#10 part5

「そろそろ試合も終盤に近付いてきましたね。順調に那須さんが抑えて6回の裏、6-1でブルーバーズがリードしております。球数的にも次の回で降板でしょうね。そろそろ僕らも肩を作り始めるころなのですが、本日は僕、お休みの予定をいただいております。まぁこの前まで3連投だったんで、妥当ですよね」




「このままいけば8、9回に誰かが回またぎが理想だろうな。じゃあ俺の出番を作るためにも、さっさと発表するか! というわけで俺のイチオシ選手は……こいつ! 広島レッズの内野手、たいら青司あおしだ!」




「お、いいじゃん平か」




「いいだろ!? な!? 分かるだろ!?」




「そうそう、僕どっちかっていうと源氏より平家が好き。義経よりも清盛派」




「…………きよもり?」




「分かれよ! いや分かってよ! 今ツッコミ待ちだったの僕! え、これ説明しなきゃダメなパターン?」




 黒鵜座が空振りした歴史の話はさておき、平青司は高い身体能力が魅力の右打者である。バットを担ぐような打撃フォームから繰り出されるフルスイングで高校時代にはいくつものアーチをかけてきた。ボケっとした顔からはとても似合わないようなスイングにギャップを感じるファンも多いらしく、玄人のレッズファンにはよく話題に上がるほどの選手である。




「やはり男はスケールの大きさだろ!! こいつは近いうちに20発20盗塁するぜ!」




「やや現実的。今ちょっと予防線張ったろ。スケールの大きさって言っておいてお前の器の小ささ発揮してどうすんだ」




「外したくねぇんだ俺は!」




「外したくて予想する奴はそもそもいないんだよ。……で、どうやって知ったの? お前相手バッターにあんまり興味持つような奴じゃないだろ」




 あの人ストレートのサインにしか首を縦に振らないんですけど! とブルーバーズの捕手に愚痴られた記憶が黒鵜座の頭に蘇る。こいつはとりあえず生、みたいな感覚で直球を投げる。様子見に直球。そして空振りしたのでさらに直球。締めにあえて直球を地で行く男である。アホだ、人の事を言えた筋ではないが、自分だってコースとかは流石に考える。あと一球くらいは変化球投げる。流石に。




「いい質問だな! あれはそう、去年の二軍での試合の話だ……」




「過去編とかやめてね。引き延ばしだと思われるから」




「ビシュッ! 俺が投げる! カキ―ンと鳴り響く打球音! 俺、撃沈!」




「はっや。一行じゃん。意味あった今の? ねぇ、意味あったの? いや短くしろって言ったのはこっちだけどさ。簡潔に。簡潔にやれっていったのね? 漫画みたいに効果音とモノローグだけで喋れって言ったわけじゃないんだけど。せめて球種とカウントくらい言ってくれよ」




「打たれたのはストレートだったな。ちょっと高めに浮いたけど内角寄りの悪くないコースだった。カウントは……確か1球ストライクを取った後だった気がする。ストライクゾーンのスライダーにぴくりとも反応してなかったから、おそらく直球狙いだったんだろうな」




「ちゃんとコメントできんじゃん。ほれ、塩分補給のタブレットいるか?」




「いちご味で!」




「ほーれほーれ、グレープフルーツ味だぞーう」




「クソが!」




「やっぱり振れるバッターはいいよな。……そんであいつ、モテるんだよな」




 平青司。彼は謎のアイドル気質の持ち主であった。SNSで彼の写真が載せられた際には大抵「かわいい」だののコメントが寄せられる事が多い。




「そりゃあ人間的な魅力だろ。あいつ謙虚そうな顔してたし」




「いーや、ギャップだね! ヤンキーが捨て猫を拾うアレも! クールぶっている美人が家だと実は可愛らしいアレも! ギャップだから! 落差で攻めてるだけだから! ストレートからのフォークボールで三振を奪うようなもんだから! ちょっと抜けてそうな顔していて打つ時はガツンと打つ、そういう選手に魅力を感じるだけだから!」




 人気を持つ者というのは、華があるのは第一前提として親しみやすい何かがある。実は庶民派、実は仲間思い。そういうのだけで魔力を持つのだ。




「こほん、という僕にもね。えーギャップとかありますよ」




「無理だぞお前には。……無理だぞ」




「二度も言ってんじゃねぇよタコ! じゃあちょっとアピールしてみるわ。えー僕はですね、こう見えて虫がダメです」




「それはただの情けない男だぞ」




「僕はですね、自動車よりも二輪車の方が好きです」




「どうでもいいぞ」




「僕はですね、友情に厚いタイプです」




「そういう事言う奴は大抵嘘だぞ」




「やかましいわ。じゃあお前言ってみ?」




「俺? 別にいらねーよギャップなんて」




「お前お化けとかダメだろ。映画見たらひとりでトイレいけなくなるくらい」




 黒鵜座の言葉に、熱田の口がピタリと止まる。少しの静寂の後、熱田の大声が響いた。




「は!? は!? はあぁ!? そんなわけねーじゃん! 別にフツーですけどフツー!」




「上半身しかない女、人の顔をした犬、呪いのテレビビデオ、盆踊りするゾンビ……」




「ぎゃああ―――!! やめろやめろやめろ―――!」




「勝ったのに負けた気がする……はい、というわけで第10回放送は以上になります! えーSNSなどでね、質問の募集だったり次回選手のアンケートだったりしてますので、そちらもどうぞよろしくお願いします! それでは次回!」




「もう今日一人でトイレいけない……。よし、今日は特別に泊めてやるよ黒鵜座」




「誰が行くか」

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