第76話

 クリストフはまず初めに『ダンジョンアタック』の主催国の代表、ポラリスのもとに向かった。

 ポラリスも先程までのクリストフと同じく書類を作るので忙しいようだが、最後にクリストフと話す時間は何とか作ることができていた。

 クリストフが部屋に入るとそこには頭を下げているポラリスがいた。


「クリストフ様。今回は途中で騒ぎもありましたが貴方様の協力のお陰で無事今年も『ダンジョンアタック』を終えることができました」


 やはりダンジョン内というものは何が起きるかがわからないものだ。

 もしもあの時、クリストフとクローゼの出発が遅れていたとすればもっと被害が出ていたはずであり、魔人たちに回収されていた可能歳もある。

 最悪の自体を考えれば今回は無事に終えたと言える。


「ポラリス様。頭を上げてください」


「いえ。もしも御二方がいなければ自体はもっと大変なことになっていたかも知れません。感謝してもしきれないのです」


 そう言ってポラリスはしばらく頭を下げ続けていた。

 クリストフに頭を上げるように言われ続けたポラリスはようやく頭を上げると次はなにか包装されたものを渡してくる。


「これは私からの御礼の品です。『七色鉱石』を買われていたのでこういったものが好きなのかと思い用意しました」


 クリストフがその包装を開けると中からは赤黒く輝く鉱石、『アダマンタイト』が現れた。

『アダマンタイト』は世界一硬い鉱石とされ、高位以上の鍛冶師にしか打つことができない。

 それを打てるようになるということは高位の鍛冶師になったと言って良いということ。

 今のクリストフにとってはありがたい鉱石である。


「こんな貴重なものを貰っていいんですか?」


「はい。お好きに使ってください」


 クリストフは渡されたアダマンタイトを影収納ではなく、指輪の魔道具の収納に入れる。

 ポラリスからの話が一段落ついたところでクリストフはもうすぐ王国に戻るという話をした。


「そうですか。『ダンジョンアタック』は楽しめましたか」


「はい。王国にはあれ程大規模なダンジョンが亡いのでこういったことをできるミスタリーゼはいいと思いました」


「それなら良かったです。この後も他の人たちに会いに行くんですか」


「来賓席で一緒だった人には挨拶をしてから出ようと思ってます」


「またミスタリーゼに来てください。いつでも歓迎します」


「わかりました。ではまた」


「お疲れ様でした」


 ポラリスとの別れを済ませたクリストフは次にクローゼの部屋に向かった。


 ★


 クローゼ部屋をコンコン、と叩いて部屋に入るとどうやらロアネスにどのような武器防具を持っていかせるのかの厳選をしているところであった。

 部屋の至る所にクローゼの収納魔法から出されたものが置いてあり、どれもさあ高級品である。


「クリストフか。お前はどれがいいと思う」


「どれと言われましても、ロアネスさんがどんなものを使うのかを知らないのでわからないですね」


「とりあえずでいい。お前がいいと思うのを選んでくれ」


「ではこれですね」


 クリストフ辺りを見渡したあと手に取ったのは壁にかけられていた槍だ。


「複製槍レクタか。だがその槍は遣い手を選ぶぞ」


「そのぶん遣うことが出来れば強いです」


「それはそうだな」


 レクタの能力はありとあらゆるものを複製するという単純明快なもの。

 だがその能力を使いこなすのは至難の業である。

 レクタの複製の能力はほとんどのものを複製することができる。

 それゆえ、どれを複製するか、どれほど複製するのかなどの条件をあらかじめ決めていなければ、その能力はただ邪魔なものになってしまう。

 だがそれを使いこなすことさえ出来れば無限の可能性を秘めた最強の槍だ。

 それを使いこなせたものは過去にも今にも5人しかいない。

 そしてそのうちにクローゼとクリストフは入っている。


「ロアネスはどう思う。レクタを使えるクリストフのもとに行くんだから使い方は教えてくれるだろう」


「家には良い訓練場もあるので使えるようになる可能性はあると思いますよ」


「……ではその武器にします」


「なら収納しておけ。それでクリストフは何をしに来たんだ?」


「そろそろ帰るので挨拶に」


「そうか。ではロアネスを連れて行け。もう出れるだろ」


「はい。クリストフ様、よろしくお願いします」


「こちらこそ。今後はこの子を通じて連絡を取ればいいですね」


「そうだ。ではロアネスのことを頼んだぞ」


「はい」


 ロアネスを預かったクリストフは部屋を出ていった。


 ★


 一度部屋に戻りロアネスを部屋に戻ってきていたバージスに預けた後、クリストフはメルトのいる部屋に向かった。

 バージスは何故こんな事になっているのかを知りたがっていたが説明するのが面倒だったクリストフは後で説明するとだけ言い残して部屋を後にしていた。


 メルトの部屋の前についたクリストフは扉わコンコン、と2度叩いた。


「どちら様ですか〜」


 扉の遠くのほうからそんな声が聞こえたクリストフは自分の名前を言い、少し話があると言った。

 メルトが「少し待っていて」と言った後、部屋の中からは何かが倒れるような音や片付ける音などのいろいろな音が聞こえてきた。

 そしてその音が落ち着くとメルトが扉から顔を出してきた。


「お待たせしました。入って」


 メルトから入室の許可をもらったクリストフは部屋に入った。

 部屋の中は先までは散らかっていたようで急いで片付けた跡がいくつか見られる。

 クリストフはそのことに何も言及せず話を始めた。

 最初は雑談から入り、場が温まってきたところで今回来た目的を伝えた。


「私は明日の朝ここを出て、王国に帰ります。短い間でしたが年の近い人と話せて楽しかったです」


「……そう。私も明日の朝ここを出る予定だから一緒に行かない?そのほうが安全だと思うけど」


 クリストフの向かう王国とメルトの向かう獣王国の方角は同じ。

 共和国を出てからしばらくすれば別れることにはなるが、それまでは一緒に行動していたほうが護衛の質も上がり安全面が上がることになる。

 また、1つの集団に王国と獣王国の国旗が2つ挙げられることは二国間の友好関係示すことができる。

 単に安全面の確保だけでなく、国としての利益もあるのだ。


「それは良い考えです。では何時のどこで集合するのか、その他の護衛の配置などもここで決めてしまいましょう」


 その話が出てからクリストフとメルトは細かい話を始め、どんどんと時間が過ぎていき、クリストフが部屋に戻ったときにはすでに1時間以上過ぎていた。

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