの条件を認めさせたことにより、王太子はメリアに完全に頭が上がらなくなってしまった。

 メリアに見捨てられたら王位を失って平民になってしまうのだ。これから一生、メリアの顔色を窺って生きていくしかない。

 条件5で死別も平民落ちの条件として追加させたため、暗殺などの強引な手段を使うことも不可能である。それどころか、自分の地位と人生を守るために全力でメリアの安全を守るしかなかった。


「私は叔母さんのことを苛めたりしていないけど……『悪役令嬢』と呼ばれていたのは間違いじゃないかもしれないわね」


 実質的に国の支配者となったメリアは、そう言って愛しい叔母に笑いかけたのであった。




 その後、アリーシャは望み通りに大公妃に。メリアは王太子妃になった。

 異なる国に住んでいた2人であったが、その後も二人は仲睦まじく交流を続け、両国の友好関係を守り続けたのである。




おわり






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悪役令嬢と「オバサン」令嬢。クラスメイトをオバサン呼ばわりしていたら、王太子から婚約破棄されました。 レオナールD @dontokoifuta0605

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