いわゆる新人冒険者
「お待たせいたしました。茂三様と虎子様、お二人の『
この言葉を聞いた五人、そして周囲の人間が一斉に笑いだす。
「ヒャハハハッ! 聞いたかよ! あのジジイとババア、新人だってよ!」
「いいぜ! 受けてやるよ! DランクのスナイパーとFランクの死にぞこないに何ができる!」
「なんだ! 冷やかしかよ! あの年で新人って、ただの死にたがりか!」
「やめとけやめとけ!腰痛めて動けなくなったら魔物に食われるだけだぜ! 家で大人しくしてろや!」
更に周囲の暴言はどんどんエスカレートする。
ミリアは周囲の反応に圧倒されるが、唇をグッと噛んで耐える。
茂三と虎子は不敵な笑みを浮かべたまま、微動だにしない。
そんな中で、ザムは大きく両手を開き、胸の前で強く叩いて合わせた。
ドパァン!
火薬を破裂させたような巨大な音、巨大な圧縮空気によって発生した強い衝撃が一階フロアを走り抜ける。
周囲は一瞬で沈黙し、ザムは真顔で言った。
「うるせえぞお前等……‼ この場は俺が仕切ってんだ。三人のことをこれ以上侮辱すんなら俺にケンカ売ってると判断して、叩き潰すぞ‼」
青筋の浮いたスキンヘッドが本気でにらみを利かせると、こうも迫力のあるものか。
子供なら泣き出し、夜泣きと失禁は確実である。
ザムは茂三に近寄ると言った。
「私のギルマス権限でミリアとお二人のチームを認めます。元々あなた方はパーティですし、あいつらも認めましたし。しかし、ご老公。さきほどおっしゃった四千万ゴールドをちゃんとお持ちで?」
もし持ってない場合私が背負うことになるんですけど……とザムは小声でささやく。
「ワシャこう見えても『魔物素材卸問屋』の隠居での。この程度のものなら持っとるよ」
茂三は虎子のサンドバッグ型次元収納袋に手を入れて、もぞもぞと探す。
「おお、あった。ちょっとみんな避けてスペースを作ってくれ」
虎子のサンドバッグ型の次元収納袋から、巨大な蛇の頭を引きずり出す。
「うおおおおっ!?」
巨大な蛇の頭がカウンター前に突如現れた。
血抜きはしてあったので下が血だらけになるようなことはなかったが、それでも生臭い。
サイズは明らかに入らないのだが、魔法で入るのがマジックバッグ(次元収納袋)だ。
「なんじゃこりゃああっ!?」
「こ、これはっ・・・・・・キラーアナコンダの頭!?」
「うおおっ!? でけえ!」
「マジか!?」
「あのジジイ何者だ⁉」
茂三は蛇の頭をキセルでノックすると言った。
「こいつの胴体ももちろんある。皮から骨、内臓から肉に至るまで売り飛ばせば四千万ぐらいは行くじゃろ?」
「確かに・・・・・・行きますな。胴体まで揃っていれば、1億まで軽く届くでしょう」
「じゃったら、掛け金は『1億』でええよ」
茂三の言葉に会場は興奮のるつぼに。
「しかし、ご老公・・・・・・どうやってこんなものを手に入れられたのですか?」
「ほっほっほっ。入手ルートは秘密じゃよ。卸問屋じゃから、仕入れ先を掴まれたら潰れるじゃろ」
そう言って蛇を小突きながら笑う。
まるで倒した直後のような鮮度。
頭部に穴がある以外はほぼ無傷で、商品としては極上だ。
思わぬ逸品の登場に、解体場から職人たちも飛んできて、驚嘆の声をあげた。
「これは何の騒ぎですか!?」
その時、蛇の頭を避け、騎士団二人が茂三の下に駆けつけた。
駆けつけたのは奇しくもサファイア部隊のフェネルとローレンスであった。
「あっ! 茂三先生!」
「茂三殿!」
フェネルとローレンスが茂三の傍に駆け寄り、敬礼する。
二人はザムにも気づき、こちらにも敬礼した。
(な、何で騎士団があいつらに挨拶なんか⁉ 『先生』だと⁉)
騎士達の行動により、ヘイトたちを強い動揺が襲う。
「おや、サファイアの二人でないか。ここで何しとるんじゃ?」
「サファイアって『ファウンテン侯爵私兵騎士団』のサファイア部隊か!? なんであの二人に敬礼しているんだ?」
周囲が先程と異なるざわめきに変わる。
「何をって……虎子殿と茂三殿、それにミリア殿を探していたのです」
「何じゃ? ワシら騎士団に捕まるような悪い事しとらんぞい?」
「そうではありません。先日の件で王が御三方をお呼びなのです」
「あー……」
ファウンテンは茂三たちを冒険者ギルドに行かせてくれたが、騎士団は王の説得には失敗したようだ。
「
「それはもうすごい剣幕でして……」
「それは大変じゃったのぉ」
「何を人ごとのように……」
「じゃけど、ワシら今忙しいんじゃもん」
「それは、この蛇と何か関係が?」
フェネルは蛇の頭を見上げ、対面にいる五人へ視線を移す。
蛇の頭は一度見たシロモノゆえ、驚きはなかった。
「それについては俺から話そう」
ザムがフェネル達に事情を説明する。
しばらくの間、ザムが一連の流れをかいつまんで説明すると、フェネルは「なるほど」と前置きしていった。
「それでしたら、この一戦はザム様、あなたの管轄の下、王宮で行ってはいかがでしょう?」
フェネルの一言で周囲のざわめきが困惑の色を帯びる。
「と、いうと?」
「殺人未遂の疑惑のかかった五人と、茂三様達。つまり、勝利した方の言い分が通る『
「なるほどな」
デスマッチ。
この世界ではさして珍しくない、王宮管理下でのみ行われる、決闘制度である。
双方の主張が食い違い、一歩も退かぬ際、双方合意の下、決闘にて決着させる方式である。
「お二人の闘いは、兵たちにもとても勉強になると思います」
本当はミリア殿も……と言いかけたが、ミリアに関しては口外するなと言われていたので、フェネルは口にしなかった。
勝手に話が進んでいるが、その間、『風雲の刃』は生きた心地がしなかった。
窮地に追い込まれたヘイト達は、視線は茂三たちの方を向いたまま、魔法『念話』で話をする。
この魔法はポピュラーで、声を出すことの出来ないダンジョンや状況も存在するため、パーティーを組んだメンバーの間ではほぼ必須である。
ギルド内だけの話なら、何とか他国に逃げたり誤魔化したりもできたかもしれない。
だが、騎士団が絡むとなると話は別である。
ファウンテン私兵騎士団も然り。
彼らは侯爵の私兵騎士団として存在するものの、王宮騎士団と肩を並べる存在である。
彼らに楯突けば、世界中の王国騎士を敵に回すこととなり、逃げ切ることはほぼ不可能だ。
だが逆に考えれば、勝てば過去の罪全てが無罪放免。おまけに1億ゴールド。
虎子たちのことを先生と呼んでいる理由は不明だが、相手はただの小型六発銃を使うDランクスナイパーと、魔物問屋の高齢者である。
どのみち避けられない闘いなら、王の前で強さを示して上を目指す方が良い。
もし強さが目に留まれば、王宮騎士団から声をかけられる可能性だってあるかもしれない。
もちろんクルスト王国ではもう無理かもしれないが。
試合には勝っても噂が噂を呼び、居づらくなるのは明白だ。
だが、国外ならば、あるいは……である。
ザムは『風雲の刃』に言った。
「王宮で闘ることになりそうだが、問題ないな?」
ヘイト達は視線を合わせ、頷いた。
「ああ。だが、俺達が勝ったら無罪確定と1億ゴールドだ。分かってんだろうな」
視線の先はもちろん茂三。
茂三はニヤリと笑って言った。
「ほっほっほっ。無論じゃよ。勝てば全てを手にし、負ければ死ぬ。決闘とはそういうものじゃ」
「決まりだ。フェネル、ご老公たちをすぐにお連れする。
指示を出すザム。
その貫禄は『世界最強のギルドマスター』に相応しいものだった。
「はっ!」
ザムの言葉にフェネル達が敬礼する。
二人はすぐにギルドを飛び出すと、王宮に戻って行った。
二人を見届けると、茂三は蛇の頭を袋に戻し、ザムに渡した。
「では、この蛇はザム殿に預けましょう。もし眠らされて奪われでもしたら大変じゃ」
かっかっかっ! と高らかに笑う茂三。
サンドバッグを受け取ったザムは、(そんなこと不可能でしょう)と一人心の中で笑った。
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