謎スキル『血糖値』のせいで王太子妃の座を奪われて側妃になりましたが、それなりに幸せです。
レオナールD
第1話
この世界にはギフトと呼ばれるものが存在する。
種類は様々だ。【剣術】や【火魔法】などの戦闘に使用することができるものもあれば、【鍛冶】や【錬金術】のように物を生み出すことができるものもある。
そんな中で、侯爵令嬢にして王太子の婚約者であるミゼ・アローサイトが授かったのは何に使えるのかもわからない不思議な名称のギフトである。
そのギフトの名前は【血糖値】。
誰も授かったことのない、何の役にも立たない謎ギフトであった。
○ ○ ○
「ミゼ・アローサイト! お前との婚約を破棄する!」
とある夜会で突如として放たれた婚約破棄宣言。
当事者であるその令嬢――ミゼ・アローサイトは瞳をパチクリとさせて固まった。
指を突きつけ、とんでもないことを言い放ったのはミゼの婚約者――レオナルド・ローウッド。この国の王太子である。
「えっと……突然、何の話でしょうか?」
「貴様のような無能なギフトしか持っていない女は王妃にふさわしくない! 私はここにいるルミアを妃とする!」
言いながら、レオナルドが一人の令嬢を抱き寄せた。
桃色の不思議な色合いの髪を伸ばした小柄な少女である。
「あなたは……メイロン男爵令嬢よね?」
「まあ! ヒドイですわ、こんな大勢の前で男爵令嬢と侮辱するなんて! 侯爵令嬢だからって、そんなふうに私を見下さないでください!」
「いえ……別に見下しているわけではないですけど……」
取り乱す令嬢にミゼは困惑した。
男爵令嬢を男爵令嬢と呼ぶことの何が侮辱なのだろう?
ルミア・メイロン男爵令嬢がショックを受けたように泣きまねをすると、レオナルドが表情を怒りにゆがめてミゼを怒鳴りつける。
「貴様、いい加減にしろ! 王太子妃にして次期王妃であるルミアを苛めるなど許さぬ! 恥を知れ!」
いや、恥を知るべきなのはそちらのほうだ。
王家主催の夜会で騒ぎを起こして、公衆の面前で国王陛下が定めた婚約を破棄しようとしているのだから。
「レオナルド、これは何の騒ぎだ!?」
来賓の相手をしていた国王が慌てて駆け寄ってくる。
父親である国王の問いに、レオナルドが胸を張って答えた。
「王家に分不相応な女を婚約破棄しているのです! こんな何の役に立つのかもわからない無能なギフトの所有者は私の妻にふさわしくない!」
「なっ……貴様、正気か!?」
レオナルドの発言に国王が身体をのけぞらせる。
ギフトというのは名前の通りに神からの贈り物。
ギフトを侮辱するということは、それを授けた神を侮辱することにも繋がってしまう。
仮に【盗み】や【殺人】といった明らかに犯罪的な内容のギフトの所有者であったとしても、それを理由に差別することは許されないのだ。
「この女が【血糖値】というわけのわからないギフトであるのに対して、ルミアは【美貌】という素晴らしいギフトを持っています! 彼女こそが王太子妃にふさわしい!」
「…………」
国王の顔が失望したものになる。周囲で様子を窺っている夜会の出席者も白い目になっていた。
「……この話は後日、改めて話し合うものとする。王太子は疲れているようなので別室に連れて行くように」
「へ……父上、私は……」
「早くしろ! 衛兵!」
「はっ!」
「こ、コラ! 何をするか!? 父上、私の話はまだ終わっていませんぞ!?」
衛兵が王太子の両腕を掴み、引きずるようにして夜会の会場から連れ出していく。
「ちょ、さわらないで下さい! 私は王太子殿下の婚約者ですよ!?」
男爵令嬢もまた衛兵によって連れ出されていく。
夜会に静寂が戻ってくる。国王が疲れきったように肩を落とす。
「……夜会を再開する。引き続き、楽しんでいってくれ」
「…………」
国王の宣言によって夜会が再開されたが……その場にいる誰もが、先ほどの出来事が気になって料理や音楽を楽しむどころではなかった。
「……私も失礼いたします。ちょっと
ミゼがそう言って会場を後にするのを、止める者は誰もいなかった。
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