第77話

 クリストフとメルトの部屋を訪れた時、アルカンシェルは1人でダンジョンに潜っていた。

『ダンジョンアタック』が終わってから何度も潜っているアルカンシェルはいつも見る常連客のようになっていた。

 ダンジョンから出てきたときにはすでに夜になっており、アルカンシェルは汚れた身体を水で洗い流したあと、メルトの待っている部屋に帰っていた。

 そしてそこにはいつも部屋に籠もってばっかりで外に出られていないために不機嫌なメルトが待っているのだが、今日は何故か鼻歌まじりの機嫌のいいメルトがそこにはいた。


「どうしたんです」


 アルカンシェルはその理由が気になり聞く。

 そしてそれには、


「聞きたい?」


 と、上機嫌な返答が待っていた。


 ★


「はあ、クリストフ様が来ていたのですか」


 その後何度も似たような返事をされたアルカンシェルだったが、結局はメルトが嬉しそうにクリストフが部屋に来ていたことを話してくれた。


「私も別れる前に会いたかったですね。いや、明日の朝会いに行くとしましょう」


 それを聞いたメルトは何故か首を傾げていた。

 その理由が分からず聞こうとすると衝撃の言葉を言った。


「何を言っているのアルカンシェル。私達も明日の朝、クリストフさんと一緒にここを出ていくわ」


「……はっ?!」


 アルカンシェルも流石にそれには驚いた。

 いつ帰るのかを決めていなかったのに突然明日と言われたのだ。

 いつもよく無茶振りを言われるのだがここまでひどいのは最近はほとんどなくなっていた。



「はっ?!じゃないの。明日ったら明日っ!早く準備なさい」


「護衛への連絡は?」


「したわ」


「馬車の準備は?」


「したわ」


「各方面への別れの挨拶は?」


「もうしたわ!アンタがのろのろとダンジョンに潜っている間に全部したわっ!後はあんただけよ」


「ですが、陛下への帰国報告は今更しても間に合わないのでは……」


 メルトの父であり獣王国の元首、ガルディラル・リベルガードはメルトに帰国する日が決まったならば連絡を寄越すように言っていた。

 それは始めて他国に赴いた娘を出迎えるためなのだろう。

 だが前日に出された手紙は明日中に届くとは限らない。

 普通ならば、相手からの返事が届いてから判断するべきなのだろうが現在はそんな事ができる状態ではない。


「……大丈夫よ。「父さんに驚いてほしくて、内緒で帰ってきちゃった♥」とでもいえば怒られないしない……はず」


 確かにリベルガードは厳格で恐ろしい王として知られているが家族にはとことん甘い。

 そのためメルトがそのようなことを言えば確実にメルトは怒られないと言っていいだろう。

 だがその後、アルカンシェルは個人的に滅茶苦茶に怒られることになってしまう。

 そのことはメルトは知らないのだ。


「……わかりました。では準備をします」


 一度決めたことは決して曲げないメルトの性格を知っているアルカンシェルは自分が怒られるのは仕方ないと割り切り、明日の朝のために準備を始めるのだった。

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