第82話

「耐久、技の練度に難あり。と」


 クリストフは意識の途切れたまま地面に倒れているロアネスを見てそう言う。


「リア、ルア。ロアネスが起きるまで暇だろ?お前らの実力も見てやるぞ」


「いや、遠慮しとくよ」


「私はやめておく」


「よし。遠慮する必要はないからリアは見てやる」


「いや、え?ちょっと待って」


 クリストフはリアの服を掴んで真ん中のほうに戻っていく。


「ルア!助けて!!」


「……頑張れ」


 ルアは親指を立ててリアを見送る。

 それを見たリアは絶望した顔で引っ張られていった。


 その後リアはぼこぼこにされ、それはロアネスが意識を取り戻すまで続いた。


 ★


「ロアネス。お前に足りていないのは何かわかるか?」


「……技と技術」


「そうだ。もう一つは?」


「……わかんない」


「耐久だ。戦闘中に意識を手放すのはいくら強くとも駄目だ」


 ボルザーク家の者はまず初めに鍛えられるのは耐久。

 どれほどのダメージを喰らおうが意識を手放さないように訓練をされる。

 その訓練は指導者が何度も死ぬ直前まで叩き潰すという方法。

 そのような方法であるため意図せず死んでしまう可能性が高い。

 そのためその訓練は【夢幻】という場所があることにより成立するため、ロアネスがクローゼのもとでその訓練が出来ていないのは仕方がない。


「その訓練は時間がいるから後回しにする。次は何でもありの戦闘だ」


 ★


 何でもありの戦闘でもやはりクリストフが圧倒していた。

 だが先程のようにロアネスは一瞬で倒されるようなことはなく、善戦はしていた。


「魔法は使い方は素晴らしい。文句なしだ。流石、魔法が得意な一族であるエルフの王であるクローゼ様に鍛えられたエルフなだけある。だが使える闇魔法の種類が少ない。それさえ増やせば魔法に関しては言うことはない」


 クローゼが事前に行っていた通り、ロアネスは闇魔法の種類が少ない。

 それは闇魔法を使わないクローゼが教えていたためだろう。


「では先に闇魔法を教えるとしよう」


 そう言ってクリストフは目の前で魔法を使う。


「これは【黒球】だ。これは闇魔法の基礎の基礎だからすぐにできるはずだ」


「……どうやればいいの?」


「知らん」


「知らんっ?!」


 クリストフの発言を聞いたロアネスは驚いた。


「俺も教えられたことはないからな。ひたすらぼこぼこにされながら技を見て盗んだだけだ。だから教え方なんてものは知らん」


 クリストフは最初に闇魔法を学んだときはバーグにサンドバックのように殴られ続ける中で技を盗んだだけだ。

 代々そのような教え方で闇魔法を伝えられてきたが何故そのような教え方なのかはわかっていない。

 色々な説があるが一番有力なのが「戦闘中に相手の技を盗んたり、理解したりするための練習」というものだ。


 ロアネスがクリストフと違う点はサンドバックにされながら技を盗むのではなく、ただ見て盗むだけ。

 そのためクリストフよりも短い1時間ほどで【黒球】を完璧に使えるようになった。


 ★


 その後様々な魔法を教え続け8時間の時間が過ぎた。

 その時、1人【夢幻】に入ってきた。


「お疲れ様です坊っちゃん」


「久しぶりだなバーグ」


 クリストフたちがちょうど休憩している時にやって来たのはバーグ。

 少し現世での用事があったため来るのが遅れていた。


「坊っちゃん。外でウェルト様が待っています。ここは私に任せて行ってきてください」


「え?」


 ウェルトが来ることはクリストフは聞いていない。

 それも仕方ない。

 サティラがクリストフの持って帰ってきたものを見てバーグに連れてくるように頼んだのだ。


「わかった。行ってくる」


 クリストフはバーグに3人のことは任せて【夢幻】から出ていった。


「ではロアネス殿。鍛錬を始めましょう」


 その言葉を聞いたリアとルアは恐ろしい顔をしていた。


 ★


「久しぶりだなクリストフ」


「お久しぶりです師匠」


 客室にいる大男の名前はウェルト。

 現在はドワーフの里を1人で統治する最高位鍛冶師であり、あの事件以降うまいこと里を復興させることに成功した。


「来て大丈夫なのですか。今は忙しいのでは?」


「まあな。だが少し弟子に任せてこっちに来た。話を聞いたら来たくてたまらなくなってな」


 ウェルトが来た理由はもちろん七色鉱石のため。

 鍛冶師であれば生きているうちに一度は見たい鉱石だ。


「では私の鍛冶場に行きましょう」


「おう!」


 クリストフは地下にある鍛冶場にウェルトを案内した。


 ★


「ここがお前の鍛冶場か」


 クリストフの鍛冶場を見たウェルトは部屋の様子を見て感動していた。

 使い古された金床にハンマー。

 炉は最高水準のものを使っており、設備としてはウェルトの鍛冶場に負けず劣らずの最高の環境。

 地下にあり、邪魔な音もないと考えるとこちらのほうが良いのかもしれない。


「いいな。設備も整っているし、ものも揃えている」


「まあ、この部屋はかなりの金をかけましたので」


「それでブツはどこに」


「こっちです」


 クリストフは鍛冶場にあったドアを開け、その中を見せた。

 そこは鍛冶をする時に使う素材を保管している場所で、先程の鍛冶場の倍以上の大きさのある部屋だ。

 すべてがバラバラではなく順番に揃えられており、素材を簡単に選べるようにしてある。

 ウェルトの部屋に適当に突っ込んである素材部屋とは違っていた。

 素材の量も幅もバーグやクリストフが取ってきたものを入れているため、ウェルトのものよりも豊富である。


「クリストフ。時間があるときでいいんだが、また儂の倉庫も整理してくれ」


「わかりました。いつかやります」


 ウェルトの倉庫もクリストフが修行している間はクリストフが整理していたため、いつも綺麗だった。

 だがクリストフがいないこの頃は整理するものがいないためウェルトの倉庫はごみ置き場のようになっている。


「これですね」


 クリストフが見せたのは最奥に部屋にケースに入れられて保管されている七色鉱石。

 その鉱石は文字通り七色に光っており、美しいものだ。


「……本物で間違いないな」


 ウェルトはポケットから小さな石を出していた。

 それはウェルトの父、ビリアが影狼カゲロウが作った際に残った欠片。

 それと全く同じ光を発しているためウェルトはそれを本物の七色鉱石と認めた。


「これはお前が使え」


「え?師匠が使ったほうが……」


「いや。儂は最高位鍛冶師ではあるが、あんなものは時間と少しの才能があればなれる。儂は長い期間鍛冶だけに生き、そして最高位鍛冶師になった。お前のような期間ではまだ鍛冶師も名乗れておらんかった」


 ウェルトは最巧の鍛冶師と呼ばれた父、ビリアとは違い、才能なんてものは持っていなかった。

 そんなウェルトが最高位鍛冶師になれたのはビリアの作品を一番近くで見続け、そんな作品を作る父に憧れていたからだ。

 その憧れのお陰でどんなときも諦めずに努力を続けた結果、今の地位にいる。


「たった8年で上位鍛冶師になったお前は誰よりも素晴らしい鍛冶師になる可能性を秘めている。その可能性を実現するためにもお前には七色鉱石を使うんだ」


「……わかりました。やってみます」


 クリストフは七色鉱石を自分で使うことを決心した。


 ★


 クリストフに言いたいことを言ったウェルトはアリスとミシャの家の場所、そして手頃な鍛冶場を聞くと出ていった。

(ミシャの家は知らないのでアリスに聞くように言っておいた)

 どうやら王都に来たついでにこの前渡した聖剣と魔杖の様子の点検に行くようだ。


 クリストフはウェルトと別れた後、【夢幻】に入っていた。


 そこで見た光景はロアネスとリア、そしてルアを3対1で容赦なく死ぬ寸前までボコボコにしているバーグだった。

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