踏み台転生したらなんかバグってた

どろにんぎょう

第一章 バグった世界で何をする

転生したら踏み台だった


 日之守ひのもり甘楽かんらという少年は、『蒼天に咲く徒花』にて登場する踏み台キャラである。

 恵まれた家庭、恵まれた血筋、恵まれた才能、恵まれた容姿を持って生まれ落ち、それゆえに高慢に育った彼は、魔法の学校で出会う主人公に、それはそれはボコボコのボコにされ、好きだった女の子には嫌われ、事あるごとに突っかかるようになるものの、その度に軽くあしらわれ、どのルートでも必ず殺される。

 そういった、いわゆる主人公の引き立て役である運命を背負った少年であった。





 そして、うっかり死んだらそんな踏み台やつに転生させられていた!

 馬鹿!! どうしてこいつに転生させる!!?

 いやっ、確かにファンタジー世界に行きたいな☆ とかいう要望は出したけれど……!


「チョイスに悪意がありすぎるだろ!」


 絶叫と共に姿見を確認したら、そこには黒髪のイケメン少年がいた。

 どう見ても日之守甘楽くんである。見間違えすら許さないぜ、と言わんばかりのオッドアイ(右が青で左が赤)がキラキラと激しく自己主張していた。


 クソッ、ふざけやがって。

 誰がこんな、人生ハードモードにしろっつったんだよ。

 これまでの日之守甘楽くんの人生と思われる記憶を脳に流し込まれ、のたうち回りながら呪詛を吐く。


 そうして薄れていく意識の中で、俺はこれからマジでどうすれば良いんだろう、という切実な悩みを抱えるのだった。






 『蒼天に咲く徒花』とは、転生前の世界でそこそこ有名だったゲームである。

 育成要素があるものの、基本としては恋愛シミュレーションゲームであり、豊富な分岐がありながら、濃密かつ長いシナリオと、それに付随したフルボイス。

 当然ながら魅力的な複数のヒロインと、彼女らを描いたたくさんのスチルによって、神ゲーと評されたゲーム。

 

 そんな『蒼天に咲く徒花』の世界観を一言で言うのなら、近未来ファンタジー……だろうか。

 近未来らしく、発達した科学を持って振るわれる超常現象:魔法が身近にあり、ファンタジーらしく、魔獣と呼ばれる未知の怪物が蔓延るヤバい世界。


 そんな世界で勇者の血を引く主人公は、アルティス魔法魔術学園に入学することで、様々な出会いや陰謀に巻き込まれていく──というのが、大雑把なストーリーだ。


 なぁんだ、全然普通に夢がある感じの世界観じゃん、と思う方もいるだろう。

 その意見は真っ当なものであり、普通であれば俺も頷いているところであるのだが、こればっかりは話が違った。


 というのもこのゲーム、滅茶苦茶メインキャラが死ぬ。それはもう、マジで死ぬ。本当に死にまくる。祭で取れる金魚より容易く死ぬ。


 ヒロインとの会話選択肢をミスれば、病んだヒロインに刺し殺され。

 好感度を上限まで上げたヒロインを放置して、他のヒロインにかまけたりすると、監禁からの殺害にまで発展し。


 育成を怠るとその辺の魔獣や、犯罪者に全滅させられ。

 かといって、育成にばかりかまけて関係性を広げなければ、知らない内に他のメインキャラが死んでおり。


 運が悪いと馬鹿クソレベルの高い魔獣や犯罪者とエンカウントしたりする。


 そう、豊富な分岐とは言ったが、『蒼天に咲く徒花』とは、その多くがバッドエンドなゲームなのである。


 近未来といっても、まあまあ殺伐としている世界観であり、そもそも学園自体が犯罪者に狙われている感じなので、ギリギリ仕方ないと言ったところではあるのだが……。

 とにかくこれは、恋愛シミュレーションゲームの皮を被った死にゲーであるのだった。


 死んで覚える恋と愛、がキャッチコピーである。なめとんのか。まず殺すなよ。


「ちょっと大人げなかったんじゃない? キミが短気なのはもう今更だけど、あんな言い方はなかったんじゃないのかなって、わたし思うな」


 しかしながら、転生前はそこそこやり込んでいたゲームであったこともあり、条件が何もかも最悪ではあるものの、意外と上手く立ち回れたりするんじゃないだろうか、なんてことを考えていたのだけれども、こうして実際に入学してみると、それは本当に、楽観視の極みみたいな緩い思考であったことを思い知らされる。


 何せ俺は、この校舎の間取りすらちゃんと把握できていなかった。

 生徒はどれほどいて、どんな先生がいるのかも、全ては把握できていなかったのである──いや、もちろん、メインキャラからサブキャラくらいまでは、確りと記憶しているのだが……。


 流石にモブでしかなかったキャラについては、全くの無知であったことに気付き、ため息が出そうになる。

 そんな俺と、向かい合って座る女性が


「もう、甘楽くん? ちゃんと聞いてる? お~い、起きてる~?」


 と、目の前で手を振りながら言った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る