第3話

「裏で悪い噂が流れてるのは、知ってたの」

 私は頷く代わりに、優しくミクの髪を指でく。

 私が覗いたサイトには、名前こそボカしていたけれど、身近な人間なら直ぐわかるような書かれ方でミクの悪評が並べ立ててあった。


「どうせその内に飽きて消えると思って放ってた。書き込んだのが誰かなんて知りたくもなかったし、下手に否定したら余計ひどくなりそうだったし。そしたら内容は段々酷くなっていって。見ないでいればよかったのに、気になって1日に何度もサイトを見に行って、頭から離れなくなって。学校の皆んながわたしの事そんな風に思ってるんだって思えてきて」

「辛かったですね」

 ミクが何度も頷くと、縋る様に私の服を握る。

「あんまり学校にもちゃんと行けなくなって、そしたら、裏サイトに『首絞め魔』の話が書き込まれ始めて……」

 そこで言葉を切ったミクは、その時の事を思い出したのか少し震えて言葉を続ける。

「そしたら、今度はわたしも首に指の痕が……。最初は薄かったのに、段々と濃くなっていくから」

「さっきの処置でちょっとだけ呪いの進行は抑えられましたよ」

 自分の首元の痕が薄くなっているのを確認して、ミクは肩から少し力を抜く。


「誰にも頼れなくて、相談掲示板に書き込んだの。『寺に行け』とか『神社でお祓いしてもらえ』って人もいたけど、『見通す魔女の運命診断で裏メニューを頼め』って教えてくれた人が居て。なんか怪しいって思ったけど、タクシーならすぐの場所だったし」

「怪しくてすみませんね」

 私はため息を落としてそう言うが、ミクは真剣な顔で祈るように私を見上げる。私の胸元を濡らしていた雫が、今度は頬から顎を伝ってぼたぼたと床に落ちてゆく。

「ねえサリ助けて、恐い。こわいよ」

 私は上着のポケットから、ハンカチを取り出すとミクに差し出す。

「大丈夫ですよ。私、『運命診断』であなたの輝く未来がちゃんと続いているって言っちゃいましたからね」

「どういうこと……?」

 戸惑いながらも、とりあえずは涙を拭くミクに、私は笑って見せる。

「その結果にするために、どんな強引な手だって使うって事です。なにせ『あなたの運命、必ず見通します』ので」

 私が不器用に片目を瞑って見せると、そのあまりのぎこちなさに思わずといった様子でミクが笑う。

「それ、『見通し』てなんかないじゃない」

「問題ないでしょう、結果的に必ず当るのなら」

「ズルい」

 そう言ってから、ミクは一拍おいて続けた。

「でも、嫌いじゃない」

 泣き笑いのミクに手を差し出す。彼女は恐る恐る私の手を取った。

「さて、それでは呪いの本体に会いにいきましょうか」

 私はミクの首の痣に優しく触れ、口の端を不敵に見える様に持ち上げた。

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