その踏み台はバグっていた
決闘会場は、底冷えするほどに静まり返っていた。
決闘をするという新入生の内、片方は
上級生から下級生まで、多くの野次馬が来ていたにもかかわらず──そこは、痛いほどの静寂に包まれていて。
たった一人の少年の声が、驚くほど響いていた。
「射撃魔法:重複展開」
『Magia di tiro:Distribuzione duplicata』
空を融かしたような、澄み渡る蒼の魔力光が視界を焼く。
「弾種:貫通×雷」
『proiettile:Penetrazione×Tuono』
少年の声に呼応して、機械製の杖が魔法を呼び起こす。
「目標、捕捉────3,2,1」
『Sparare!』
──そして、災害は巻き起こる。
青空には似つかわしくない人工の雷が、さながら銃弾のように降り注ぎ──もう一人の少年は、意識を保つことすら出来なかった。
格の差を──あるいは、次元の差を、否が応でも理解する。させられる。
一年生から八年生までの、その場にいた全ての生徒が、このただの新入生にすぎない、たった一人の少年が
「こんなものか?」
ただ一つ、投げかけられた問いに、誰もが恐れを為した。
こんなものは、まだ序の口に過ぎないのだということを、そのたった一言だけで物語っていたがゆえに。
「演技はいらない。立てよ、主人公」
かつて世界を救ったという、勇者の血を引く少年がいた──誰もが、勝つのは彼だと信じていた。思い込んでいた。
そんな共通認識が、一人の少年にひっくり返される。
「──こんなものじゃあ、ないはずだろう」
名を、日之守甘楽。
後に、伝説となった救世の英雄である。
──絶対死ぬと思っていたのに、勝ってしまった。
……は? あれ?
勝ってしまったな……あん!?
「勝っちゃったんだけど!!!?」
負けイベント、ひっくり返しちゃったんだけど!!!
まずい、まずいまずいまずい!
これはまずい──何がまずいって、想定外に俺が強すぎたというのもあるが、それ以前に
あれじゃあマジで、その辺の野良魔獣に、サクッと殺されちゃうぞ!!!?
おいおいおいおいおい。
どーすんだよ、これ……。
原作が崩壊する以前に、このままだと主人公、死ぬんだけど……。
「俺が、守護らなければならない、のか……?」
もしかしたら、俺が転生したせいなのかもしれないし……。
突然出てきた謎の罪悪感に屈し、俺は小さく呟いた。
ご神託チャット▼
◇名無しの神様 は?
◇名無しの神様 は?
◇名無しの神様 は?
◇名無しの神様 なになになになになに
◇名無しの神様 日之守戦ってチュートリアルだよな!?
◇名無しの神様 チュートリアルでいきなりバグっちゃったぁ……
☆転生主人公 聞いてた話と違うんだが???
◇名無しの神様 ごめんて
◇名無しの神様 俺達も困惑してんだよ今
◇名無しの神様 こんなバグ知らないんだけど
◇名無しの神様 いやっ、そりゃこんなRTAしてるんだから、立華が弱いのは当たり前なんだが……
◇名無しの神様 だからってここまで戦力差出てるのはありえねーだろ
◇名無しの神様 まあ実際レベル1でも倒せるはずだからな、日之守……
◇名無しの神様 あの日之守くん何者だよ
◇名無しの神様 明らかにレベル50は越えてんだよな、あれ……
◇名無しの神様 飛行魔法も使ってたよな。あれ、二年からじゃないと覚えれない魔法だろ
◇名無しの神様 なに……何なの?
◇名無しの神様 怖い怖い怖い
◇名無しの神様 ゲーム世界に転生させた上に、こんなカス極まったRTAさせてるだけでも倫理観壊れてるのにメインシナリオまで壊れるとかどうなってんだ
◇イカした神様 二人も転生させると世界って壊れるんだな。ちぃ覚えた
◇名無しの神様 あ!!?
◇名無しの神様 二人!?
◇名無しの神様 レギュ違反過ぎて草
◇名無しの神様 倫理はどうなってんだ倫理は
◇名無しの神様 まあ、言うてしょせんチュートリアルバトルやしな。月ヶ瀬フラグ折っとけば取り敢えず問題ないだろ。
◇名無しの神様 それは……そうなのですが……
◇名無しの神様 あの日之守くんがこの先どう動くかが問題すぎるんだよなぁ
☆転生主人公 とりま関わらない方向でいくか……
【やっちまった】蒼天に咲く徒花 ヒロイン全滅世界滅亡ルートRTA【生身の転生者】
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