ダンジョン・ブレイキング


「あっ、有り得ねぇ────狂ってやがるのか!?」


 眼前でしでかされた出来事に、思わず第二の破滅は絶叫した。


 あの特異点が、どうしようもなくイカれていることは分かり切っていたつもりだったが、まだ足りなかったらしい、と。


 第二の破滅が行使した魔導は、ただの魔導ではない。

 七つの破滅、その一つとして作り出された時に与えられた、星を滅ぼす絶対権限。


 人の子では、指先を触れただけでも魂を破壊され、理解を示そうとしただけで、脳を完全に打ち砕く呪いの業。


 それが阻まれるだけでも異常事態だというのに、あまつさえ手を加えてきた?


 有り得ない、信じられない──そんなことは、あってはならない!


「お前そればっかりだな……いい加減認めてくれないと、こっちが悲しいんだけど……」


 声がした。忌々しい声だった。

 何もかもを滅茶苦茶にされた、最も疎ましい少年に首を掴まれ、勢いよく上へと引きずられていく。


 それに第二の破滅は、抵抗できない。

 一体化した迷宮が、もう数秒も保たないことを如実に感じる。


 迷宮脱出の理論が成り立っていき、ようやく手に入れた器から、強引に引き剝がされていくのを感じる。


「でも、まあ良いや。ただ一つだけ、これだけは覚えとけ、第二の破滅」


 上方へと加速し続けていく少年が、怒りを滲ませながら言葉を紡ぐ。

 勝利宣言か、あるいは七つの破滅には、世界を滅ぼさせないとでも宣言するつもりか。


 どちらにしても、下らねぇ、と第二の破滅は思う。

 七つの破滅は、一が最弱で、七が最強の構図となっている。


 これから目覚めるだろう、第三の破滅でさえ、第二の破滅が十いても全く敵わないほどに。

 それほどまでの戦力差がある。故にこそ、そんな話をされたところで、笑うしかない。


「確かに俺はぁ……NTRと闇落ち系は全然いけたし!」

「なになになになになになに」


 あれ!? 何か流れ変わったな。


 ビックリするくらい、意味不明なことを言い出した日之守に、第二の破滅は一撃で脳をぐちゃぐちゃにされた。


「憑依モノも皮モノも、全然楽しめる人間だけれども!!」

「待って、何!? 何の話してんだテメェは!? 怖い怖い怖い怖い!」


 生まれて初めて味わう恐怖という感情に、第二の破滅の分離は急速に早まった。


 レア・ヴァナルガンド・リスタリアの身体から、第二の破滅が完全に引き剥がされる。


 支えを失い、人の形さえ保てず、黒い靄のようになった第二の破滅は、レアを抱きしめ、太陽を背にした日之守の、最後の声を聞く。


「レア先輩憑依ものだけはガチなトラウマ過ぎて薄い本でもダメなんだよ馬鹿が! 二度とするなーーーッ!!!」


 極大の、蒼の閃光が解き放たれる。


 それは正義の鉄槌ではない。


 私怨で百パーセント満たされた究極の一撃が、迷宮を完全に破壊し尽くしながら、迫り落ちる。

 

「わァ……ぁ……」


 その中で、第二の破滅は思わず泣いちゃった!

 その涙は声も無く、極光の中へと解けて行った。


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