第2話 結婚しましょう


「あ、あのー、昨日の私がアナタに送ったメッセージのことだけれど……」


 お嬢様はそこまで言うとしばらく間を置き、


「わ、忘れてくれないかしら?」


 泣きそうな目でそんなことを言うのだった。

 しかし、そんなお嬢様に対し俺は……。


「無理ですね。写真にも俺の脳内にも永久保存しましたので」

「なんでそんなこと言うの!? いつもは言うこと聞いてくれるじゃない!」


 俺の返答に対しお嬢様はかなり慌てた様子。

 いや、今まで基本的にお嬢様の頼みは聞いてきたよ? でも、でも。


「すみません、お嬢様。俺は今生まれて初めて貴女の命令に背きます」

「なんでこのタイミングで!?」

「よし、じゃあお嬢様もノリノリだと言うことが分かったので早速結婚届を出しに行きましょう!」

「出しに行かないわよっっっ!!」


 なんでお嬢様があんなメッセージを送ったのかは分からないがどうやら内容は本当にそう思ってくれてることがお嬢様の態度から分かったのでここで攻めないというのは無理がある。


「大丈夫ですよ、お嬢様。結婚届って堅苦しく見えますがお嬢様と俺が必要なこと書いてそこら辺歩いている人に一筆書いてもらえれば承認されるんですよ。さぁ、レッツ結婚」

「しませんよっっっっ!!!」


 いつものように全力でNOの意思を示してくるお嬢様だが今回ばかりはわけが違う。


「昨日の……俺への愛の告白は嘘だったんですか? 俺の純情を……裏切るんですか?」

「ぐっ」


 俺の言葉を聞きお嬢様は悔しそうな表情を見せる。なにがあったかは知らないがあんなメッセージを送ってしまったのだから多少自責の念があるのだろう。そこを攻める!!


「俺の……お嬢様との子供が欲しいというこの純粋な気持ちを裏切るんですか!?」

「その純粋な気持ちの裏に不純な気持ちが凄いあるように感じるんですが」

「要するに1発____」

「やっぱり純情でも純粋でもなく不純じゃないですかっ!」


 顔を更に朱色に染めてそんなことを叫ぶお嬢様。ふむ。どこが悪かったのだろうか?


「じゃあ、もう少しオブラートに包んでロボット物風に言わせてもらいますと、お嬢様と合体した____」

「包めてないから! オブラートから飛び出してきちゃってますから」


 ……完全に隠せたなと思っていたのだがお嬢様は不服らしい。少し疲れたようにため息をつくお嬢様。……少し困らせすぎたかもな。


「すみませんお嬢様、俺もやりすぎました。とりあえずまずは落ち着いて結婚届を出すところから始めましょう」

「そうね、最初はゆっくり____ってしませんからっっ! なに、どさくさに紛れて結婚させようとするんですか!? 大体そもそも年齢が達していないですよ」

「お嬢様……愛に年齢など関係ないんですよ?」

「結婚に関しては法が関係するわよ!」

「では、年齢が達すれば結婚してくださるんですか?」

「……しないわよっ」


 お嬢様が自らの美しい金髪をいじりながら俺の顔も見ずにそう答える。


「でも、お嬢様が俺を愛しているという証拠写真があるんですが」

「なっっなに、スクショしてるのよ! 早く消しなさい」


 俺がスマホを取り出して証拠のライ◯のメッセージを見せるとお嬢様が耳まで赤くし手で消すようにジェスチャーする。しかし、そんなことより。


「お嬢様……スクショ知ってたんですね」

「馬鹿にしすぎじゃない!? ってか本当に早く消しなさいっ」

「無理ですね。お嬢様から初めて貰った愛の言葉ですので」


 俺はそう言いながらスマホを鞄へと戻す。お嬢様から軽い悲鳴が聞こえた。


「さっ、じゃあ学校に行きますか」


 そして俺はお嬢様の手を取ると市役所バージンロードへと向かって歩き出し____。



「手を勝手に繋いだ上に一体どこに向かおうとしてるのよっ」


 たところでお嬢様に手を振り払われてしまう。……残念だ。最高の気分だったのに。


「まぁ、いいですよ。この写真をお嬢様のお義父さんに見せれば結婚出来るので」

「最悪すぎるんですけどぉっ!?」


 お嬢様のお義父さん何故か俺のことすげぇ好きだからな。お嬢様が俺を好きだと言っているところを見せれば1発だろう。


「じゃあなんでこんなメッセージ送ったんですか?」

「事故よ。事故なの本当に忘れて」


 まるで悪夢を語るかのごとく遠い目をするお嬢様。よく見てみれば目もあまり開いておらず少しクマもあるように感じた。


「はぁ、そこまで言うならしょうがないですね。忘れることにします」

「雷太!……」


 俺がそう言うとお嬢様はとても嬉しそうに顔を輝かせる。そして俺はそこで笑うとお嬢様の手を再び取り今度は学校へと向かい歩き始めた。


「行きますよ? 俺のことが大好きなお嬢様?」

「結局忘れてくれてないじゃないですかっ」


 そしてお嬢様はとうとう諦めたのか手を振り払うと俺と共に歩き始めるのだった。



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