第81話
アルゼノン王国に帰ったクリストフはまず初めに国王、バーゲルドのもとを訪れた。
クリストフは実の父であるバーゲルドとは事務的な会話しかせずにその場を離れ、家に帰った。
★
「この子ね。クローゼ様から話は聞いているわ。名前は」
「ロアネスです。今後はよろしくお願いします」
「よろしく。クリストフと一緒に学園に通うのよね」
「はい。そう命を受けています」
「わかったわ。手続きはこっちで勝手にやっておくから」
「じゃあ、ロアネスは貰っていくぞ」
「うん。しっかりしごいてやってね」
「わかってる。客だからと手加減する気はない」
クリストフはロアネス、そして審判としてリアとルアを連れて家の地下の仮想世界のある部屋に向かった。
★
「すごい……。ここが【夢幻】」
ロアネスは事前にクローゼからその存在を聞いていた。
無限に広がり、様々な環境を作ることの出来る鍛錬する場所としては最高の環境。
そして時間軸もずれているため普段の十倍鍛錬をしていることになる空間だと。
だが事前に聞いていたとしても【夢幻】の素晴らしさには思わず声が出てしまう。
それほどまでこの【夢幻】は素晴らしいものなのだ。
「使い方はさっき言ったとおりだ」
【夢幻】の使い方はすぐに鍛錬ができるようにここに来るまでの道中で既に説明を終えている。
「おお!武器も出てきた」
ロアネスはこの後も何かが起こるたびに驚いている。
そしてようやく驚くのが終わってきた頃にクリストフはロアネスに声をかけた。
「試合形式は実戦。ロアネスが俺を殺すか俺がロアネスを戦闘不能にするか、だ。審判はリアとルア。任せたぞ」
「うん!」
「わかったよ!」
リアとルアはクリストフが帰ってきたため、久しぶりのバーグとの鍛錬がない日。
そのためいつもよりテンションが高い。
「じゃあ、このコインが地面についたら試合開始ね」
「いくよー」
ルアが勢いよくコイントスをする。
コインは宙で何回転もし、最高点に到達してからは段々と落ちていく。
その落ちていくコインにクリストフとロアネスは集中し、コインが音を鳴らしたのと同時にロアネスは動く。
ロアネスは目にも止まらぬ速度でクリストフに近づきナイフで首を掻き切ろうとし、クリストフはそれを手で少しずらして避ける。
クリストフそのまま腕を掴み、地面に叩きつけようとするがその前にロアネスは逆に腕を掴み取る。
クリストフの腕を背中の方に曲げ、首に脚を回したロアネスは思い切り背後に重力魔法とともに体重の乗せる。
そしてそれと同時にクリストフの喉にナイフを突き刺そうとする。
クリストフは摑まれている腕の関節を外し、後ろにかけられた重さを利用して後ろに宙返りする。
その先にロアネスの顔を蹴り、クリストフは拘束から逃れた。
拘束から逃れたクリストフは外していた腕を戻し、何もなかったかのように立っている。
対するロアネスはクリストフの身体強化魔法を使った蹴りを顔面に思い切り食らったことにより衝撃で脳にダメージを負っており、うまく立つことができない。
(なかなかいいな。初めから躊躇いなしに殺しに来ている)
クリストフはロアネスの姿勢に感心していた。
普通、初めて【夢幻】を使う者は殺していいと言っても殺すことは躊躇ってしまう。
そのため一定時間経過しないと本格的な鍛錬ができない。
だからクリストフは最初の方は様子見しようと思っていたのだが、ロアネスは初めからそのことができている。
よってクリストフは本気で戦うことにした。
そうなれば先程のようにただ立っておく必要はない。
クリストフは攻めに行く。
ようやく立ち上がったロアネスは視界に入れたクリストフに向かって武器を構えた。
そして突然頭を掴まれた。
(……は?)
クリストフの予備動作のない移動。
それは相手に悟られずに距離を詰めるための技。
50メートル程までは自分の残像を残したまま移動できてしまう。
そのためロアネスは自分の身に何が起きているのかがわかっていない。
クリストフは【影柱】を使い、ロアネスの背後に無数の黒い柱を生やす。
そしてその柱にクリストフは頭をぶつけ続ける。
クリストフの運動エネルギーに乗せられたまま絶え間なく柱に頭をぶつけられるロアネス。
脳へのダメージは先程の比ではなく、段々と考えることすらできなくなっていく。
そして遂にロアネスの意識は途切れた。
だがクリストフはそれでもまだ柱に頭をぶつけ続けた。
それを辞めたのはリアとルアに試合を辞めるように指示が出てからだった。
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