学園対抗戦

第85話

 クリストフがロアネスにレクタの使い方を教えていると時間はどんどん過ぎていき、開始から現実世界でそろそろ3週間が過ぎようとしていたとき、もうすぐ二学期が始まろうとしていた。


「ロアネス。今日はこれくらいにしておくぞ」


「どうして?」


「もうすぐ学園が始まる。お前も通うんだろう?」


「あっ!そうだった」


「なら制服を買いに行かないと駄目だ。今から行くぞ」


 クリストフはそう言いながら【夢幻】から出ていく。


「ちょっと待ってよ」


 ロアネスもそれに続いて出ていった。


 ★


「おお〜〜。ここが王都!」


 王都の中心街にあるタングリアンが経営する大型商業施設に用のあるため中心街に来ているロアネスは森では見れない石畳の綺麗な道やその道に並んでいる建物を見て驚いていた。

 クリストフたちはその多くの建物が並ぶ場所の中でも一番の大きさを誇る建物に入っていった。


「ここだ」


 クリストフがそう言って立ち止まったのは商業施設の1階で一番大きな面積を持つ服屋。

 多くの貴族が利用するブランドの店であり、今回はその店内の一角にある王立学園の制服を取り扱っている場所に用がある。


「すみません。この子に合う第一学園の制服を見繕ってください」


「その前に在校生かの確認を」


 王立学園の制服は非常に価値のあるもの。

 学園の生徒ということを象徴する制服は街を歩いていても一目置かれるものであり、またその制服には宮廷魔法師たちにより様々な魔法式が組み込まれている防具でもある。

 そのため在校生にしか販売できないため、いつもこうした確認が行われている。


「ああ。この子は転入生なんで生徒証は持ってないのでこれでいけますか?」


 クリストフは店員にロアネスの入学を認めるといった内容が書いている手紙を見せる。

 店員はその手紙をしばらく見たあと、採寸の作業に移った。


「確認は終わりました。ではそこに立ってください」


「ここ?」


「そうだ」


 ロアネスは円形の台の上に立つ。

 そして店員がボタンを押すとその台から光が出る。


「降りてもらっていいですよ」


 ロアネスは何が起きたのかわからず戸惑いながら台から降りた。


「さっきのは何だったの?」


「俺もよく知らんが採寸をする魔道具らしい」


「へぇ〜〜。人間は面白い魔道具を作るんだね」


「そうだな」


 このような生活に役立つような魔法や魔道具を作るのは人間だけだ。

 他の種族にとって魔法や魔道具は敵を殺すためのものである。

 そのためこういったものがロアネスにとっては珍しいものなのだ。


「お待たせしました〜〜!」


 少し2人が話していると奥から服を持った店員がやって来た。


「こちらです。試着もできますがしますか?」


「はい。ロアネス。あそこで着替えてこい」



 クリストフは店員から受け取ったロアネスに渡す。

 そしてクリストフが指差したのは試着室だ。


「……え?あそこで着替えるの」


「ああそうか」


 クリストフはロアネスの嫌そうな顔を見て理解した。

 エルフという種族は閉鎖的で、露出を好まない。

 そのため試着室のようなカーテンだけで遮られた空間で着替えるのは嫌なのだ。


「店員さん。個室って何処かにあります?できればそっちを使わせていただきたいんですが……」


「個室は少し離れた場所に。今空きを確認しますね」


「ありがとうございます」


 その後貴族用の個室が空いていることがわかり、クリストフはその部屋を借りた。

 そして制服に着替えたロアネスが出できた。


「どうだ。何処か違和感やきつい場所はないか?」


「大丈夫。何処も違和感ないよ」


「ならいい。これ買うので会計をお願いします」


「はい。わかりました」


 クリストフは店員に言われた金額を出し、ロアネスの制服の買い物が終わった。

 その後は同じ商業施設内で学園の教材や必要なものを購入し、自宅へ帰っていった。


 ★


 4日後、学園は夏休みを終え、二学期が始まった。


 クリストフはロアネスが学園長に挨拶をするために一足先に二人で学園に来ていた。

 それはロアネスが前日に受けた編入試験の結果を聞くためだ。


「ロアネスさんの成績は筆記、実技ともに非常に優秀でした」


 そう言って渡された資料にはロアネスの点数が書かれていた。

 実技は100点、筆記は92点という特進クラスにも劣らない点数を取っている。


「そのため特進クラスに編入していただきたいと考えています。特進クラスの編入となれば勉強を追いつくのが大変だと思いますがロアネスさんはそれでいいですか?」


「はい。それでお願いします」


「わかりました。ではクリストフさん。ロアネスさんをクラスに案内してあげて下さい」


「わかりました」


 クリストフは学園長の指示に従い、ロアネスとともに部屋を出る。

 その後、クリストフの教室に向かった。


 ★


「久しぶりクリス……ってその子誰?」


 教室に入るとクリストフの姿を見たアリスが挨拶をしたが後ろにいたロアネスの姿を見て戸惑っている。

 その声を聞いた他のクラスメイトもクリストフの方を見ており、後ろのロアネスを見て驚いていた。


「この子はロアネス。ラート国からの留学生だよ」


「ラート国ってあの!?」


 その国名を聞き、自分の席にいたクラスメイトたちも立上がり、ロアネスのもとにやってくる。


「じゃあ自己紹介を」


「ラート国から来た留学生のロアネスです。皆さんとは仲良くしたいと思ってますのでよろしくお願いします」


 クラスメイトたちがどんどんとロアネスに近づいていき、自己紹介や色々な質問をし始める。

 クリストフはその間をこっそりと抜け、自席に座ってその様子を眺めていた。



「どうやら挨拶は済ませたようだな。お前ら、全員席につけ」



 しばらく扉の前でロアネスたちが話しているとハルトが教室にやってきた。


「ハルト先生!おめでとうございます」


 ハルトが最高位冒険者に到達したことは国内では有名な話であるため、クラスメイトは皆お祝いの言葉をかけていた。

 ハルトも満更ではないようで、嬉しそうににやにやしながら生徒に着席の指示を出していた。


「全員席についたな。では早速だがこのクラスから学園対抗戦に出てもらう五人を決めようと思う。五人を超えた場合は立候補者同士のトーナメントで上位者が出れるようにする。誰か出たいやつはいるか!」


 王立学園親善競技大会。

 通称『学園対抗戦』

 王立学園二学期に行われる第一から第三学園の生徒たちが一週間、分野ごとの競技で競う合うというものだ。

 競技は魔法技能を競う魔法戦。

 武術を競う武術戦。

 魔道具などの道具を作る技能戦。

 そして一番人気なのが総合戦。

 何でもありの戦闘で、最も派手で盛り上がる競技だ。


 この大会は毎年各学園がメンツをかけて戦っている。

 そのため出場者のほとんどが特進クラスの生徒で構成されてきた。

 だが近年のルール変更により、ひと学年から特進クラスの出場者は5名と決められ、今はその枠の争いをしている。


「はいはい〜!出たいです」


「……私も」


「出たいです」


 アリス、ミシャ、リードの3名が手を上げ、立候補する。

 その3人が手を挙げてから人数が足りないのを確認したクルシュが手を挙げた。


「1人足りないな。抽選でもするか」


 そう言ってハルトは教卓に置いていた紙を1枚宙に浮かせ、均等に切り分けた。


「先生。私は家庭の用事で出れません」


 クリストフは学園対抗戦の時期も学園祭の時と同じく、多くの人が訪れるため、警戒に当たらなければならない。

 警戒するべき範囲は学園祭のときよりも小さくなっているが、内容がこちらのほうが濃い。

 学園対抗戦は学園祭のような催しで魔法などを使うのではなく、相手を倒すために本気で使う。

 家によってはこの大会で今後の家系の行く末が決まると考えているものもいる。

 そのような者たちはたとえ麻薬などの違法なものによるドーピングに頼ったとしても大会で結果を残そうとする。

 そのためこの期間が近づくと、そういったものの流通が増える。

 そしてクリストフはそれに対応する時間がいるため、大会には出場する時間がないのだ。


「わかった。クリストフは抜いておく」


 切り分けた紙にクリストフ以外の名前を書き、グチャグチャに混ぜたあと1枚を引く。


「お!最後のメンバーはリージョンだな」


「わかりました。お受けします」


 こうして特進クラスからの5人の出場者が決まった。

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