ヒロイン№1
ヒロイン№01、
ロングな白髪に、藍色の瞳を輝かせる十六歳の美少女。
一年生である俺と比べ、三つ上──つまり、四年生の先輩である彼女は、
基本的に優しく温厚であり、誰とでも仲良くできる女性であるのだが、誰かを助ける為であれば迷うことなく己を犠牲に出来る、作品が作品ならお前が主人公だったろ、みたいな性格をしているメインヒロインの一人。
主に空戦を得意とする天才魔法使いであり、最序盤から中盤でも通用するステータスを保持しているというのに、序盤からパーティに入ってくれるという、良心の塊みたいなキャラクターだ。
取り敢えず彼女さえ入れておけば、最初の内は事故りづらいので、大変お世話になったものである。
……まあ、お陰で親密度調整をミスりやすい為、ヤンデレ化するヒロイン筆頭みたいなところがあるのだが。
四年生でありながら、既に八年生(アルティス魔法魔術学園は八年制である)並みの実力を誇っており、その人柄ゆえか、多くの人に頼られる彼女はその反動なのか、強烈な甘えたがりである。
あるいは、もっとざっくりと、依存癖があると言っても良いだろう。
一度甘えさせ、甘えられる関係にまで発展した後に、他のヒロインと関わろうものなら爆速で監禁ルートに入る。
『蒼天に咲く徒花』は基本的に、多くのキャラと多様な関係を結び、力を合わせてメインシナリオを進めていくゲームだ。
要するに、この月ヶ瀬ひかりという女は、滅茶苦茶強くて頼りになるが、上手く調整できずに頼り過ぎたら、自動的にバッドエンドに引きずり込んでくるヒロインなのであった。
デストラップの擬人化みたいな女である。
因みに
「聞いてるし、起きてますよ……俺も、今更になって後悔してるところです」
「え!?」
「いや、何驚いてるんですか……」
「だ、だって甘楽くんが、自分の非を認めるなんて思わなかったから……本当に甘楽くん? 幽霊にでも乗り移られた?」
「失礼過ぎない?」
とはいえ、かなり鋭いところを突いてきてはいるのだが……。
実際、乗り移ったようなもんだしな──まあ、正確なことを言うと「転生したという事実を思い出した」な気がするので、やはり転生したと言うのが正解なのだろうが。
とにかく、あまり掘り下げられると、冷や冷やすることが多そうな話題だった。
いや、冷や冷やすると言うのなら、こんな話題に入る前からもうずっと冷や冷やしているのだが……なにせ、今日の放課後──というか、あと十分もしたら俺は、決闘をしなければならないのだから。
誰と、と言われればもちろん、主人公と、である。
先日の
察しの良い方なら分かるかもしれないが、これは『蒼天に咲く徒花』のチュートリアルバトルだ。つまり、俺からしたところの負けイベント。
まあ、そうでなくとも、才能が盛り沢山な上に、努力家である主人公に勝てるわけがないのだが。
ゲーム的なことを言えば、俺はレベル3なのに、主人公はレベル15くらいなのである。
一撃で倒されるどころか、ワンチャン死ぬ可能性すらあった。事実、ゲーム内でも低い確率ではあるが、ここで死ぬパターンもあるのだし……。制作陣、
かといって、今更撤回を言い出せるような雰囲気では既に無く、冤罪なのに処刑が決まっちゃった囚人のような気持ちを味わっていた。
「露骨に顔色悪くなってきてる……後悔するくらいならやらなきゃ良いのに……」
「正論は時として人を傷つけるんですよ」
「今まで正論を聞いてこなかった報いだよ」
「クソッ、反論できない!」
俺は出来るけど
難儀なものである、不本意とは言え、どっちも俺なのに……。
あ~あ、何か上手いこと良い感じに、決闘がお流れになったりしないかな、と現実逃避を始めれば、月ヶ瀬先輩は面白そうに微笑んだ。
「でも、わたしが知らない内に、結構成長してたんだねぇ、甘楽くん」
「成長?」
「うん、わたしの知ってる甘楽くんはその、本当に嫌な子だったから……。だから昨日、決闘叩きつけてた時なんて「うわ、何にも成長してない……」って落胆しちゃってたくらいなんだ」
「うぅん、何も言い返せない……」
「正直、
「当然と言えば当然ですが、直接言われたら普通に泣けてきましたね」
直球で辛辣なことを言う月ヶ瀬先輩だった。
実際ゲームでも、月ヶ瀬先輩は
まあ、それこそが、
「けど、この感じなら、甘楽くんを応援してあげても良いかなぁ」
「いや結構です。むしろ立華の応援、よろしくお願いします」
「あれー!? そういう感じなの!?」
「当たり前でしょうが……!」
むしろここで俺が応援されても困る。どうせ負けるのに、めっちゃ惨めになっちゃうだろ、俺が。
それに、このイベントで初めて、月ヶ瀬先輩にフラグが立つのである。
立華は最終的に世界を救う戦いに身を投じたりするので、そこに月ヶ瀬先輩がいないと、まあまあ厳しいことになってしまうのだ。
仮に俺が死亡イベントを奇跡的に回避できたとしても、世界が滅んじゃったら意味ないんだよね。
だから頼む、マジで。
「せ、切実な眼だ……」
「本気ですからね」
「……ふふっ、変な甘楽くん」
それじゃあせめて、怪我だけはしないようにって、祈るくらいはしてあげるよ──と言って、月ヶ瀬先輩が席を立つ。
時間である。
決闘の時が来たことを告げる鐘の音が、緩やかに耳朶を打ち、俺は心底からどでかいため息を吐いた。
あ~あ、まだ死にたくねぇなあ……。
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