第79話
「この馬車、すごく快適。こんなの初めて乗ったよ」
馬車はいくら高級なものでも多少の揺れというものはある。
だがそれすら完全にない魔法師団によって【
ちなみにロアネスはバージスと仲良くなっていたので2人は一緒の馬車に乗っている。
「魔法はいろいろな使い方があるんですよ。決して人を殺すための道具ではないんです」
「魔法はいいね。私の国には魔法師はあんまりいないから羨ましいよ」
獣人という存在は種族柄魔法とはあまり関わりがない。
魔法を使うとしても無系統魔法による強化ほどで攻撃魔法を使える者はほとんどいない。
その理由は獣人の共通認識として『魔法は弱者が使うもの』というものがあるためだ。
獣人は昔から魔法に頼ることなく生活を行い、なにか問題があれば魔法などに頼らず自分の腕っぷしで解決してきた。
事実、かつてまだ大陸の多くに小国が存在し、戦争が絶えなかった時代には数千からなる魔法師の軍勢を千人ほどの獣人たちが蹂躙したという歴史が存在する。
その力は以前存在し、現獣王国元首に至っては単独で都市を1つ地図から消すという圧倒的な実力を持っている。
そういったことから獣人たちは『魔法は弱者が使うものという』あるのだ。
ちなみに獣人にも一部の種族のみが使える魔法に近しいもの、『妖術』と呼ばれるものが存在するがその実態はクリストフもあまり知らない。
「ではこの馬車は差し上げます。私の国ではいくらでも作れてしまうので」
「そう!ありがとう」
この馬車を貰えると知ったメルトは随分と嬉しそうに笑っていた。
★
「クリストフ樣、そろそろ昼食にしますので一度止まります」
「わかった」
日が頭上に登った時間帯、山を登っていた一行は途中で見つけた少し開けた平らな場所で昼食を取ることになった。
「それで誰が昼食を作るんだ?」
「私が」
クリストフのためについてきた従者が手を挙げようとしたがそれよりも早くバージスが手を挙げる。
「お前が作るのか」
「お任せください。メルト様にもアルカンシェル様にも満足できる食事にしましょう」
どうやらバージスは引く気はないようだ。
「わかった。じゃあそこの3人に任せた」
クリストフはそう言ってバージスの後ろにいた従者3人に指を差す。
「お前は俺と別のことをしてもらう」
クリストフは悔しそうな顔をしているバージスをその場から引っ張り出した。
「お前は従者の立場も考えろ。あそこでお前が飯を作れば立場がないだろ」
「……俺は作りたかっただけだ」
どうやら昼食を本気で作りたかったようだ。
「俺は今から周囲の安全確認をする。お前もついてこい」
「わかった」
「私も行きます」
バージスとロアネスはクリストフについて行き、周りの探索にでかけた。
★
周囲には特に危険な魔物はおらず、3人が安全確認を終えて帰ってきた頃には既に昼食が完成していた。
サンドウィッチに野菜サラダ、果物などが用意されており、色とりどりの食品が並べられていた。
クリストフは執行官という仕事は身体が重要なため、好きなものだけを食べるということはせず、栄養素を考えバランスよくいろいろなものを食べた。
ロアネスは1人で離れた木の上に座り、食事を取っていた。
エルフの言うものはやはり自然が好きなのだろう。
メルトは食事をオイシそうに頬張っている。
獣人にとって食事というのは栄養補給であり、人間のように丁寧は調理はしない。
そのため重王国を出てからは食事はしっかりと調理された美味しいものばかりで、いつも食事をするときはこうなっている。
その都度横にいるアルカンシェルがもう少しゆっくり食べるように言うのだが、美味しいものをたくさん食べたいメルトは言うことを聞かずにいつも国にたくさん放り込んでしまうのだ。
そうメルトに注意しているアルカンシェルもかなりの量を食べており、獣人の食べっぷりには驚くものがある。
従者もメルトとアルカンシェルの食べっぷりは見ていて気持ちいいものなのでどんどんと食事を追加していった。
(予想外の速さで食料が減っているな……)
昼食終わりに出発前に買ってきた食料庫を見てクリストフはつぶやく。
もしものために食料は多めに買っていていたのだがそれを遥かに上回るスピードで食事を取っていくメルトとアルカンシェル。
そのため食料がかなり減っているのだ。
「バージス。あとどれくらい持つと思う」
「まあ、ペースでいうと今晩にはなくなるだろな。明日の朝まで持てばいいほうだろう」
「同じだな。補給をしたいが……」
「場所がない。明日の昼間では街につかないからな」
「というわけで俺は今晩狩りに行く。騎士団、魔法師団はキャンプ地で護衛。指揮権はお前に渡す。ロアネスと俺が狩りに出る」
「わかった」
「隊長、クリストフ様。そろそろ出発しますよ〜〜」
バージスの部下の声が聞こえる。
クリストフとバージスはその声に返事をして自分の乗る馬車の下に向かった。
日中は何も起こらず順調に馬車は動き続けた。
そして夜。
辺りはすっかり暗くなり、これ以上進むのは危ないと判断した一行はキャンプ地を建てていた。
「お前ら!食事はここで取り、睡眠は馬車の中で取れ!寝ずの番は三人体制で2時間交代だ」
「「はい!」」
バージスは部下からの信頼されている。
そのため命令に逆らうものはおらず、バージスの的確な指示によってキャンプ地の設置が爆速で終わっていた。
そしてクリストフはエルフであるロアネスを連れて夜の狩りに出かけていた。
★
「ロアネスは森での活動は得意なのか」
「人間よりは上手いだろうけどエルフの中では下手な方だね」
クリストフとロアネスは敬語で話す関係をやめ、タメ口で話すようにしていた。
それは今後同じ学校に通うのに2人共がずっと敬語であるのは違和感を持たれる可能性があると感じたからだ。
そのため2人は狩りの前に敬語をやめるように話し合っていた。
「クリス。一時方向に500メートル先に三匹いるよ」
「わかった」
クリストフはロアネスの指示に従い、共に進んでいった。
「おお。本当に居るな」
木の上にいるクリストフは地面にいる猪の親子、そして一匹の子どもを見て言う。
「頼んだぞ」
クリストフがロアネスに言う。
ロアネスは手のひらでいつの間にか作っていた黒いナイフを投げる。
そのナイフは猪たちを一撃で殺し、慣れた手付きで血抜きをしていた。
血抜きが終わった猪はクリストフの影収納に入れ、別の獲物を探しに行った。
★
その後も獲物を見つけ続け、最終的に猪13匹、鹿6匹という結果になった。
クリストフはキャンプ地近くまでは影収納に入れたまま持っていき、直前で収納から出して運んだ。
その時には既に晩飯はできており、2人はそれを食べて次の日に備えて寝た。
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