第90話

「只今戻りました」


「お疲れ様でしたバーグさん。首尾はどうですか?」


「ダンジョン内に黒帝はいませんでしたが、古代種、名持ちネームド骨人の王スケルトン・キングがいました」


「そうですか。しっかり片付けられました?」


「はい。私が戦ったのは文体でしたが、ティルファが本体を消滅させました」


「消滅……。ではやはり昨晩のあれはティルファのでしたか」


「ええ。ですので心配はいりませんよ」


「わかりました。報告ありがとうございます」


「では私は坊ちゃまの執事に戻ります」


 バーグはそう言ってサティラのいる部屋を出ていった。


 ★


 昼飯を食べ終わったクリストフはまた七色鉱石の使い道を考えていた。

 だが一向に決まることはなく、たまにアリスに呼ばれて身体を動かしてはまた考えを繰り返し、いつの間にか午後の授業が終わり、下校の時間になっていた。


「クリス。大丈夫?」


「ん?なにがだ」


「いや。今日ずっとなにか悩んでいたみたいだから」


「別に大したことじゃないから大丈夫だぞ」


「そう。ならいいけど」


 クリストフはアリスから心配されるほど悩んでいることが顔に出ていたという事実に驚いていた。

 自分ではそのようなつもりがなくとも、心配をかけるような表情をしていたことにまだまだ未熟だとクリストフは考えていた。


 その後もいろいろなことを話しているうちにアリスの自宅前に到着し、クリストフはそこで別れを告げて家に帰った。


 ★


「お帰りなさいませ、坊ちゃま」


「ただいまバーグ。あと、任務ご苦労さま」


「いえ、大したことはしておりません」


 バーグはこんなことを言っているがクリストフは相手の強さを多少はわかっているつもりだ。

 少なくともティルファが深淵魔法を使わなければ確実に消滅させることが出来ないと判断するほどの実力の持ち主。

 それを相手して大したことはしていない、と言えるのは世界中を見ても数えられるほどしかいないはず。

 クリストフは改めてバーグの実力を感じていた。



 クリストフはバーグと話したあとすぐにサティラに呼び出され、ティルファとバーグが何をしてきたのかを説明を受けた。


「じゃあまだ黒帝は生きているのか……」


「そうね。相手の戦力は削れたけど黒帝がまだ生きてるから戦力はまた戻されるかもしれない。けど古代種のような変えの効かないものは殺せたから収穫はあったわ」


 クリストフたちが危険を覚悟でこのようなことをしているのには理由がある。

 魔人たちは魔王復活のために生贄を集めようとしている。

 その生贄に最も適しているものが人間であり、その人間が集まる二大大国の王国と帝国はこの十年ほどで関係が悪化し、敵対している。

 その悪化も恐らくは魔人が関係している。

 十中八九魔人たちはこの2カ国で戦争を起こし、それによって生じた大量の死体を贄に魔王を復活させるつもりだ。

 クリストフたちはこれを阻止するため、魔人を少しでも暗殺しようとしているのだ。


「黒帝の暗殺はどうするんだ?」


「多分黒帝はこれからしばらく表舞台に顔を出さないはず。だから一度諦めて、別の魔人を殺すわ」


「別の魔人はどうやって探すんだ?」


「クローゼ様の研究結果で探すつもりだから……」


「しばらくできることはないのか」


「ええ。だから研究結果が出るまではいつも通りの仕事を頼むわ」


「後手に回っているな。早く研究が終わったらいいが……」


「今は仕方ないわ。研究さえ終わればこっちからいくらでも奇襲をかけれるから」


「そうだな。今は学園対抗戦に向けたことを進めておくよ」


 話が終わるとクリストフは部屋を出ていった。


 ★


 三週間後、帝国の動きもなく、王都はクリストフの尽力あって大きな事件は起こらず、学園対抗戦の本番日を迎えた。

 学園対抗戦が行われるのは第一、第二、第三学園の丁度中心に位置する王立公園だ。

 王立公園は小さな町と同じ程の大きさを持ち、様々な施設が設置されている。

 学園対抗戦ではその数ある設備の中の一つである闘技場で行われる競技が一番人気がある。


 学園対抗戦の開会式は毎年闘技場で行われ、今年の開会式の司会は第一学園の番であった。

 はじめに第一学園の理事長の開会の言葉があり、その後生徒会長のラディアンスの生徒代表の言葉があった。


 開会式の終了の言葉に合わせて毎年恒例の魔法師による花火が派手に打ち上げられ、今年のこの時期がやってきたのだと国民は皆感じ、お祭りムードとなっていた。

 そんな中、お通夜ムードになっているものがいた。

 それはクリストフだ。


「はぁ……。今年の始まったな」


「坊ちゃま。今日から大変だと思われますが、頑張りましょう」


「あぁ、頑張るよ。それでバーグはあの話はどれくらいあると思う?」


「……今の状況下では十分有り得る話だと」


「だよな。だからバーグも動くんだもんな」


「そうです。ですが私たちの出番がないことが理想ですね」


 クリストフとバーグが話しているのは一週間前に帝国内にいるティルファたちからもたらさせた情報のことだ。

 その情報は帝国が王国弱体化のために学園対抗戦で破壊工作を図っているという話だ。

 それまで帝国はそのような直接的な攻撃手段を取ることはめったになかった。

 だが学園祭の前例とティルファが行ったことを考えるとそのようなことが起きる可能性は十分にある。

 そのため毎年警戒にあたってる黒服だけでなく、普段別の都市の警戒をしている者たちやバーグまで導入し、王国の将来を担うことになる学園の生徒たちを今年は厳戒態勢を取っている。

 今年は王都に過去最大規模のボルザーク家の関係者たちが集まっていた。


 そのトップは執行官であるクリストフなのだが、クラスメイトに顔を出さなければ不自然ということで指揮権はバーグに移されている。


「じゃあ俺はクラスに行くから、黒服たちの指揮は任せたよ」


「はい。ではお気を付けて」


 クリストフは黒服たちのとこはバーグに任せてクラスメイトのいる座席に向かった。


 ★


「クリス。どこ行ってたの?」


「予定の確認のために家族のとこだよ。それで試合は何時くらいなんだ?」


「時間通りに行けばあと2時間後くらいだよ」


「そうか。見に行くよ」


「うん!」


 アリスとその後も雑談を続けながらクリストフは会場全体を見回し、常に警戒を怠っておらず、クリストフは怪しいものを探し続けていた。

 だがどこにも怪しいものはいなかった。


 それは怪しい者たちを黒服の人数を増やしたことやバーグの指揮の高さも相成って会場の外で処理できていたからだ。




「南門前にいる赤と黒の服の高身長の男、北門近くの広場のベンチに座っている女を捕まえろ。あと……」


 バーグの指揮は的確で、言われた特徴の者は毎回麻薬を持っている。

 だがバーグはそれよりも帝国の工作部隊の場所を知りたかった。


 ★


 同刻、帝国の工作部隊は王都内に四人一組フォーマンセルを組んだ5部隊が侵入しようとしてきた。


「こちらアルファ。異常無し」

「ブラボー異常無し」

「チャーリー異常無し」

「デルタ異常無し」

「エコー異常無し」


「では手筈通り」


「「了解」」


 確認を取り終わると5部隊が一斉に動き出し、自分たちの任務を開始する。


 アルファ部隊は最も戦力を持つ部隊で、大通りを襲撃し、警備隊を引き寄せる役割を担い、ブラボー、チャーリー部隊は学生帯のいる区画に爆発物仕掛ける。

 デルタ部隊はアルファ部隊の援護を行い、エコー部隊はブラボー、チャーリーの援護を行う。

 この作戦はアルファ部隊の戦闘を合図に他部隊が行動を開始するため、アルファ部隊が行動を起こさなくては誰も動かない。

 そのためアルファ部隊はすぐに王都の大通りで【爆裂エクスプロージョン】を使用しようとしていた。


 だがそんな大通りには黒服がいる。


「メインロードに魔力反応あり。近くの者は急行し、それ以外は他の仲間の警戒を」


 街全体の魔力を監視していたバーグがすぐさま魔法行使の際の魔力反応を感知し、すぐ指示を出す。

 その指示に従い、黒服たちは一斉に動き出した。


 魔力を感知した黒服が一番現場に近く、最初に魔法師を視界に入れる。

 初めに魔法を使われては騒ぎになるため魔法師の魔力を乱す魔法を行使し、同時に敵の位置を知らせる。

 次に敵を視界に入れた黒服は敵を周りの一般人から見えなくする認識阻害魔法を行使する。


 その魔法の効果は対象者を周りの人にそこに人がいることは認識できるが見えないというもので、魔法を使われた人は勝手に周りの人たちが自分から避けていくようになるというもの。


 そのためこのような人の多い大通りでも短時間の戦闘ならば周りにバレるリスクはほとんど無くなる。

 その魔法がかけ終わってから一番に戦闘を開始した黒服が目立たない路地へとその敵を瞬時に連れていった。



(王国騎士団はこんなにも動きが速いのか)



 突如として魔法が使えなくなったと思えばその後すぐに路地にまで連れて行かれたアルファ部隊の一人はその動きの速さに驚いていた。

 仲間や他部隊に連絡を取ろうにも魔力が乱れているためそれすらも難しく、援軍が来るのには時間がいる。

 目の前には既に3人の敵がおり、ここで相手を殺さなければ自分は逃げれないだろうと戦闘をすることを決意した。


「全体に通達。敵は脳さえ無事であれば大丈夫です」


 相手を路地に連れてきたときに同時に聞こえたバーグからの連絡。

 それを聞いた途端、黒服たちの動きが変わる。

 生け捕りではなく首さえ持ち帰れば問題がなくなったためだ。



(こいつ等、王国騎士団ではないな!!)



 目の前にいる黒服たちの武器を見てすぐ思い至る。

 王国騎士団の団員たちの使う武器のほとんどが剣か槍であるものも関わらず、目の前にいる者たちは全員が短剣を使用しており、その刃先には猛毒が塗られていた。

 その後、数十秒の攻防の後、アルファ部隊の一人が捕まった。


 ★


「一名確保」


「了解。回収班を向かわせ……」


 突如黒服とのメッセージが途切れ、バーグは何が起きたのかがわからなかった。

 そしてその数秒後、別の黒服とのメッセージが繋がった。


「指揮官。どうやら敵は自爆を行うみたいだ。その影響で一名負傷者が出た。要因トリガーは恐らく体内に埋まっている魔力の核だ」


「了解。回収班を向かわせますので負傷と死体を回収します」


「了解」


 バーグはその後すぐ黒服たちに敵が自爆を行うこと、そして確保した際には体内になる魔力の核を破壊することを通達した。

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