第10話
ばさり、と大きな音を立てて、盾から噴き出した光から、二つの羽がまろび出る。
羽は徐々に露出していき、やがて光の中から長く真っ赤な髪を持つ、美しい女性が現れた。
「うそ、だろ…」
愕然としながら、よろよろと後ずさるリッド。
「本当に、この世に存在したのか…!創作上の人物じゃなかったのかよ…!間違いない………白無垢の熾天使…!またの名を、聖盾……!」
そんな噛ませみたいな言葉を放ったリッドを焼いて砕いて曳きこねて、ハンバーグにしてやりたい。これじゃ結局お約束展開じゃないか。
だから、あれ程アヤトは厄災を呼ぶ男だと言ったのに。
それに空想上の人物だか知らないが、こっちは毎日のようにやれ妖精女王だのやれ秩序の天使だの、そこいらの奴らと違い、ちょっと桁違いの相手とばかり接して来過ぎたため、完全にインフレを起こしている。
熾天使は最高神女神の次に偉い、つまり全ての聖族の中で二番目に偉いということだが、インフレに次ぐインフレのせいで、威厳も何も感じ取ることも出来なかった。
さらに言うなら私は天族というものに、嫌な思い出しか無い。
その筆頭がアヤトを勇者に選んだ、最高神エスタニアだった。あのおばはん、早く老衰で逝けばいいのに。
アヤトに下心丸出しなのはまあ見ないふりをするとして、私を恋の障害だとでも思っているのか、ことあるごとに自然現象のふりをして、雪崩を起こしたり雷を落としたりと、私の息の根を止めようとしてくるのだ。
こっちはポンコツ勇者の尻拭いをするために、必死で借金完済のために頑張っているのに。
アヤトに散々振り回されて耐性がついたため、別に雪崩や土砂崩れ、噴火くらいの天災、頭上に直撃しても致命傷でもないのだが。あの女、自分がやっていると私に気付かれないとでも思ったのだろうか。
天族最高峰かつ最高位のエスタニアでさえ、私の中で絶望的に尊敬度が低いのだから、たかが熾天使程度を敬愛する気などミジンコも起きない。
盾から現れた純白の熾天使は、折りたたんだ体を開き、その全貌をあらわにした。
姿を綺麗に整えて、固めた真紅の髪には輝くかんざしをさし、着物を着こなした美しい女性。
どう見ても和の国の姿だが、これで【純白の熾天使】なのだから謎である。誰だそんなインチキ流したの!!
そうして簪の鈴をちりんと鳴らし、熾天使はキツい切れ長の目を開いた。
「ほう、これはこれは。人間ではないか」
周りに集まる人の姿を認め、すっと細い目を押しひらく。緊張にほおを硬くする人間を見回して、ホッホッホッと余裕のある笑みをこぼした
「チンケな人間どもがわらわの眠りを覚ますとは、一体何事であるか。………言っておくが、いかにうぬらが妾の封印を解いた恩人であろうと、妾はそう簡単には、人間どもにはついていかぬぞ?」
うわっ、コイツ腹立つ。絶対仲間に入れてやんね。
「ほう…これは」
しかし、横目にアヤトの姿を認めると、ホゥ、と意味ありげなため息をついた。形の良い目を細め、赤い唇が綺麗な弧を描く。まるで品定めするかのように、ジロジロとアホ面のアヤトを視線で舐めまわした。
「これはこれは。勇者では無いか。なるほど、そちが妾の封印を解いたということか」
さすがウチのホイホイ勇者、ハーレムスキルは大天使様にも有効です。 ふざけるな。
「フン、たかが人間にあの封印を解かれたというのはなかなか片腹痛きことであるが…だが、勇者となれば話は別じゃ。わらわの命令を満たすのなら力を貸してやらんことも無かろ「お断りします」
聖盾?と呼ばれているらしい熾天使は、私を睨めつけながら片眉を器用に吊り上げた。
「はあ?なにを言うのじゃ貴様。この無礼者、たかが小娘が、誰に口を聞いていると思うておる!」
「結構です。聖盾なんて不要です」
おっと、どこかで見たぞこのパターン。私がそう言うと、熾天使は怒り出した。
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