第12話

 目の前を、大きな荷車を引いた黒馬が通り過ぎていく。

 聖教首都・アルファルドのマルク司教の元に行く旅路の中途、物資を買い忘れたというポカをやらかした私たちは、補給地点と食料調達のために、小さな村に立ち寄っていた。

 田舎らしい長閑な風景に、さわやかで清涼を思わせる風。それらの大地の清純な恵みを一身に浴びながら、私とユリは大きく伸びをした。


「いいお天気!疲れも不安も一気に吹き飛びそうだね!」

「いいお天気。不安がさらに増しそうな最悪のな天気ね」


 というのも、今回の旅のメンバーはユリと私とアヤト、そして新しく来たアルバート。

 不安しかない。

 いつもは傍にいるはずの、頼れて殴れるサンドバッグ係のリッドが、生牡蠣にあたって食あたりで寝たきりになったせいだ。

 その代わりに、リッドとアヤトを除いて、パーティの中でたった二人の男の一人である祈祷師のアルバートが派遣されて来た。

 なぜか剣士ではなく祈祷師が来るという謎采配であったが、かといって役立たずと言う名のアヤト応援係が来ても困る。

 どちらにせよ不安しかない。

 そんな私の不安を後押しするように、アヤトは晴れ晴れとした表情で、大きく両腕を伸ばした。


「今日はなんだか調子が良いなあ。全てが順風満帆にいきそうな気がするぜ!」


 不安しかない!!


「なにせパーティは伝説の勇者の俺、可愛い祈祷師ユリに、魔法使いのテセラ、天才祈祷師のアルバート、この魔剣フリード、安心しかないぜ!」


 なにせ、パーティは破壊神アヤトと、裏は真っ暗腹黒幼女、天才美女魔法使い、どこか頭抜けてる祈祷師と、無職のクソニート、不安しかないぜ!

 あれ?今気づいたけど祈祷師2人いる!人選間違えた!!


「そうであるな。なにかしらの不安はあったが、天下の勇者様が言うならそうであろう!」


 なんだろう。こいつからはリッドと同じ匂いがする。


「おうともさ。なにしろこの魔剣フリードは、あの疎まれし闇の剣。これさえあれば、どんな闇夜も光も斬り裂いて打ち払って見せるぜ!」


 なぜ魔剣なのに闇夜を斬り裂けるのかとか、勇者のくせになんで光打ち払ってんねんとか、勇者が魔剣使ってるとかどゆことなど、突っ込みどころは多いが、胃痛の原因になるから考えるのはやめておこう。最近あちこち身体にガタが来ているし、足腰が痛いので肉体をいたわることは大事だ。

 アヤトは背中の柄に刺した剣を引き抜くと、燦々と輝く太陽に翳した。

 キラリ、と磨き込まれた黒刀が、陽光の下にその美しい姿見を晒す。

 目を細めて刀を掲げるアヤトは、腹が立つが無駄に様になっていた、が。


「あっ、見てアヤト!剣からぷすぷす煙が上がってるよ!」

「へっ?」

「何をやっておるのだアヤト、魔剣なのだから太陽光に当てたら焦げるに決まっているであろうが!」

「魔剣ってそういうものなのか!?」


 どうしよう。不安しかない。

 ちなみに前回手にした聖剣は、家の蔵にお留守番してもらっている。

 やたらピカピカ光ってうるさかったので、ドブ川に浸した後、悪魔の札と黒い布を巻きまくって狭い隙間に押し込めておいた。

 ネズミにかじられてないといいけど。

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