学園祭

第6話

「はぁ。またか・・・」


 エルフ奴隷事件から二ヶ月が経ち、クリストフはいつもどおりに悪人を裁いている。


 だが最近、麻薬が多くなってきており、そのせいで今までは週二、三の活動だったがほぼ毎日にかわっていた。


 そのせいでクリストフは疲れていた。


 明日はアリスとのデートもあり、今日は少し早く仕事を切り上げ、念のためバーグに後任にさせておいた。


 ★


 翌日、クリストフは朝早くから王都の中心街にある噴水前でアリスと待ち合わせをしていた。


 アリスとのデートは受験と、最近夜が忙しかったせいで全然いけてなく、かなり久々だった


 そして、クリストフはこのデートが楽しみであったため、集合時間十五分前に現場についていた。


 そして十分くらい経ったとき、アリスが噴水前に来た。


 アリスから待ったか聞かれたクリストフは「今来たとこ」と答えた。


 そんなアリスの服装はペプラムで綺麗だった。


 ちなみに両者ともに王都では有名なので、認識阻害のアーティファクトをつけていた。


 ★


 二人は朝から街でショッピングをして楽しみ、美味しそうなお菓子を見つけては食べていた。


 そして昼は、アリスが事前に調べていたという、美味しいと有名な店に来ていた。


 その店は通りの角にあり、どうやら二階建てのようだった。


 中はテーブル席だけで、一つ一つに広々とした席が用意されており、天井からシャンデリアが吊るされていた。


 中に入り、店員に声をかけられたアリスは予約している名前を言い、そのまま中に入れさせてもらった。


 どうやら二階は基本的に予約のみで、個室しかなかった。


 初めてきて、店のシステムがよくわからないクリストフは、アリスと同じ料理を頼んだ。


「ごめんなアリス。こういうことは本来なら、男の俺がしたいんだけど・・・」


「大丈夫。それよりそっちは大丈夫なの?」


「別に大丈夫だよ。それよりもうすぐ学園祭だ」


「そうだね。私達は人数少ないから何もできないけど、楽しみだね」


「クラブは何も出店しないの?」


「しないよ」


 王立学園祭。


 王立学園祭は各学園が二日使い、行う学園祭だ。


 第一学園から始まり、次に第二、最後に第三学園という順番で行われる。


 そして、その週は三つの王立学園は休校となる。


 さらに、この週に合わせて数多くの学園が休みとなるため、街には多くの店舗が出店され、王都中が祭りのようになるのだ。


 そのせいで犯罪が起きやすくなり、クリストフはその一週間、めちゃくちゃに忙しくなってしまう。


 クリストフからすれば楽しい一週間ではなく、激務の一週間だ。


「そう。なら何もすることないの?」


「そういうわけじゃないよ。私は他のとこの騎士候補生を見てみたいな」


「なら一緒に行くか?どうにか時間を作ってみるよ」


「本当!?約束だよ!」


 アリスは椅子から立ち上がって喜ぶ。


 クリストフは普段から王家であるため、いろいろなしがらみのせいで自由な時間が少ないのだ。


 それに加えて、執行官という役割も担っているため、さらに時間はなくなる。


 ここ最近は学校でアリスとはいつも会うことができているが、その前までは付き合っていても、週一出会えたら良かったほうだ。


「ああ。可愛い彼女との約束は守るよ」 


 その後のアリスは一日中、鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌なまま、二人はデートを終えた。


 ★


 その晩、クリストフはアリスとの約束を守るため、執行官として街に出ていた。


 そして、今いる場所は街の中央にある時計台の上。


 そこからアリスと昼食を取っていた店に入っていく人物を観察していた。


 昼間、アリスとの食事であの店の二階は個室ごとに空間隔離魔法の魔法具で、プライベートを完全に守ってくれていることに気がついた。


 そんな部屋の話はその場にいる者以外には伝わらない。


 もちろん店側にも伝わらない。


 そこでクリストフは、そんな場所には犯罪者が集まる可能性が高いと考え、今リストアップしている犯罪者たちの出入りを監視しているのだ。


「お、来た」


 監視を始めてから一時間近く経過したとき、初めてリストに載っているラバスという男が店に入っていった。


 その犯罪者は表の仕事は王都の門番、裏の仕事は麻薬の売人だ。


 表の仕事と言っても、知り合いの売人は金をもらって通して、知らない売人は金を渡されても捕まえるということをし、知り合いの売人を売り上げを上げる手伝いだ

 

 そして、門番の仕事が無いときは通した知り合いの売人のもとに行き、そこでもらった薬を売って、その売上の三割程をもらっている。


 だから門番という稼げない仕事につきながら、こんないい店に来れているのだろう。


 しばらくするとラバスが出てくる。


 そしてその横には一人の女がいた。


 その女は見覚えのある人物だった。


「とりあえず、先にラバスを処理するか」


 クリストフは店の監視をやめ、先にラバスの追跡を始めた。


 ★


 追跡を始めて十分程経ったとき、ラバスが路地裏に入り、一人の女に接触した。


 ラバスは手に持っていたカバンから飴を取り出し、何か喋りながらそれを女の前でぶらぶらさせている。


 そして女はカバンから封筒を取り出し、ラバスに渡した。


 ラバスは渡された封筒の中身を少し出し、その枚数を数える。


 その数は普通の飴を買うにしては多すぎる枚数だ。


 その数に満足したのか、ラバスは粉を渡し、その場から去っていった。


 クリストフはその女が早速その飴を舐めようとしていたため、女を後ろから締め上げて気絶させ、その飴を取り上げた。


「【影狼】。これは麻薬か?」


「そうだな。しかもなかなかに中毒性の高くて、中でもかなり危ないやつだな。」


 クリストフの影から出てきて、飴の匂いを嗅いだ【影狼】が答える。


 二ヶ月ほど前、薬物関係の奴らの組は破壊した。


 幹部はすべて捕まえ、リーダーはみせしめに殺した。


 にも関わらず、組は復活しているのだ。


「【影狼】はこの女性を母さんのとこに連れてってくれないか?」


「一人で大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。門番なんかには負けないよ」


 クリストフは【サーチ】を使って、ラバスの居場所を探した。


 ラバスはすでに自宅に帰っており、家にラバス以外誰もいない。


 クリストフは天井に張り付いて、ラバスがリビングから自室に入ってくるのを待った。


 しばらくして、ラバスが飲み物片手に入ってきた。


 そのタイミングでクリストフは後ろから麻酔をつけた針を首に撃ち込む。


 ラバスは暴れることなく地面に倒れ、クリストフはそれを回収し、殆どの人が知らない自宅の地下室、そこの施設の一つの拷問部屋に連れて行った。


 ★


 しばらく放置していると、椅子のガタガタする音が。


 ラバスが目を覚ましたようだ。


 その音をきいたクリストフは部屋に向かった。


「ん〜〜〜。ん!ん〜〜!」


 中には猿轡をされ、椅子に縛り付けられたラバスが暴れていた。


「さて、なんで捕まってるかわかるか?」


 ラバスに質問をしながら猿轡を外す。


「わかんねぇよ!俺にこんなことして、どうなっても知らねえぞ」


 ラバスが嘘をついているか本当のことを言っているかは【影狼】が匂いでわかるため、本当の情報を吐くまで拷問を続けた。


 お陰で色々な情報が手に入った。


 ★


 翌朝、クリストフは学園祭の準備のために早めに登校していた。


 そして、麻薬の採取地域は特定することができたので、母さんの許可がおりたら焼き払いに行く。


 今、クリストフは風紀委員の仕事として、朝から同学年の教室の見回りや足りないもの、欲しい物をメモして生徒会長のラディアンスに提出する仕事をしていた。


 クリストフが風紀委員に入った経緯は生徒会長である兄、ラディアンスの推薦だ。


 生徒会は風紀委員を推薦する権利を持っており、その条件にたまたま一致したのがクリストフだったのだ。


 ラディアンスの机の上は、風紀委員から渡されたプリントで山積みになっており、今のラディアンスの仕事は、そのプリントの内容確認をし、おかしくなければはんこを押し、横の会計に渡す。


 そして会計はその中身の値段を計算し、学校予算に収まるかの確認。


 その確認が終われば書紀に渡し、それらのプリントをまとめていた。


 この作業を生徒会長と副会長、会計二人、書紀二人の計六人でこなしている。


 それに比べ、風紀委員は十五人もいる。


 そして、風紀委員はプリントだけでなく、トラブルや厄介事も生徒会に持ってくるため、もっと面倒くさいことになっているのだ。


 クリストフはその作業を見ているだけでも嫌な気分になってきたので、すぐ外に出た。


 最近、ろくに睡眠時間も取れていなかったクリストフは休憩室のベットを一つ借りて、しばらく休憩することにした。


 休憩を取っているとサティラから【メッセージ】が飛んできた。


 内容は麻薬の栽培地域の焼き払いについてだ。


 決行は今夜。


 同時並行で麻薬の売人も捕まえろとのことだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る