第2話
後日、ミゼは父親と一緒に王宮に呼び出された。
「どういうことですか……私と王太子殿下との婚約を継続したいとは? おまけに、私を側妃にして、あの男爵令嬢を王太子妃にするですって?」
「……仕方がないのだ」
ミゼが咎めるような視線を向けると、国王が気まずそうに視線を背けた。
「レオナルドは私のただ一人の息子。失態を犯したとはいえ、王位を継ぐ者は奴しかおらぬ。馬鹿な息子を支えることができる令嬢は才女であるミゼ嬢を除いて他にはいないのだ」
「だからといって、王太子殿下はお咎めなしですか? 他国の来賓もいる前であんな失態を犯したというのに?」
「……レオナルドにも罰は与えた。今は自室で謹慎させている」
国王が言い訳のように言った。
そういう問題ではないし、レオナルドがしでかしたことを考えると謹慎で済まされるわけがない。
(国王陛下が殿下に甘いことは知っていましたが……まさか、これほどとは……)
国王は決して無能ではない。
真面目で国を愛し、誠実で他国からの評判も良い。
国民からは名君と讃えられているのだが……唯一の欠点が亡き王妃の忘れ形見である息子に甘いこと。
溺愛されて育ったレオナルドはすっかりワガママになってしまい、結果として夜会での婚約破棄騒動を招いてしまった。
「レオナルド殿下が失態を犯したのであれば、王弟殿下の御子を王太子にすれば良いでしょう」
厳かに口を開いたのはミゼの父親――アローサイト侯爵である。
人並みに自分の娘を可愛がっている侯爵にとって、国王の沙汰はとても許せるものではない。
「幸い、王弟殿下には二人の男子がおります。そのどちらかを陛下の養子として新しい王太子とするのは如何でしょうか?」
「ぐっ……」
侯爵の言葉に国王が怯んだ。
その反応から、国王の本心が窺える。
(……結局、レオナルド殿下を見捨てたくないということね。殿下の立場を奪いたくなくて、私に無理を押し付けようとしている。なんて愚かなのかしら)
「そもそも、どうして娘が側妃にならなくてはいけないのです? あの
「そ、それは……レオナルドがどうしても男爵令嬢と結婚したいと、側妃であればミゼ嬢を妃にしても良いと言っているから……」
「何だと!? あの男、娘を何だと思っている!?」
いよいよ怒りが抑えきれなくなったのか、アローサイト侯爵が声を荒げた。
親子そろって、どこまでもミゼのことを馬鹿にしている。
これまで王太子の婚約者として、ミゼがどれだけレオナルドに尽くしてきたと思っているのだろう。
(甘やかされたせいで勉学が不出来な殿下のために政務の一部を引き受け、亡き王妃様の代わりに王妃の職務を代行し……王家のためにと働いてきた結果がこれとは……)
「父上、もう良いです」
「ミゼ?」
ミゼは諦めたように首を振って、父親の腕を引いた。
「私は国王陛下の命を受け入れます。一度は婚約破棄をされた身ですが……王太子殿下の側妃になりましょう」
「なっ……本気で言っているのか!?」
娘の言葉に侯爵が目を剥いた。
「早まるんじゃない! お前があんな無能のために犠牲になることはない!」
「父上、冷静になってくださいませ…………わかっていますよね?」
「うぐっ……」
言い含めるような娘に侯爵が言葉を詰まらせる。
この国は王政国家。当然ながら、もっとも力を有しているのは国王であり王家だった。
王と貴族が争えば、最終的に勝利するのは王の方だ。
(となれば……ここでいたずらに国王と争うのは得策ではありません。王への無礼を理由に父上のほうが処分されてしまう)
「国王陛下の申し出を謹んで受けさせていただきます。ただし……いくつか条件を付けさせてください」
「おお……やってくれるか! わかった、如何なる申し出も王の名の下に受け入れようぞ!」
国王が表情を輝かせる。
ミゼはそっと溜息をつき、いくつかの条件を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます