第84話

「【複製コピー】は上限があるがもとの者の力の九割を引き継ぐ。そう言えば何が強いのかは言わなくともわかるだろう」


「うん。九割の能力を引き継ぐのはほとんど本人と変わらない。もしも1人で万の軍を相手できるものがそれを使えば大都市の1つくらいなら滅ぼせちゃうね」


「その通り。強者が1人増えるだけでも戦況は大きく変わる。それをたった1人で行えるその武器は圧倒的だ。だがそれゆえ武器の扱いも難しい」


「私が使えるようになるのかな?」


「それはわからん。これはセンスの方が大きいからな」


 クリストフはそう言いながら5本のレクタを作り上げる。


「これがレクタを複製する槍に刻まれた魔法だ。その起動式が厄介でな。繊細で難しいんだ」


 レクタを複製する際に用いる魔法式を宙に映し出し、それをロアネスにを見せた。

 その術式は現代の魔法とは全く違うもので、どちらかと言えば古代魔法に近い。

 単に術式に魔力を込めるだけでなく、その術式をどれほど理解しているかによってその効力が変わってくる。


「こんなにも複雑な魔法式は見たことないよ」


 その魔法式は百を超える古代魔法を複合して作られた暗号のような術式であり、クリストフも完璧に理解するには至っていない。


「取り敢えずこの術式を大雑把に理解してもらう。そうすれば一本くらいなら作れるからな」


 クリストフはロアネスに術式を教えるため、座学を始めた。



 座学を始めて10時間(現実では1時間)が経ったとき、リアとルアが食事の用意ができたと呼びに来た。

 そこでクリストフは座学を中断し、ロアネスとともに食事をとるために【夢幻】から出ていった。


 ★


 同刻。

 新たな帝人となった黒帝の調査を任命されたティルファの配下は魔力を完全に消しながら森の中を駆け抜けていた。


 その理由は黒帝に見つかったからだ。


(しくじったな。生きて帰れる可能性はどれくらいだろうか)


 魔力を完全に消し去っているため、いくら黒帝と呼ばれるものでも魔力での追跡は不可能。

 そのため痕跡を追ってきているはずなのだが、現在はまだ相手の位置をつかめていないようだ。


(ばれたみたいだな)


 何者かが高速でこちらに向かっているのに気付いた男はそう判断をする。

 だが逃げている男はそれに気づいても冷静。

 とにかく掴んだ情報を主であるティルファに渡すためにはどうすればいいのかを考えているのだ。


(魔力量から推測するに屍人アンデットではなく、死の騎士デスナイトか。厄介だな)

(相手には体力の概念がない。それに速度もおれよりも早い。対して俺は魔力による身体強化を使っていないかないつもより体力の限界を迎えるのが早い。さて……どうしたものか)


 いくら偵察専門のものとはいえど、分家の人間。

 そのためしっかりと戦闘訓練も行われているため反撃すれば倒せる可能性は十分ある。

 だがその戦闘の余波で残った魔力を追跡されれはティルファの足を引っ張ることになる。


(考えている暇もなさそうだな。あれを使うか)


 死の騎士デスナイトの視界に収められたのを感じ取った男はこれ以上は逃げられないと判断し、事前に用意していた罠のもとに向かう。


(距離は……問題なし)


 後ろを見て自分と死の騎士デスナイトとの距離を確認し、罠の射程に入ったことを確認した男は木に引っかかっている一本のツタを切る。

 すると背後から何かが擦れるがする。

 そしてその直後、大量の爆発音が森に響き渡った。


 男の置いていた罠は設置魔法。

 そして設置していたのは【大爆発エクスプロージョン

 本来は戦闘魔法として使われるものだが事前に地面に【大爆発エクスプロージョン】の魔法式を書いておき、発動する直前まで魔石の魔力を抽出して完成させておく。

 その魔法式の上に特殊な加工を施された魔力を一切通さない布を被せておく。

 そしてツタを切ったことでその布が剥がされ、大気中の魔力を魔法式が吸収することで【大爆発エクスプロージョン】が発動したのだ。


 準備に時間はかかるが自分の魔力を一切残さず、布自体もその爆発により消えるため、痕跡を一切残さずに標的を殺すことが出来る罠だ。


 男は死の騎士デスナイトが死んだかどうかも確認せずに森を下っていった。


 ★


「……死の騎士デスナイトがやられたか。思っていたよりも手練れのようだな」


 一体の死の騎士デスナイトとの感覚が途切れた黒帝は呟く。

 誰の仕業か特定するため、近くにいた屍人アンデットを向かわせた。

 だがそこには魔力の痕跡も何も残っていな買った。


「魔力の隠蔽が得意なのか?だが一切ないのはおかしい」


 いくら魔力の隠蔽が得意なものでも痕跡の1つや2つは残っている。

 だがここには何も残っていないのだ。


「今は戦争をどこの国もしていないせいで屍人アンデットにする死体が少ない。黒帝にもなったことだ。そろそろ死体の回収を始めるか」


 黒帝は森に徘徊させていた屍人アンデットを戻し、警備は人間に任せることにした。


 ★


 クリストフがロアネスにレクタの使い方を教え始めて半年、現実世界では二週間ほどの時間が過ぎていたとに、ボルザーク家に来客が来ていた。


「久しぶりねティルファ」


「久しぶりだねサティラ。ここに来たのはいつ振りだったっけ」


「そんなことより今日はどうして来たの。あなたが直接来るってことはそれほど大きなことが起きたの?」


「黒帝の調査を部下に任せたんだけど、クリストフの言う通り魔人だったよ」


「魔人ねぇ……。目立った動きは?」


「調査がバレた翌日から動きがあった。黒帝の統治している地域に新たらしく屍人アンデットのダンジョンが見つかったんだ。多分というか、十中八九黒帝の屍人アンデットで作られたものね。もう既に帝国内の冒険者たちがそこで死んでいるよ」


「死体の回収のためとは言い、大胆だね〜黒帝は」


「今のところ誰もクリアできてないから高位冒険者の招集をしているね。これ以上強い死体を集められたら面倒だよ」


「ティルファは聖王国にそのダンジョンのことを伝えてきて。そうすれば【神々の騎士フィアナ】が動くとはず。私はクローゼ様とリース様に伝えておくね」


神々の騎士フィアナ】は聖王国所属の人類の守護を目的としている。

 神託を受ける聖女をトップに置き、8名の騎士団長を中心に置いた騎士団だ。

 各国の騎士団に比べると人数は少ないが聖女という絶対的な存在がいるためなのか連携が他の騎士団に比べると完璧に取られており、世界最強の騎士団とされている。

 特に人類の肉体をもてあそぶような屍人アンデットに敵対しており、【ネクロマンサー】は必殺の対象とされている。


 サティラは屍人アンデットの情報があれば【神々の騎士フィアナ】が動くと考えており、また対屍人アンデットのエキスパートともあればダンジョン内にいる屍人アンデットを皆殺しにし、黒帝の兵力を削れると考えているのだ。


「わかった。知り合いのシスターに伝えておくよ」


 ティルファはサティラとの話が終わるとスグに窓から飛び降り、消えていった。

 サティラはその開いたままの窓からクローゼに手紙を飛ばした。


 ★


「サティラからの手紙か……。珍しいな」


 クローゼはやって来た手紙をとり、その中身を読む。


「黒帝が魔人か。雷帝を殺すのは時期尚早だったか?だが魔兵がいたのは事実。放置しておくこともできなかったからな」


 クローゼが届いた手紙を読みながら一人で呟いていた。


「あとからとやかく言っても何も変わらんだろう。大事なのは今だ」


 そう言って窓から入ってきたのはリースだ。


「君のところにも手紙が届いたのかい」


「ああ。久しぶりにあの憎い魔兵を見つけたからと焦り過ぎたな」


「そうかもね。でもあれはさっさと殺しとかないと取り返しがつかなくなっちゃうじゃないか」


「そうだな。だが今の状況を考えると罠のようだったな」


 今の状況を説明するとクリストフが雷帝からちょっかいを出されその城を攻める。

 そしてその地下に魔兵がいることを知っていたリースがそれに乗じて攻める。

 辺り一面を焼け野原にし、魔兵をすべて処理し、雷帝も処理したあとにその後釜として出てきたのが魔人である黒帝。

 そして黒帝は現在自分でダンジョンを作り死体を回収して兵力を増強している。

 といった状況だ。


「我が今すぐにで黒帝を殺しに行こうか……」


「いや、それは辞めておいたほうがいいよ。今人間界の対屍人アンデット特化の騎士団をうごかそうとしているみたい」


神々の騎士フィアナか。だがそいつらはダンジョンの攻略なのだろう」


「とりあえずはそれで黒帝の手駒を減らすつもりみたいだよ。黒帝はその後暗殺するつもりみたいだね」


「ならば任せておくか」


「そうしよう。私達は他の魔人を注意しておこう」


「ああ。そうだな」


 二人はそう言いながら、何時でも介入できる準備はしていた。

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