霊界の日常 ~茂三と愉快な天使たち~

 ワシの名は鬼龍院茂三。


 つい先日、霊界に来た爺じゃよ。

 婆様が先にこの世を旅立ったんで、ワシも一緒にと思っての。


 どうやったかって? 簡単じゃ。体内に流れる気を、意図的に極限まで弱めた。


 そしたら体内の臓器が活動を止めて、それからはあっという間じゃった。


 

 そんで、霊界に来たのはええんじゃが、色々あって『悪霊を地獄に送る予備裁判官』というのに任命されたんじゃ。


 『予備』というのは、このあと本裁判もあるっちゅう事なんじゃが、ワシらが受け持つ霊は霊界に来た時点で地獄行きがほぼ確定しとるような奴らばっかりでな。


 本裁判は良い霊も悪い霊も受ける裁判で、かなりの数があるから、もう予備裁判で地獄行だけは先にやってしまおうという話らしい。



 良い霊たちの行く来世も、現世での善行に応じて幾つかに分かれとるそうな。


 詳しくはまだ知らんが、地球に戻ったり、動物や別のモノになることは、基本的には無いそうじゃよ。

 特例については知らんから、シルヴィちゃんに聞いてくれ。



 ところで、ワシらがこの霊界に来て一週間が経った。


 こちらの生活にも慣れてきたのでな、今日はワシの住んどる霊界のことを、ちょっとだけ紹介するかの。

 


 さて。着任早々、婆様が列におった悪霊どもを片っ端から殴り倒したおかげで、今の霊たちはかなり大人しくなった気がするのぉ。


 時には昔の挑戦者だった輩もおって、たまに面白い戦いが見れることもあるぞい。

 


 『天』という場所には時間の概念が無いそうじゃが、一応霊界では地上の時間の流れを知ることができるぞい。

 

 別に日が昇るわけでも沈むわけでもないんじゃけどな。


 


 さて仕事のことについてじゃが、ワシら天使は基本『しふと制』じゃ。


 ワシや婆様が入ったので、現在は三交代になっておる。



 コンビは婆様とワシ、ジェームズとキャサリン、レイファイとルミエルの三組じゃ。


 他の天使もたまに入るが、ワシらの列は基本的にはこの六人じゃな。


 ワシと婆様は地球出身じゃが、他の四人は『別の所』から来たと言うとった。



 天使にはそれぞれ『専用の部屋』が与えられておる。


 勤務時間以外はその部屋で何をしてもよいことになっとって、特に決まりはない。



 部屋はお主らが知っておるアパートの一室みたいな感じではない。ドアを開けると特殊な空間が広がっておって、驚くほど広い。


 部屋には許可なく他の者は入れんし、覗くこともできん。


 部屋の音は外に漏れんし、中で大暴れしても大丈夫じゃ。小さな『治外法権区域』かの。


 

 ところで、大天使ジョーゼフ様が、この責任を下さる時に言うとった。


 ワシらは『来るべき時に次の場所に行く』と。


 つまり、ここに永久就職っちゅう訳ではないようじゃ。


 婆様とならどこにいても旅は楽しいじゃろうし、暇もせんとは思う。

 


 じゃが! しかしじゃ!


 ここの天使さんはみんな別嬪で、仕事のために『聖なる眼鏡』を掛けとるのじゃ!


 

 わかるか皆の衆!


 美少女天使・美女天使が神の作りし最高傑作の眼鏡を掛けておるのじゃ!(男は省略じゃ!)


 ワシは正直、この『眼鏡っ娘パラダイス』から、離れとうはない!


 彼女たちは、ワシと目が合うたびに「茂三さん♡」って手を振ってくれるんじゃ!(一部妄想)


 あのレンズの向こうから向けられる笑顔のためなら、漢・茂三! 何でもやってみせるぞい!


 悪党でも鉄砲でも何でも来いじゃあ――――っ‼



 ・・・・・・いかんいかん。取り乱したわい。


 とにかく、じゃ。『別の世界』へ行くのであれば、それまでにその世界に合った『体』を作っておかねばならん。


 仕事の合間に修業を積み、もっと強くならねば!


 次の場所では、もしかすれば簡単に死にかねん。


 

 神様は寝なくてもええし、食事も食べんでもええ。なぜなら神様は『完全体』じゃからな。


 いうても、普通の天使も体が弱るようなことはないんじゃが、ワシらは神様とちょっと違う。


 完全体じゃないから、なにぶん体を鍛えんといかんでの。


 鍛えれば鍛えた分、更に強くなれる。こっちの言葉で言えば『神様に近づける』のじゃ。


 天使といえど休息と食事は、肉体の強化には必要なんじゃ。(たぶんな)



 不思議なのは、霊界にいる間は『加護』かなんかで基本的には死なんが、次の世界では『死ぬ身体』なんじゃ。


 面白いのう。



 そんなわけで、ワシらの修行時には、他の天使をときどき招くこともある。


 主なメンバーはさっきの四人じゃ。


 生まれは別の星じゃから、ワシらでいえば宇宙人かの?


 宇宙人も見た目が人間じゃったんじゃな。その他の星は知らんけど。



 なんでも元々ワシらは神様から霊の子供として生まれたから、違う星で肉体を受けた宇宙人も、地球人のワシらも神様と同じような姿かたちをしとるらしい。


 星は違えど人類皆兄弟・・・・・・なるほどのぉ。


(まあ、そんな兄弟を婆様は連日殴り倒しとる訳じゃが・・・・・・)


 

 彼らの力は面白うて、『魔法』というものを使える子もおった。


 地球では何百年も昔、魔法は絶えたと聞いておったが、他の世界では普通にあったんじゃのぅ。


 ここでは『神聖魔法』と呼ぶ者もおるよ。


 なんでも、では恐竜のような巨大な魔物や、悪魔の力を持った『魔族』という輩がおり、そいつらと闘うためには必要な能力だったそうじゃ。



 魔法だけではない。


 面白い剣の達人もおる。レイファイがそうじゃ。



 レイファイは美男子で、前世では『勇者』と呼ばれる職だったらしい。


 魔法と剣を自在に操り、強力な力をもって魔物と闘っておったと。


 

 じゃが、婆様と初めて手合わせをした時、言うとった。



「虎子殿は魔物より恐ろしい・・・・・・」とな。


 その時のレイファイの顔は忘れられん。



 彼らとの手合わせはいつも勉強になる。


 地球では想像もつかぬ攻撃が来るし、魔法にいたっては全てが初体験じゃ。


 じゃが、婆様はどれもが楽しそうでの。


 火の中、水の中、風の中、土の中、雷の中・・・・・・どれも喜んでとったわ。


 『どんな攻撃でも逃げない!』が婆様のポリシーじゃから仕方がないが・・・・・・。


 良い子はマネしちゃいかんぞい。


 

 ジェームズは銃の使い手で、ニヒルな笑顔がよく似合う男。


 キャサリンはその妻で、前世での職は同じくスナイパー。じゃが、本職はガンスミス(銃の整備師)兼・銃鍛冶師らしい。


 あやつらの持つ銃は、この世界の霊を撃つことのできる特製銃で、悪霊に対してトラブルが起きた時に使用許可が出とるらしい。


 他にもこの世界の金属で作った実弾銃やら魔法銃を持っておる。無論、これらは修業中も使えるぞい。



 ジェームズの早打ちは恐ろしく正確で、どんな体勢からでも撃ってくる。おまけにケンカも強い。


 婆様と防御なしで殴り合えるタフガイなど、奴以外にはそうはおらんよ。


 今じゃすっかり『拳で語り合う仲』じゃわい。


 前世では超一流の傭兵・スイーパーじゃったらしいが、病に倒れたそうじゃ。

 本当のところはわからんが、「そういうことにしといてくれ」と言うとったからの。



 最後に、眼鏡っ子のルミエルちゃんはワシの師匠じゃ。


 

 彼女は前世で回復魔法や補助魔法を得意とする魔法使いだったらしい。


 レイファイは攻撃魔法を得意としておるが、それ以外は『からっきし』だったようじゃ。


 ルミエルちゃんは回復魔法や補助魔法に関してはぴか一で、今ワシは彼女に師事しておる。



 眼鏡っ子に手取り足取り教えてもらう幸せ・・・・・・‼


 天使になって本当に良かったわい。



 ところで、なんでワシが魔法を学んでおるかと言うと。


 それは大天使ジョーゼフ様から、この仮の肉体を授かった時に言われたことに起因しとる。


 ワシらは『新しい場所に適応するための能力を授かる事となる』と言われたんじゃ。



 ワシらが行くかもしれぬ世界は魔物や魔族が存在するために、地球の能力だけでは手に余るそうじゃ。


 そのために、新しい能力を授かることになったんじゃが・・・・・・。



 授かる能力には2つのタイプがあった。



 一、ワシらの持つ『気』を、向こうの世界に合わせて強化する。それによって気を物質化したり、空を飛んだり出来るようになる。


 二、ワシらの持つ『気』の根源を、魔法を使うための力『魔力』に代えて、魔法を使用できるようにする。



 そしてこれに、個人が必ず1つは授かる『賜物』という能力が与えられるそうじゃ。『ぎふと』とも呼ばれるらしいの。


 これは地球人も同じで、この賜物を見つけ、努力して伸ばした者は、『天才』や『秀才』と呼ばれる存在になる。


 幾種も存在する賜物のなかで、自分の賜物を見つけ、伸ばすことができれば、その領域に辿り着く可能性があるわけじゃ。



 そして、ジョーゼフ様によれば、その世界では1つ目の『気』を極める者を『オーラマスター』と呼び、2つ目の『魔法』を極める者を『大賢者』と呼ぶらしい。


 婆様は迷わずオーラマスターになる道を選び、魔法を拒んだよ。



「プロレスラーが魔法を使ってどうするんかね」と言うとった。


 ワシ的には魔法も面白いと思ったんじゃが、婆様は根っからの『筋肉思考』じゃからのう。


 

 対して、ワシは魔法を身に付ける道を選んだ。


 ワシも気を操る者として『オーラマスター』の道にも行きたかったが、婆様を守る者として、魔法も必要かと考えたからじゃ。

 とはいっても、限られた時間で全部は無理じゃ。修行をやめれば衰えるしの。魔法は必要なものだけ教わることにした。



 ジョーゼフ様によると、オーラは肉体と精神の強さに比例する『命』の力。魔法もその命の力の一部を変化させたもの故、オーラと魔法がぶつかる時でも、強い方が勝つと言うとった。



 じゃったら、オーラマスターになって最強のオーラを身に付ければ無敵ではないか?とワシは思った。


 じゃが、ルミエルちゃん曰く、オーラマスターという存在は言葉では聞くものの、自分の時代には見たことがなく、目指す者もほぼ居ないという。


 そこがワシには疑問じゃった。

 その質問にレイファイはこう答えたよ。


「オーラとは生命力そのものです。オーラは気力であり、体力そのものと比例します。つまり、オーラは気力が続く限り、強力な戦いができますが、オーラが尽きることは『死』を意味します。対して、魔力は変化した『別の力』なので、魔力が尽きても死ぬことはありません。仮に魔力が尽きても、生命力を強引に魔力として使うこともできます。そして何より、魔法はそれぞれの魔法により使用する魔力量がほぼ決まっており、少量の魔力で大きな力を使うことができます。だから、みんな安全で汎用性の高い魔法に行くんです。そして、魔法の威力や効果は、その個人の魔力の質の高さに比例します。同じ魔法でも新人と大魔導師では威力も効果も全くレベルが違うのです」


 ・・・・・・いや、説明長いわ。


 まあ、分かりやすく言えば、気でも魔法でも『強い方が勝つ』っちゅうことじゃな。


 そんなわけで、ワシはルミエルちゃんから魔法を学んでおる。


 

 レイファイは攻撃魔法も教えようとしてくれたが、そちらは遠慮した。


 攻撃魔法を学ぶ間、オーラを鍛えることは難しい。補助魔法もまた然り。


 結果、ワシは攻撃魔法を学ぶより、補助魔法を学び、残りは『気』を鍛える選択をした。


 補助魔法を徹底的に磨くと、そのうち応用で『固有魔法』も使える様になるらしいからの。楽しみでならん。



 オーラを徹底的に鍛える婆様と、魔法を駆使して鍛えるワシ。どっちが強くなるか楽しみじゃわい。



 随分話がそれたが、それらの知識を持って、ワシらは仕事と修行に励んでおる。


 次の世界に行くのはいつになるか分らんが、それまで自己研鑽を怠らぬようにせねばのう。




※ ※ ※


 そしてそれから約一年後、大天使ジョーゼフ様から再びお告げがあった。



「鬼龍院茂三、虎子両名を、一年後『ノア』に送るものとする」

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