第87話

「この場所だな」


「そうだな。ここを片付けたら終わりだ」


 明らかに他の場所とは違う濃さの表記を放つ道を前にしたザクレイとベリリュースはそのような話をする余裕があったが、聖職者とシスターはその道から伝わってくる瘴気の濃さに苦しそうな顔をしていた。

 いくら聖なる光に身体が包まれていようとも最後は忍耐力がものをいってくる。

 それを見たザクレイとベリリュースは話すのをやめ、その発生源を破壊するために進んでいった。


 ★


「……何だここは」


「……全部人みたいだな」


 瘴気の発生源である場所に向かうための道はとても広く、そしてその脇には多くの人間が入ったポットが置かれていた。

 身体が綺麗なままその中に入れられているものもいれば、臓器しかないもの、他の動物と混ぜられたものまでおり、色々な人間がそこにはいた。


「もう死んでいるようですね」


「人体実験でもしているのか?」


「それは進めばわかることだ。そろそろ部屋に着くぞ」


 通路を進んでいき、一行はようやく最奥の部屋に到着した。

 そしてそこにはこのダンジョンの瘴気の発生源と思われるものがいた。


「ようやく来たか、聖王国の者たちよ。こちらは待ちくたびれたぞ」


 そこで待っていたのは大きな鎌を持った1人の黒のスケルトンであった。


 ★


「喋る黒のスケルトン……。特殊個体か!?」


「人間は俺を見るたびにそう言うな。そんな存在じゃないのに」


 黒のスケルトンは鎌の柄を地面に叩きつける。

 その瞬間、14名を囲むように無数のスケルトンが地面から現れた。


「俺は古代種・骨人の王スケルトン・キング、ダッチマンだ」


 スケルトンと戦いながらその言葉を聞いていたベリリュースは驚いた。

 相手は千年を生きたとされるモンスターに続く異名の古代種であり、名持ちネームドでもある。


「ベリリュース。俺達2人であいつを殺るぞ!」


「わかった!」


 ザクレイが前に、ベリリュースが援護をする形で一気にダッチマンに詰め寄る。

 ダッチマンはスケルトンでできた壁を自分と2人の間に作り出し、相手の視界を切る。

 ベリリュースがその壁に穴を開け、その穴から壁を通り抜けたがそこにダッチマンの姿はない。


「全員気をつけろ!」


 ザクレイがそう叫ぶが時すでに遅し。

 スケルトンの相手をしている2人の聖職者はダッチマンが後ろにいることに気付かず、鎌で首を斬り落とされそうになっていた。

 それにいち早く気付いたベリリュースがすぐにモーニングスターを飛ばし、その鎌を弾く。

 ダッチマンは聖職者を殺すのを辞め、モーニングスターの鎖を斬ろうとする。

 だが鎖は甲高い音を鳴らしただけで切れることはなかった。

 そしてベリリュースはモーニングスターの軌道を変え、ダッチマンに攻撃を直撃させた。

 ザクレイもすぐさまダッチマンのもとに飛んでいき、追い打ちをかける。

 だがそれはダッチマンに受け止められていた。

 そしてダッチマンはその掴んだ槍をすぐさま離し、体制を整え、少し溶けた手を見ていた。


「その武器、聖浄石で作られているな」


【聖浄石】

 それは通常のような炭鉱で採取できる鉱石とは違い、秘境と呼ばれる神秘的な場所でしか採取できない特殊な鉱石。

 採取することは非常に難しく、それを売るだけで一生遊べる金を手に入れる事ができる代物。

 またその鉱石は常に聖なる力を放っているため、その鉱石で作られた武器は屍人アンデットに対しては最強の特攻武器になる。


 そしてザクレイとベリリュースはそんな希少な聖浄石だけで作られた武器を使用している。

 そのためダッチマンのような者では武器の破壊は困難であり、掴むとダメージを食らってしまうのだ。


(分体では少し面倒だな)


 ダッチマンは普段から分体を利用している。

 その理由は自分が死ぬことを恐れているためだ。

 分体は本体から精神のみを飛ばして操作しており、分体の能力は本体との距離に比例して強くなる。

 今の距離では本体の五割といった能力だ。

 そのため分体で聖浄石の武器の破壊は困難なのだ。



 ダッチマンとザクレイ、ベリリュースの能力を言えば武器や2人の絶対的な信頼からなる連携やダッチマンの本来の五割の実力でしか戦えないという観点から見るとダッチマンの方が不利だ。

 だがダッチマンはその差を千年という永い時の中で得た戦闘経験で埋めている。

 またスケルトンという種族柄、疲労というものには縁が無い。

 そのため初めの方はダッチマンの方が不利な条件だが、時間が経てば経つほどダッチマンの方が有利になっていく。

 そしてザクレイとベリリュースは数分の戦闘でかなり疲労していた。


 ★


「う〜ん、見つからないな〜」


 そんなことを言いながら空を飛んでいるのはティルファだ。

 そして、何を探しているのかというとダッチマンの本体だ。

 ダッチマンは性質上、本体さえ壊せば全て壊れる。

 そしてダッチマンは分体を使っている間、本体の警戒は緩くなる。

 ダッチマンは本体を誰にも見つからないような場所に常に隠しているのだが、ティルファは本体と分体を繋ぐ魔法線を頼りに本体を探していた。

 すでに本体と分体を中継するための魔石を見つけており、その魔石から本体を探しているのだが高度な隠蔽魔法やダミーにより、見つけるのに苦労している。

 だがティルファは着実に本体のある場所へと近づいていた。


 ★


 ティルファが本体を探している一方、ダッチマンと戦闘をしているザクレイとベリリュースは苦しい状態になっていた。

 休む暇なく襲ってくる攻撃の嵐。

 そして2人の連携が少しでも崩れればそこに漬け込んでくる戦闘能力の高さ。

 それらにより、2人は限界を迎えていた。


(そろそろ終わりだな)


 攻撃に耐えることが厳しくなってきた2人を見てそんなことを感じる。

 だがその戦闘はシスターの介入により、1からとなる。

 突如、2人の身体が眩い光りに包まれたのだ。

 人は先程までの疲れ切った様子が嘘だったかのように立ち上がる。


(回復魔法……。それもかなり高位の)


 そして次は別の光に包まれる。

 その光は強化魔法である。

 ダッチマンはシスターを先に殺さなければ面倒だと思い、2人のことを無視して移動をする。

 ザクレイとベリリュースはそれを許すはずなく、攻撃を仕掛けた。

 ダッチマンは邪魔をしてくる2人をさっさと殺そうと先よりも攻撃を激しくした。

 だが2人はその攻撃に対応していた。


 ダッチマンは後衛に対し、スケルトンを召喚しようとする。

 だがそれは叶わない。

 魔法式を対抗レジストされたのだ。


 聖職者とシスターはダッチマンとの戦闘に自分たちが参加しても邪魔になると理解しているため、戦略を変更した。

 それはザクレイとベリリュースのアシストをすることだ。

 スケルトンを召喚されればシスターが強化魔法に集中できなるなるため、対抗レジストを得意とする者たちが召喚魔法を対抗レジストし、その他の者たちはどんな攻撃が飛んてくるのかわからないため、防御魔法に徹底している。

 8名の聖職者たちからなるその連携は、まるで要塞のような硬さをしていた。


(……面倒なことになった)


 ザクレイとベリリュースの2人を殺そうとしてもシスターの回復により、それがなかったことにされる。

 そのためシスターを先に殺そうとしてもザクレイとベリリュース、そして聖職者たちの守りにより、ころすことができない、

 いまダッチマンのできることはシスターの魔力切れまで待つか、分体の性能を上げるかだ。

 そしてダッチマンは分体の性能を上げることにした。


「なっ!」


「急に魔力が跳ね上がった!」


 14名全員がわかるほどの魔力の変化。

 ダッチマンは本体との繋がりを強くし、本体の七割の性能を引き出した。

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