第88話
ダッチマンが本体との繋がりを強化したことにより、魔力線に流れる魔力が増加する。
それによりティルファは本体に繋がる魔力線を見つけることに成功した。
★
ダッチマンの能力が高まったことにより、前線は一気に瓦解する。
初めに聖職者たちは召喚魔法を
次に回復と強化がなくなったザクレイとベリリュースがダッチマンの攻撃に耐えられなくなり、倒れていく。
そしてシスターと聖職者たちが次々と倒されていった。
「殺しはしない。聖王国の人間は珍しいからと言われているからな」
制圧を終えたダッチマンは分体の能力をもとに戻した。
ザクレイは片腹に穴を開けられ、ベリリュースは右腕と右脚を切られている。
2人ともこれ以上血を流さないようにダッチマンから治癒を受けているが、もう動くことすらも難しい。
他の面々も同じような有り様で、これ以上反抗できないようにされている。
ダッチマンは聖王国の人間たちを生かすように言っていた黒帝に【メッセージ】を送ろうと耳に右手を当てる。
次の瞬間、ダッチマンの右手が吹き飛んだ。
「誰だ!!」
そう叫びながらすぐさま【
だが追撃のより、今度は左足が吹き飛んだ。
ダッチマンはこのままでは危ういと判断し、本体との繋がりを強化する。
その強化は先程よりも強く、本体の九割の能力を発揮する。
魔力の総量が増えたことにより、怪我は瞬時になおった。
「来い。我が軍勢!」
聖職者たちを足止めしていたスケルトンのような存在ではなく、もっと上位の存在を召喚するために先程までよりも大きな魔法陣が地面に現れる。
だがの魔法陣は発動することはなかった。
突如魔力の供給が切れ、魔法陣は効果を発揮することなく散り散りになったのだ。
「クソったれめ!とっとと姿を見せろ!」
一方的にやられてばかりのダッチマンは自分を中心に放射状に骨の槍を飛ばす。
そして一方向だけ槍が止められた場所が出る。
「そこか!」
ダッチマンはその場所にすぐさま飛んでいった。
そしてダッチマンは見えないなにかに顎を思い切り殴られる。
ダッチマンはそれを逃がすことなく、その腕を掴み取った。
「捕まえたぞ」
捕まえた腕を手繰り寄せ、腹目掛けて膝蹴りをいれる。
膝蹴りはもう片方の腕で防がれたが間髪入れずにその場所にあるだろうと思われる頭目掛けて殴る。
だがそれは当たらず空振ることになった。
ダッチマンは膝蹴りに使った足を思い切り上げられ、体制を崩す。
相手は体制を崩したダッチマンに蹴りを入れ、ダッチマンはそのまま壁まで吹き飛んでいった。
(この強さ。一体誰なんだ?)
壁から落ちてきた瓦礫に埋もれたダッチマンは瓦礫を避けながらそんなことを考えていた。
今も昔もダッチマンは戦闘能力で言えば上位に分類される実力者だ。
そんなダッチマンが相手が見えないからと理由だけでここまで一方的にやられるようなことはありえない。
そこから考えられるのは今戦っている相手はダッチマンとほぼ同じくらいか、強いかの二択。
その二択となるとダッチマンの知っている者の可能性が高まるのだ。
(隠密を得意とする……。暗殺系統の能力を得意とする実力者。思い浮かばんな)
だがこのような隠密を得意とする実力者はダッチマンは知らない。
(となると、まだ有名になっていない実力者か。なんにしろここで殺しておくべきだ)
ダッチマンは瓦礫の中から立ち上がり、もう一度敵の場所を探るために全方位に魔法を発動しようとする。
その時だった。
「どうやらもう時間切れのようだ」
そう言いながら先程までは隠れていた者が目の前に現れた。
ダッチマンは時間制限の力だったのかと思いながら現れた者を殺そうとする。
だがそれはできなかった。
そんなことよりも重大なことが起きたのだ。
(本体の近くで巨大な魔力反応だと?!)
ダッチマンは本体に近づいた者がいればわかるように魔法を使っている。
それも万が一のために1つだけではなく、幾重にも張り巡らせている。
だがその1つも反応することなく、1つの巨大な魔力が本体の近くで反応したのだ。
ダッチマンはその魔力を本体を破壊するための魔法だと瞬時に理解する。
ダッチマンは本体の破壊を防ぐために本体に移動しようとする。
だがそれは目の前の人物に防がれる。
本体に戻ろうとする時、少しの時間だけ分体が何もされては行けないのだが目の前の人物はダッチマンに突っ込んでき、無数の殴りを入れてくる。
(不味い!このままでは戻れない!)
一刻も早く本体に戻りたい状況。
だがそれも許されない。
ダッチマンは本体にどのような影響があるかわからないが一か八か無理矢理本体へ精神を戻した。
精神を失った分体はその場で崩れていった。
★
正式な手段で帰らず無理矢理本体に精神を戻したダッチマンはその反動によるダメージを食らっていた。
(身体が……動かん!)
身体を動かそうとしてもその身体は一切動かず、そこに止まったままだ。
魔法を使おうとしても魔力が無理矢理戻ったことによる影響で、魔力が分体から帰ってきておらず、本体は魔力もなく、動けない状態にある。
ダッチマンはただ空からの巨大な魔力を感じることしかできなかった。
★
「さて。そろそろいいかな」
ティルファは魔力を注ぐのをやめ、攻撃に転じた。
「【
ティルファが使ったその魔法は【
深淵魔法とは禁忌とされる魔法の1つであり、この魔法1つで都市を地図から消すことのできる魔法やその地域の環境を変えることのできる魔法のことを指す。
今回の場合は前者と後者の両取りをする深淵魔法の中でもトップクラスでヤバい魔法だ。
ダッチマンの本体のいる場所を中心とし、半径数キロの巨大クレートが完成し、その巨大な魔力の余波を受けた近くにいた動植物たちは死ぬか進化を遂げることになる。
進化した動植物たちはよくあるダンジョンにいるボスと呼ばれる最奥にいるモンスターよりも強くなり、そのクレートから半径数十キロはもう人間の生きれる環境ではなくなってしまう。
「反応はなくなったね。帰ろうか」
ダッチマンの本体の反応が完全に消失したことを確認したティルファは帰路についた。
★
「あ、あなたは何者ですか……」
意識のあったベリリュースが自分たちを壊滅させたダッチマンと戦闘を繰り広げていた人物に話しかける。
だがその者はその質問に答えることなく、地面に刀を突き刺した。
その瞬間、刀を中心に魔法陣が構築され、その円の中に14名全員が入っていた。
ベリリュースは殺されるのだろうと思っていたが怪我により動けないため、なにもできない。
魔法陣が光を放ち、死ぬのだろうと思っていたベリリュースは静かに目を閉じたが何故か痛みを感じなくなっていた。
恐る恐る目を開けると右腕と右脚が治っていた。
辺りを見渡すと他の全員も怪我が治っており、その奇跡にベリリュースは驚いていた。
それを行った人物は既にその場にはおらず、壁に伝言が残されていた。
「先程のことは他言無用だ」と。
★
ティルファは自分と一握りの者しか知らない隠れ家に帰っており、そこである人物と待ち合わせをしていた。
「お、来た」
外からした完璧に制御された魔力を感じ取ったティルファはその人物を迎えに行った。
「お、久しぶりだね。バーグお祖父ちゃん」
「全く。あまり老人をこき使うのは良くないですよ。ティルファ」
迎えに行った人物はバーグ。
クリストフの師匠であり、ティルファの祖父にあたる人物。
バーグは今回の件に介入するつもりはなかったのだが可愛い孫からのお願いということで聖王国の者たちを見守っていたのだ。
「それでどうです。本体は完全に消滅しましたか?」
「お陰様で。手伝ってくれてありがとね」
「どういたしまして。では私は帰りますね」
「うん。じゃあね」
ダッチマン本体の消滅を確認したバーグはクリストフのいる屋敷へ帰っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます