第3話
これは野外演習終了から一週間程かが経った日の放課後の話だ。
「やはり、クリストフくん。君はこのクラスには相応しくありません!私はあなたに決闘を申し込みます!」
授業終わりに突然言ってきたのは入学式の日、クリストフとアリスに絡んできたリード・サバロクリアだった。
「あんた、何言ってんの!」
決闘とは欲求を突き通すために起こすことができる。
そして決闘を申し込んだ方が勝てば欲求を突き通すことができるが、もし負ければその人は一年間、決闘をする権利を失うことになるのだ。
そのリードの発言に突っかかっていったのはクリストフの幼馴染で彼女のアリスだ。
「別に本当の事でしょう。この一週間、特に目立った功績もなく、更には実技の点数では他クラスに負ける始末。こんな奴は特進クラスには相応しくない。どうせ王族だからと優遇されてこのクラスに来たのでしょう。こんな奴と付き合っている貴方も可哀想ですね。私が付き合ってあげましょうか?」
「あんた、何言って・・・」
「アリス、やめておけ」
クリストフは自席から切れ散らかしそうなアリスをなだめる。
「俺は確かに目立った功績もなく、実技の点も悪い。だがな、この世の中は実技がいくら良くても無理なことが存在する。研究、政(まつりごと)、あとはなんだ、恋愛とかか?ほかにもいろいろあるが、言っていたらきりがない。筋肉しかないやつの上には必ず、賢いやつがいるんだ。お前からすれば俺は弱いように思うかもしれんな。だが俺からすればお前はただの阿呆だ。お前は表面上の点数しか見ておらず、中身を見ようとしない。点数を見て驕り高ぶっている。そんなんだから彼女の一人もできないんだよ」
「今は彼女とかそんなことは関係ないだろう!」
リードは顔を真っ赤にしながら声を上げる。
「劣勢になるとすぐに声を上げる。幼稚だな」
「何を・・・!」
指摘され、声を上げないようにしているのか、歯がギシギシと音を鳴らしている。
「別に決闘をしたいのなら勝手にすればいい。俺は別にこのクラスに未練はなかった。だがな、お前のさっきの発言のせいでこのクラスにいる必要が出てきた。アリスは俺の女だ。手を出すつもりなら俺は許さんぞ」
アリスは顔を真っ赤にして下を向いており、他の女子クラスメイトも恥ずかしそうにしている。
そしてリードは歯をギシギシまだ鳴らしており、男子クラスメイトはクリストフのことを感心した顔をして見ていた。
「ならば決闘は明日の放課後だ」
「わかった。あと、お前。決闘には手続きがいるのを知っているのか?」
「それくらい知っている!」
「なら、手続きは勝手にしておいてくれ。俺はアリスと下校するとしよう」
クリストフは固まっているアリスの手を掴んで連れて行く。
それにアリスはまだ下を向きながらついていった。
★
クリストフは家に帰ると執事のバーグに今日の出来事について相談していた。
「というわけで明日決闘があるんだよ」
「別に負ければ良いのでは。坊ちゃまは下のクラスに居たいのでしょう?」
「そうなんだがな・・・。デカい口叩いたのに弱いとか嫌じゃないか?」
はぁ、とバーグはそれを聞いて呆れている。
「なら勝てばいいのでは?坊ちゃまは私と互角、もしくはそれ以上の剣技を持っていますし、難なく勝てる相手でしょう」
クリストフは少し悩んでいたようだったが、覚悟を決めた。
「わかった。明日は勝つとしよう。バーグ、武器はどれにすればいい?」
「
「なら
そう言いながらクリストフは影の中から一つの刀を取り出した。
刀身が黒紫の空斬だ。
「人前では初陣か。楽しくなりそうだな」
クリストフは刀マニアであり、影の収納には百本以上の刀がある。
そして、これはその中でも気に入っているものでもある。
バーグとの訓練では何度も使ったことがあるが、公の場では一度も使ったことのない刀だ。
クリストフはその刀を目をギラギラさせながら見ていた。
★
翌日、無事に決闘の手続きはできたようで、生徒会と風紀委員、そして教師立ち会いのもと、入試の実技試験で使った場所と同じ場所での決闘が決まった。
そして放課後、その決闘は多くの生徒を集めた。
その理由は今年初の決闘であり、そして一年生特進クラスの実力を見るため。
そして王家の血を引く人間がその決闘に参加しているからだ。
「それでは、生徒会、風紀委員、そして決闘をする二人の担任の立ち会いのもと、第一学年、特進クラス、リード・サバロクリア及びアーノルド・リーズ・クリストフの決闘をここに宣言する。相手が致命傷または後遺症を残すような攻撃は禁止。反則負けとする。そして、そのようなことがあった場合は立会人が止めに入る。開始の合図は私がする」
挨拶及びルール説明をしたのは今期生徒会長、アーノルド・バリアス・ラディアンス。
クリストフのひとつ上の義兄で第三皇子だ。
魔法、剣技ともに一流であり、学生の身でありながら、すでに騎士団に入っており、将来は師団長、軍団長となると言われているスーパーエリートだ。
そしてその右隣には今期風紀委員長、ジーク・ミーティア。
純粋な魔法師であり、得意魔法は氷系統、そして強化系統。
氷による大規模殲滅魔法と強化によって味方を強くし、相手には逆に弱体化をかけるというのが有名であり、王国全土の中でも指折りの実力者だ。
ミーティアは魔法師のみで構成された部隊、第二旅団に入団しており、その旅団の中で守るべき乙女として人気を博している。
そしてラディアンスの左隣にはクリストフたちの担任ハルトがいた。
ラディアンスの説明が終わると、クリストフとリードは舞台に上がり、二人は見合っていた。
「負けるとわかっていながらよく来ましたね。そこは褒めてあげましょう」
「負けると思っていたらまずこんな勝負は受けんな」
「ところで、腰の武器はいつもの聖剣じゃないんですが、いいんですか?」
「どうした?負けたときの言い訳がほしいのか?」
「は?」
リードはクリストフの発言を聞いて、意味が分からなさそうにしている。
普通なら「聖剣を使っていないから負けた」、と言い訳をする側はクリストフなのに、そっちが「言い訳がほしいのか」と言ってきたのだ。
「まあ、その武器で良いのならそれでいいんですが・・・。精々頑張って耐えてください。すぐに終わってはつまりませんから」
「そうだな。そうしよう」
「両者、準備はいいか?」
二人の話が終わるのと同時にラディアンスが質問をしてくる。
「いいですよ」
「大丈夫です」
「それでは・・・」
ラディアンスが腰から剣を抜き、それを大きく振り上げる。
そして、
「開始!!」
それと同時に剣を振り下ろした。
★
リードが開幕と同時に魔法を放ってくる。
【ストーンバレット】という魔法だ。
その魔法は無数の石を弾丸のように飛ばすことができる。
クリストフはその攻撃を最小限の移動で避けながら、どんどん間合いを詰めていく。
どんどん間合いを詰められたリードは【ストーンウォール】を使い、クリストフの進行を止めようとする。
地面からいくつもの石の壁が生えてくる。
クリストフは後ろに下がることでその魔法を避けたが、間合いは始めよりも空いていた。
クリストフが後ろに下がったのを確認したリードはすぐさま【チェインライトニング】を放つ。
二つの眩い光が交差しながらクリストフのもとに飛んでいった。
そして先程のようにクリストフは避けることができずに命中した。
「よし、やったぞ!」
リードは思わず声に出して言った。
命中した場所は地面がえぐれたことによって土煙が立ち込めていて、クリストフはどうなったのかはわからなかった。
観客も皆、クリストフが負けたのだろうと思っていた。
そんなとき、突然土煙が切られ、中から一人の男が出てきた。
クリストフはさっきまで抜いてすらいなかった刀を抜いていた。
「流石は魔法師志望の特進クラスの生徒だな。精度、威力ともに学生にしては十分だ。」
抜いていた刀を直し、手を叩きながらクリストフはリードの事を褒めていた。
「あとはスピードだな。これに関してはなれるしかないんだが・・・」
「どうやってあれから逃れたんだ!」
リードが叫びながら聞いている。
「俺は大体の魔法の効力と弱点は頭に入れているからな。だから魔法じゃ、俺には勝てないぞ。もう一つ言うと、剣でも俺には勝てんだろうな」
「なにをっ!!」
クリストフの発言で激怒したリードはいくつもの魔法で攻撃をする。
その攻撃は先程までのように丁寧なものではなく、威力だけの攻撃だった。
再び土煙が立ち込め、中が見えなくなる。
観客もその攻撃はやりすぎだと思い、思わず悲鳴をあげる。
だが、中からまた無傷のクリストフが出てきた。
「怒りに身を任せ、攻撃するのは減点だ。そんなときこそ、確実に相手を倒せる技を使うことが重要だ」
そう言いながらクリストフは一本の刀を取り出し、横向きに素振りをする。
すると、【ストーンウォール】によって作られた石の壁がすべて切り落とされる。
そのあり得ない光景に観客もリードも驚いていた。
そしてその瞬間、瓦礫に隠れながらリードのもとまで詰め、背後をとり、首に刀を当てた。
「剣士には距離を、というのが魔法師の中での定説だ。だが、剣士もそんなやつに対抗する手段を手に入れた。それこそが【斬撃】を飛ばすことだ。これを習得するのは難し過ぎて実戦的ではないが、使えればこんなふうに不意をつける」
「勝者、アーノルド・リーズ・クリストフ」
その光景に皆が驚いていた中、審判の三人は冷静に試合を見ており、首に刀を当てた瞬間にラディアンスが声をあげた。
「これにより、敗者、リード・サバロクリアは決闘申請の権利を今後一年間消失する。また、勝者であるアーノルド・リーズ・クリストフはなにか要求をすることができる。何か要求はあるか?」
「なら、アリスに謝ってくれ。それだけでいい」
「わかった。その要求は必ず果たされよう」
観客がクリストフの要求を聞き、一気に盛り上がる。
一切欲のない要求は絶対的な権利を持った者には相応しくないが、それは心の広いことを表しているとされていて、王都ではこういったことが美徳とされている。
クリストフはそれを伝えるとそのままその場を去っていき、それを見ていたリードは悔しそうに唇を噛んでいた。
★
控え室で休憩しているとアリスがやってきた。
「お疲れさま。やっぱりクリスは強いね」
「ありがとう。相手がもっと実戦になれていたらもっと苦労したよ」
その後、いつもどおりに世間話をしていると、ドアがノックされた。
「ラディアンスです。ここにクリストフはいますか?」
「兄さん。いるよ、どうしたの」
「入っていいか?」
クリストフはアリスの方を見、首を縦に振っていたので、入ってもらうことにした。
「すまない。アリスさんもいたのか」
「ラディアンスさんのほうが年上なんですから、さん付けはやめてくださいよ」
「ああ、すまんな。つい癖で」
「それで片付けは終わったの?」
「ああ、終わったよ。今日はお疲れさま」
「俺も決闘なんかで手を煩わせてごめん」
「いや、それは仕事だから関係ないよ」
話に一段落つくと、ラディアンスの顔が真面目になった。
「クリス。お前は強い。これからも頑張れよ」
「そうかな・・・。まぁ、ありがとね」
「それじゃ、俺はもう行くよ。アリスさん、邪魔してすまなかった」
「さん付け、次はやめてくださいよ」
「すまない、癖だ」
ラディアンスはそう言い残して出ていった。
「それじゃ、私もそろそろ行くね」
「送っていくよ」
「クリスは家でゆっくり休んでおいて。疲れたでしょ?」
「なら、そうさせてもらうよ。今日はありがとな」
「それじゃ、バイバイ」
アリスはドア越しに手を振って帰っていった。
そして一息ついてからクリストフは話し始めた。
「バーグ。何時までそうやっておくつもりなんだ」
そう言うと突如、影の中から一人の男が出てきた。
「いや、バレていましたか。流石、といったところでしょうか」
「それで、何か用か?」
「はい。奥様からの直々の伝言です」
「母さんからか。一体何があった」
クリストフはバーグに聞く。
クリストフの母、アーノルド・ナナ・サティラはよっぽどの緊急時以外、クリストフに連絡をしない。
そして連絡してくるときは兵すら動かしている時間が惜しいときだ。
「同盟国であるラート国、いわゆるエルフの国からの連絡で、王国の辺境貴族がエルフの奴隷を買っているという情報が届きました。これは奴隷禁止の王国の法律、そしてラート国との盟約とも違反しており、事実関係の確認を早期に行いたい、ということです。つまり坊ちゃまの能力が必要なのです」
クリストフは一気に真剣な顔になった。
「わかった。すぐに確認すると伝えておいてくれ」
「わかりました。あとは事実確認ができても勝手に動くな。指示を出す。ということです」
「わかった。また後でな」
その言葉を聞いたバーグは影にまた消えていき、いなくなった。
そして、クリストフも影の中に入っていき、そのままいなくなった。
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