第3話
それから数ヶ月の時が経過した。
あと唐突に関係ない話を始めるが、とある眠りの森と呼ばれる森林の奥深くに、輝石の奈落という、不思議な神殿がある。
それが初めて人によって発見されたのは、今から1000万年も前のことだとも言われている。
今までも度重なる調査が行われてきたが、その実態は全く明らかになっていない。
いつ、どこで誰が作ったのかも、なんのために作られたのかも、その入り口の開けかたも。
というのもそこの扉は、強固な魔法で封じられていて、どんなに手を尽くしても開かないのだ。それも、1000万年前からずっと。
何人もの大魔法使いや名だたる王様が、閉じられた扉を開こうとしたが、未だにその内部は閉ざされたまま。
どんな魔法でも、その屈強な壁は破ることはできなかった。聞く話によると、頑丈な建物の上にさらに強力な封印が施されているらしい。
それまでにたくさんの人が訪れていたのだが、あまりの打破の出来なさに、やがていつしか人々はその存在に見向きもしなくなり、今ではたまに王国の調査兵団がちょろっと訪れるだけ。
そこまで、遺跡は退廃してしまっていた。
のだが。
「…なあ、テセラ〜」
「ダメ」
「俺まだなにも言ってない」
「それ絶対封印解けるやつだからダメ」
「だから何も言ってないって。それに解けないだろ。今までだって1000000000000000年間も封印されてきたんだ、そんな簡単に都合よく解けるわけがないだろ」
残念ながらそれが解けるんだよなーー!
解けちゃうんだよなーー!
あとアヤトの連れてきた428人の美少女のせいで、食費がえげつないことになってるんだよなーーー!
そろそろいい加減にして欲しいんだよなー!!
私が溜息をつきながら宿のベッドに座ると、アヤトの隣に立っていた、パーティーメンバーである男剣士のリッドと、祈祷師の幼女のユリが、困ったように苦笑した。
「まあまあテセラ……。別にいいじゃん……。このパーティのリーダーなんだし……たまにはアヤトのわがままを許容することも大事だよ……」
コイツは本当に幼女なのか?7歳児の発言なのか?ロリの発言なのか?…いちいち突っ込むのは脳が溶けるからやめよう。
「まァ、俺もユリとほぼ同意見だな。テセラの言うことも分かるがよ、たまにはちょっと、息抜きも必要なんじゃねェか」
「…そう言うけど、今まで散々それでひどい目にあったじゃない。聖剣エクスカリパーとかエクスカリバーとかエックスカリバーとか。引き抜いてどうなったの?エクスカリパーに至っては、竜王の呪いとかで地の底まで着いて来たじゃない」
あれはかなり大変な事象だった。
黒岩に突き刺さった、真の勇者(笑)にしか引き抜けないという聖剣(笑)エクスカリパーをアヤトが岩ごと壊したせいで、剣に掛けられた呪縛に囚われ取り憑かれ、トイレの中まで着いてきた事件。
もっとも、エクスカリパーはエクスカリバーの紛い物、ただの負の遺産だと発覚した時点で私が燃えないごみに出したが、皆の手を煩わせたのは変わりない。
「逆に聞きたいんだけど、どうしてわざわざ先の見えてる災いを、自分から引き寄せようとするわけ?茨の道を、火の中を自分から進む心境がわからないのだけど。果たしてその御心は?」
私は半ば苛立ちながらリッドに突っかかった。
「だけど、最近はそう言って、ろくに何もさせてやれてねェのも事実だろ。この前だって、せっかく大都市スクリームの温泉に行こうっつー話が出たのに、テセラが無理やり取り消しちまったじゃねェか」
「いやいや。そう言うけど、それで2ヶ月前に別の首都の温泉に行ってどうなった?どっかのバカ勇者が温泉もろとも吹き飛ばしたじゃないの。もう温泉どころか街自体影も形もないんですけど」
「アレ?ソウダッタカ?」
こ、こいつ…!!…あと、ちなみにリッドは男だ。れっきとした男だ。アヤトを除くとパーティーメンバーで、男はたった2人しかいない。ちなみにもう1人の男はめちゃくちゃうさんくさいやつです。
そしてリッドは普通の、無駄に派手な生い立ちが多いうちのパーティでは珍しい、ありふれた農民の出でもある。別に、実は性別を偽っていて、呪われて男にされてしまっていて滅んだはずの誰も知らない世界の割れ目にある不思議な力の使える幻の国の王女様だったー!というわけではない。
…そうでないことを祈ろう。
「ほらな!リッドの話を聞いたかテセラ!」
アヤトは腰に手を当てると、勝ち誇ったような表情をした。
「皆もそう言ってるじゃないか」
「それで何度私との約束を破ったの?それでどうなった?温泉旅行を私がもみ消したのだって、水郷都市の罪深き事件があったらじゃない」
しかし刃の如く正論を切り返すと、アヤトは論破されたと自覚したらしく、ぐっと悔しげな表情になる。
「だっだけど」
「逆に私の言った通りのことにならなかったことがあった?全て言った通りになったでしょう?結局、必ず私が恐れていた事態になってたじゃない。どんだけこの世界を破壊しまくったと思ってるのよ」
「でっでも」
「何度私を裏切る気なの?何回人に迷惑かければ気がすむの?どれだけ人を見下げれば満足するの?それとも全人類滅ぼすまで気が済まないの?」
「あっあいうえお」
それでも、とアヤトは弱々しく拙い反論をした。
が、後続する言葉を何も思いつけなかったらしく、やがて力なく俯いた。
肩を落としてうなだれるアヤトに、私はここぞとばかりにさらに畳み掛けた。
「もう聖女も妖精も白巫女も黒巫女も悪魔も天使も呪われた力も勘弁なんだけど。聞きたくも顔も見たくないのに、これ以上何を背負うつもりなの?馬鹿なの?死ぬの?これ以上増やされたら私狂って何するか分かんないんだけど。どうする?朝起きたら仲間の首が食卓に並べられてたら」
「ぎゃーーーー!!やめて!分かった!よく分かりました!やめますやめますから!」
「そう。分かってくれたら良いのよ。命拾いしたわねリッド」
「死ぬの俺かよ!!」
次の日。
アヤトは一枚の紙を残して、自分のベッドから姿を消していた。
『テセラへ。
やっぱり俺、我慢できないや。遺跡に行くね。バイバイ〜 アヤト』
「アヤトォオオオオ!!!!!!」
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