第2話
五日後、入学式があり、クリストフは初日から憂鬱な気分で登校する。
その途中、クリストフはある家に向かった。
「クリス。おはよう」
その中から出てきたのは腰辺りまで伸びた赤い髪と蒼い澄んだ眼が特徴的な女性だった。
「おはよう、アリス。今日からまたよろしく」
「クリスも。これからもよろしくね」
クリストフに話しかけてきたのは幼馴染で彼女のカリア・リガルラルド・アリス。
リガルラルド家は代々剣聖を排出している名門貴族だ。
王家と古くからの関わりのある家系で、クリストフと同い年でもあることから、よく遊んでいた。
アリスは次代の剣聖と噂されるほどの実力者でもある。
最近は両方とも入試で忙しかったりもしていたせいで、会ったのは数ヶ月ぶりだ。
数ヶ月ぶりにも関わらず、アリスはいつもどおりであった。
「クリスはどこのクラスになったの?」
「俺は一応特進クラスだな。今からでも気が滅入る」
「クリスも特進クラスなんだ!」
「確かアリスは首席だったよな」
「そうそう。もう家も大喜びだよ。これからもよろしくね」
「よろしく頼む。知り合いが一人でもいると気が楽だ」
二人はそのまま学園へと向かった。
★
学園の門の前につくと、門にもたれかかっていたメガネの男に声をかけられる。
「入学式から男女でイチャコラ登校してくるそこのはしたないおふたりさん」
クリストフたちはそのままスルーしようと通り過ぎる。
だが、再び声をかけられてしまった。
「そこの二人ですよ!聞こえてますか!」
「なんなんだ?朝から元気なやつだな」
「クリス。放っておきましょ」
「アリスは先に行っておいてくれ。色々準備があるだろ」
「うん。じゃあ先に行っておくね」
アリスはクリストフに見送られて学園に入っていった。
「先にレディを行かせるとは、なかなかな方ですね」
「さっさと話を終わらせてくれ。俺も案外忙しいんだよ」
クリストフと謎の男の話の会話を聞いている周りの人たちがざわついている。
その理由は王家と剣聖の家系に喧嘩を売っているようにしかみえないからだろう。
「そんなに忙しくないでしょう。イチャコラ登校してくるぐらいなのですから」
なかなかに面倒くさそうなやつが学園にはいるということが今日判明してしまった。
「言いたいことがあるなら早くしてくれ」
「まあ、いいでしょう。ここはあなた達のようなイチャついているような人が来る学園ではないのです。この学園はこの国に必要な人材を育成し、将来を豊かにするための学園なのです!そのような浮ついた気持ちでこと学園できた事自体が奇跡のようなものなのですか、これからは心機一転して私のような超エリート、特進クラスの生徒を模倣して学園を送るようにしてください」
その男は鼻息を鳴らしながらメガネをくいッと上げる。
それを聞いていた周りの人たちは静かになり、足まで止まった。
周りの人たちはもちろん二人のクラスがどこなのか知っており、それを知らない男のことを「こいつ、田舎のやつだろ」と思っているに違いないだろう。
「あ〜〜、そういうことか・・・」
その静寂を打ち破ったのはクリストフだった。
そしてこの話を聞いて、ある結論にクリストフは至った。
「そういうこととはなんですか?」
「おそらくお前は勉強ばかりで恋愛をしたことがないから、ここでカップルを待って、その都度、自分が特進クラスであることを言って、自分は決して負けていないと思いたいんだな」
周りで俺たちの会話を聞いていた者たちが一斉にメガネの男に憐れみの目を向ける。
「そんなことはない!おい!ちょっとまて!」
クリストフはこれ以上付き合っていても時間がもったいないと思い、アリスのもとに向かっていった。
その後ろからはさっきの男が呼び止めてくる声が、離れていても聞こえてきた。
★
「クリス。さっきの人、何だったの?」
「ただのアホだ。ほうっておくのが一番だ」
クリストフは入学生代表挨拶の練習をしていたアリスのもとに来ていた。
「そう。ならいいけど」
「それで、完璧か?」
「ええ。あとは待つだけ」
「そうか。なら本番、頑張れよ」
それを聞いたクリストフは入学式の会場に向かった。
入学式では首席のアリスは入学生代表としての挨拶をミスなく終え、式自体はトラブルもなく無事に終了した。
その後はすでに伝えられているクラスに各々が向かい、そこで担任が来るのを待った。
クリストフのクラスは特進クラス。
今年の人数は例年とは違い、八人で構成されており、朝突っかかってきたやつもそこにはいる。
その男がまた突っかかって来ることはなく、そのまま時間が過ぎていった。
しばらくして、閉められていたドアが急に開けられる。
「遅れてすまん。ここのクラス担当になったハルトだ。よろしくな」
クラスの皆が驚きの声をあげた。
ハルトはこの国の高位冒険者として現在も活動している。
この国の中で一番最高位冒険者に近いとも言われている現在、最も注目を集めている冒険者でもある。
そんな現役バリバリで有名人が来るとは思っていなかったのだ。
「今日は特にすることはないが、明日は早速実戦だ。集合場所は野外演習所だ。ちゃんと休んでおくんだぞ」
この日の授業は終わり、明日から本格的に始まるようだ。
★
翌日、特進クラスの八人が演習所に時間通りに集まった。
「皆、時間通りによく来た。今日は言っていたように実戦訓練だ。ここの森には冒険者たちが捕獲したモンスター、ランクはFからD相当の奴らを放し飼いにしている。それを言われた数だけ狩ってくれ。もちろんお前たちが人相手に戦えることはわかっている。でもな、脅威は人間だけじゃない。むしろ、言葉の通じないモンスターのほうが危ないんだ。そこで特進クラスのお前たちには、他のクラスより一足先にそれを身を持って実感してもらおうと思う。班分けはこっちで実技の試験結果と実績を見て既にしている。なにか質問は?」
「あの、」
一人の少女が手を挙げる。
「どうした、ミシャ」
「もしも危ない状況に陥ったらどうすればいい?」
「それは始まる前に渡される信号弾か魔法を空に打ってくれればいい。そしたらここで待っている教師たちがその場に急行する。他にあるか?」
「大丈夫」
「それじゃ、班長の発表をする。1班、リード、ダメス。2班、クルシュ、ジョイ3班、クリストフ、アリス。4班、リージョン、ミシャ。演習開始は30分後。各自自分の得意分野を話しておけ」
班分けを発表するとハルトは小屋に帰っていった。
「クリス。よろしくね」
「こちらこそ。俺は剣しかできないって知ってるよな?」
「もちろん。でも両方剣士ってなんでかな?」
「多分魔力を見て、俺が魔法を使えると勘違いしたんじゃないか?」
クリストフはもちろん魔法を使える。
そしてそれに使う魔力は一般人をゆうに越えている。
その魔力を闇魔法に特化させるため、リソースの大半を闇魔法にした結果、闇魔法以外の威力は可愛いものになっている。
そして闇魔法はその性質上、多くの人から嫌われているため、こういった公の場では使いにくい。
もう一つ、古代魔法は使えるのだが、それは絶対に隠し通さなければならない。
そのため、魔法は使えないとしているのだ。
「俺は基礎魔法が限界だな。だから俺は剣一本だ」
他のクラスメイトはクリストフたちのように知り合いではないので、真剣に話し合っていた。
そしてそうこうしていると三十分が経過した。
「時間になった。それじゃあ、行って来い!」
その合図と同時に八人全員が飛び出していった。
★
クリストフたちは木の枝を飛び移りながら移動をしていた。
「クリス。どこに行く?」
「俺たちの内容はゴブリン十体、シルバーウルフ五体、オーク一体だから、まずはコブリンの巣を探そう」
「わかった」
しばらく移動していると崖のある場所に出た。
「この地形なら巣があってもおかしくないだろう。ここらを探そう」
バーグからの知識を利用し、崖で巣を探していると、一つの洞窟が見えた。
中に何がいるかを確認するために森の茂みからしばらく観察する。
すると、中からゴブリンが出てきた。
だがそれを確認してもクリストフはまだ出ていこうとはしない。
「ねえ、行かなくていいの?」
「どれくらいの頻度で外に行くのかを確認しておきたい」
そのまま観察を続けた。
巣から出ていく頻度は低く、大半が三体行動。
そして巣の警備の数は七体
恐らくこの巣はかなり小さい。
コブリンは人間の女に産ませて数を増やすのが基本。
だがここではそんなことができないから基本的に規模は小さいのだろう。
「アリス。三つ数えたら行くぞ」
「わかった」
「突撃と同時にアリスは入口に魔法を放て。俺は外のやつを片付ける」
クリストフが三つ数え、その合図と同時に突撃する。
ゴブリンたちはそれに気づき、弓を打ってくる。
だが二人の速さに矢を当てることはできなかった。
巣の前についたアリスは手を横に大きく広げ、手に何かを貯めている。
それをゴブリンたちが攻撃しようとするのを、クリストフはすべて殺していく。
その後アリスは前で手のひらを合わせて言う。
「【ライトニング】!」
巣に向かってアリスの手のひらから出ていった雷が中に入っていった。
中からはゴブリンたちの叫び声が聞こえ、それが聞こえなくなったら二人で中に入っていった。
「まだ生きているやつがいるかもしれないから気は抜くなよ」
「それくらいわかってるよ」
「ならいいんだが・・・。生き残りがいないのを確認したら魔石の回収だ」
「りょーかい」
巣の奥まで確認したが生き残りはおらず、そのまま魔石を回収しながら帰っていった。
「魔石は十八個。順調だね」
「あとはオークとシルバーウルフ。生息地がわからないから適当に探すしかないな」
「早く見つかればいいね」
「そうだな」
そしてゴブリンの討伐を終えた二人はまた木の枝で移動を始めた。
★
「クリス。そういえばなんで木の上を移動しているの。地面の方が楽じゃない?」
「地面の方が確かに楽だが、そうして移動していると、相手を見つけたとき、高確率でこっちも見つかるだろ。だが木の上ならこっちが一方的に見つけることができる」
「意味はあったんだ」
そんな雑談をしつつ、木の上を移動して十分近く過ぎた。
「なあ、そろそろ休まないか?」
「そうだね」
クリストフは目を閉じ、体重を気に預けて休み、アリスは寝転びながら休んでいた。
そして、クリストフが休もうといったのは疑問に思ったことを解決するための口実なのだ。
(いくらここが広いとしてもオークとシルバーウルフ両方が見つからないとはおかしい)
(執行官以外の姿で古代魔法は使いたくないが仕方ないか・・・)
そう思い、古代魔法を使用する。
使う魔法は【サーチ】。
現代魔法にも【サーチ】はあるが、能力が違うものだ。
古代魔法では探したいもののワード、場所、数など、あらゆる条件を加え、より詳しく調べることができる。
だが現代魔法ではそのような面倒な工程を無くし、自分以外の生命体の情報を地図に指し示してくれる。
つまり、【サーチ】に関していえば、特定のものを探したいのなら古代魔法、広く探したいのなら現代魔法を使うといい。
(ワード、オークそしてシルバーウルフ。場所は国立第一学園、野外演習所)
目を閉じているはずのクリストフの視界に地図が映る。
そして検索結果が出てくる。
(オーク、シルバーウルフともに数が少ないな。他のクラスメイトが倒しているのか)
(近いのは西北西1.5kmのオーガ。シルバーウルフの群れは北西2.1km。この二つを倒すか)
その情報をより詳しく見る。
オークは二体、シルバーウルフに関しては十体を超える大所帯。
その二つにマークをつけ、目を瞑れば何時でも見れるようにしておいた。
「アリス。そろそろ行くぞ」
「え?まだ五分しか経ってないよ」
「モンスターのいる場所では長時間の休憩は良くない。するとしてもいろいろ準備がいるからな」
「そうなんだ。じゃあ行こう」
クリストフは西北西のオーガに向けて出発し、その後ろにアリスがついてくる。
いつもどおり木の上を移動しながら、ところどころで休み、その時にオーガの位置を確認してはその都度方向を修正しながらオークのもとに向かった。
★
「見ろアリス。オークがいるぞ」
長い距離を移動してやっと目視できる範囲にオークが現れた。
「本当だ!長かったね。でも二体いるよ」
「そこは仲良く分け合おう。どっちをを倒したい?」
「私は左がいいな。棍棒みたいなの持ってるし」
「なら俺は右をもらうよ。」
先にアリスが左のオークのもとに向かい、切りつけたが、棍棒で防がれる。
アリスの背後からもう一体のオークが襲いかかろうとするが、そこの間にクリストフが入る。
「あんたの相手は俺だよ」
クリストフは聖剣でオークに斬りかかる。
それを防いだオークの腕は少し切れていた。
(やっぱり聖剣では戦いにくいな)
クリストフはまだ父にもらった聖剣を使っているが、使いにくくて仕方がないのだ。
普通に持とうとすると手のひらが聖剣の力のせいで焼けるのだ。
そのため聖剣の力を抑えるために常時闇の力でその力を吸っている。
それにかなりリソースを食っているため、基礎魔法による身体強化すらしにくいため、己の身体能力だけでしか戦うことができないのだ。
向こう側ではすでにアリスが敵を追い詰めていて、早くも決着がつきそうだ。
(流石だ。すでに上位冒険者の領域に片足突っ込んでるな)
オークの攻撃はバーグに比べれば遅すぎるため、攻撃を食らうことは別にない。
だがクリストフの威力が弱いためオークを倒すこともできなかった。
しばらくオークと攻防を続けていると、決着のついたアリスがやってきた。
「いつまでそうやってるの?」
「俺もしたくてやってるんじゃない。聖剣が使いにくくて仕方がないんだ」
「聖剣でしょ?どういうこと?」
「後で説明するからお前の剣を貸してくれ」
「わかった。じゃあ、投げるよ」
そう言ってアリスは剣をクリストフに向かって投げる。
クリストフはその剣を右手で受け取り、左手で聖剣を投げる。
「よし。こっちのほうが使いやすいな」
受け取った剣を少し素振りしているとオークが声を上げながら突っ込んで来る。
「ふんっ」
クリストフが柄を持ち、声を出すとオークの両足が切断される。
そしてもう一度柄を握ると首が飛んでった。
クリストフは相手が死んだのを確認すると解体を始めた。
「クリス!何なのそれ!」
「斬撃を飛ばしたんだ」
「詳しく!」
「それは回収してからな」
後ろから興奮した声を出しているアリスをスルーして、解体が終わった死体の回収を始めた。
二体の回収が終わるとアリスが聞いてきた。
「それでさっきのは何なの?」
「あれは単純なことだ。素早く剣を動かして空気を切る。そうすることで斬撃を飛ばせる。一応素早く動かせば動かすほど射程は伸びるが、遠くに行けば行くほど威力は弱くなっていくという弱点はある」
「じゃあ、なんで最初から使わなかったの?」
「あれを使うには常人の肉体じゃ、大した威力にはならない。それを補うために身体強化を使うんだが、それに使うリソースがほとんど聖剣のせいでなくなっていたから、身体強化が使えなかったんだ」
「それなら聖剣の力を使えばいいんじゃないの?」
「俺の身体は聖剣と相性が悪いんだ。だから俺からしたら聖剣はただのなまくら、いや、持っているだけで基礎魔法すら使えなくなるデバフだな」
「なら、なんで持っているの?」
「父上からの祝品だから仕方なくな。なんならそれ、いらんからあげるぞ」
「え!そんな、悪いよ」
「なら、欲しくなったら言ってくれ。一応それは業物のはずだから、そこらの聖剣よりもいいはずだ」
「・・・わかった。欲しくなったらいうね」
「そうしてくれ」
その後、クリストフたちはシルバーウルフを探しに行った。
シルバーウルフとの戦いでは危なげなく無事に終わり、今日の野外演習は終了した。
ちなみに順位は四班中二位という順位で終わった。
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