ライト・ヒロイン



 決まったな、と。

 アイラ・ル・リル・ラ・ネフィリアムは、慢心ではなく現状を分析した上で、そう断じた。


 確かに、葛籠織日鞠は強者である。

 それは間違いないことであり、実力についてだって、自分と同じか、あるいはそれ以上だっただろう。


 だからこそ、初撃が重要だった・・・・・・・・

 実力がほとんど拮抗しているが故に、先に負傷した方が敗北する。そういう認識がまずあった。


 今の一撃は、確実に左腕を砕いただろう。無論、その程度で倒れるような女では無いだろうが、激痛が全身を駆け巡っているに違いない。


 魔法魔術に限らず、戦闘というのは集中力が物を言う。


 さて、片腕を潰された状態で、どれほど戦闘に集中できるだろうか? 余裕を保ち、常に分析していられるだろうか?


 まだ決闘は始まったばかりであり、一度も負傷していないこちらが圧倒的に有利だ。

 このまま長期戦に持ち込み、じわじわと体力を削っても良いし、一気に仕留めてしまっても良いだろう。


 この決闘は、今やネフィリアムの手の中にある。


(……決めた。一息で始末してあげるわ、葛籠織さん。貴女は強かったから、そこには敬意を表しましょう)


 射撃魔法を複数展開し、並行して魔術の詠唱を口遊む。

 そこには「後はもう仕留めるだけ」といったような慢心は、欠片ほども存在しない。


 飽くまで健在であることを想定した上で、全開の火力で叩きのめす。

 

(悪いけど、日之守くんはいただくわね……いえ、日之守くんの隣、と言うべきかしら)


 日之守甘楽。

 異質な強さを持ちながら、どこか惹かれてしまう少年。


 見ていると、自身の本能が……あるいは才能が、と叫んでいるような感覚に陥る、恐ろしい男の子。

 きっと、葛籠織も同じ感覚を得たのだろう。目を見れば、そのくらいは容易に分かる。


 まあ、だからこそ、奪いたくなるのだが。


「目標、捕捉──3」


 砂煙から姿を現したものの、彼女は動かない。

 否、動けないのか。


「2」


 関係ない。ギブアップしていないのなら、意識が飛ぶまで叩きのめす。ただ、それだけだ。


「1」


 けれども、まあ、迷宮攻略は三人で、とのことだったから。

 私と、日之守くんと、おまけで貴女でも良いかもしれないわね、なんてことを思った。


『Sparare!』


 杖が叫び、魔法は起動する。

 同時にアイラは勝利を確信し────


「あは~、日鞠、分かっちゃった・・・・・・・~」


 普段と変わらない、緩やかな声がした。

 しかし、その瞳はかつてないほどに世界を捉えている・・・・・・・・


 ネフィリアムは、瞬時にまずい・・・と思った。

 思った時には、遅かった。


彼方よAurora り極dall'a光をltra parte


 殺到したネフィリアムの、決着をつけるだけだった魔法魔術は、しかし、振り抜かれた極光によって打ち砕かれた。


 何の抵抗もなく、ただ光に呑まれるように。


堕ち行Lamenta iく天に cieli che嘆きを cadono


 光の柱が、空から幾つも降り注ぐ。

 影を生み出す余地を残さず、ただ真っ白な光に染め上げられていく。


願いをDesideri 此処にqui


 世界が光に沈んでいく。世界が光に呑まれていく。

 影は残らない、逃げ場所はどこにもない────それなら!


(同じように、喰らい尽くしてあげるわよ!)


 葛籠織日鞠は稀代の天才である。今この瞬間、埒外の魔術を行使していることからも、それは分かるだろう。


 さりとて、ネフィリアムもまた、天才なのである────魔術に話を限定するのならば、今なお彼女の方が練度は上だろう。


影よOmbra 大いなるGrande 影よombra 海の如く広がOmbra りし深淵よinfinita 忌々しIngoia い光をquella 呑みdannata 下せluce!」


 初見である葛籠織の魔術に対して、ネフィリアムは反射で特攻魔術を組み上げた。

 地の底から、這い出るように湧き上がってきた影は────しかし、空から落ちて来る、無数の極光によって打ち砕かれた。


 拮抗することすら出来なかった。

 ただひたすらに、蹂躙され、食い潰される。

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