#10 part4

「ここでおひとつ、アンケートみたいなものですね。そう、次回誰を読んでほしいかっていうアンケートを取ってます。よろしければ是非ご投票をお願いします。というところで話を戻しましょう。えー前は自球団のイチオシ選手は誰かというだったんですけどね」




「俺が北でお前が武留だったよな」




「そうそう。そんでもって次は他球団ですね。……」




「おい、どうした」




「いやぁ、ねぇ?」




 熱田が隣を覗くと、そこにはしたり顔で目をぱちぱちと開閉する黒鵜座の顔があった。その表情に熱田の胸からはなんとも言えない不快感がせりあがってくる。




「その顔うざいからやめろ! てか言いたい事あるなら言えやタコ!」




「まぁ皆さんの言いたい事は分かりますよ。『他球団の選手のことなんてどうでもいいからブルーバーズの話しろや』ってね。でもしかし! しかしね! 僕はあえて彼らの話をします!」




 掌を突きだし仰々しくリアクションを取る黒鵜座。まるで演説家を気取ったかのような喋り方である。残念ながら熱田の頭に具体的な演説家の名前は上がってこなかったが、腹が立つ。それだけは理解できた。




「あえて言いましょう! 他球団に推しの選手を作らないファンはまだまだヒヨッコであると! ブルーバーズだけに! ……ブルーバーズだけに!」




「やかましいわ。今思いついただけだろそれ」




「というわけでドーン!! 僕のおすすめする選手は東京タイタンズの二塁手、ハロルド・マクドナルド選手です!」




「……改めて聞くとやっぱドが多いな」




「なんでそこに注目すんだよ。えーというわけでマクドナルド選手なんですけどね、大リーグでも二塁を守っていた実績の通り守備が上手いんですねぇ。ちょっと日本の選手とは違うスタイルの守備と綺麗なハンドリング技術。これだけでもう見る価値ありますね」




 ハロルド・マクドナルド選手。今年から日本でプレーする新助っ人の一人である。彼の持ち味はなんと言ってもダイナミックな守備だ。足は速くないものの一歩目が早く、地肩が強いためかなり広い範囲をカバーできる。




「まぁ肩は流石に強いよな。座った姿勢で投げるのとかオープン戦で見た事あるし」




「そうそう。そんでもって本人が取材で答えてた『型にはまらない守備』。これは見てて楽しいですよね。右手でボールを掴んで投げたり、グラブトスだったりで華のある選手だなと僕は思いました」




 守備の上手さで言えばウチの美濃さんだって負けてないんですけどね。とこぼして黒鵜座は水を口にする。そもそもブルーバーズの正二塁手にして去年のゴールデングラブ(略してGG)賞受賞者である美濃達也とマクドナルドではスタイルが違うために比較は難しいが、今のところ美濃はエラーの数が0。対してマクドナルドは2つエラーをしている。




 と、数値で決まるのなら(シーズンがまだ始まったばかりとはいえ)美濃が有利なのだが。問題はGG賞選考の基準である。基本的に記者による投票で受賞者が選出されるために、印象が強い方が有利となる。かつてGG賞を取れなかったとある遊撃手が言っていた「打てばいいんでしょ、打てば」という言葉が体現するように、打撃の成績如何で左右される場合もあるというわけだが。今後の行方は神のみぞ知るといったところだろう。




 ちなみに補足までに書いておくと、美濃の成績は現在打率.250、0本塁打、7打点。マクドナルドの成績は打率.232ながら本塁打2本、6打点である。若干マクドナルドの方が打席数が少ない。




「それはそれとして、打撃は今のところ未知数じゃないか? 今のところ大暴れとかはしてないし」




「良くも悪くも外国人打者って感じがするな。速いボールに対してはかなり強いけど低めに落ちる変化球には弱い。攻め方は一貫していけばいいと思うけど、中途半端に攻めたら逆にこっちが手痛い一発を浴びる。いやー、投手ってのは大変だよね。一球で結果が出るんだから」




「やっぱパワーはあるし置くならクリーンナップか?」




「僕的には6番打者がいいと思うね。クリーンナップにわざわざ置くほどではないと思うし、ああいう振り回してくるバッターが下位にいると打線の厚みが増してくる」




 でも他にクリーンナップ候補がいないならいいんじゃない、別に5番とかにおいても。そう言って黒鵜座は締めくくる。これはあくまでも自分が監督になったら、と仮定としての話である。加えてタイタンズは恐らくそこまで余裕というか層の厚みがない。その証拠に今までの出場はほとんど5番での起用となっている。




「ふーん……」




「あ、お前みたいな直球バカとは恐らく相性悪いから気を付けろよ。空振り取れる変化球ないときついぞ」




「はぁ!? 直球バカっていったらテメーも同じだろうがよ!」




「違いますー、僕はストレートが一番空振りを取りやすいから多く投げてるだけですー」




「へっ、お前まだあの人の言いつけ通り縛りプレーみたいな真似してんのかよ」




「……あのな、僕の場合はこれが100%なの。高速チェンジを覚えるのだって苦労したし、そもそも器用な方じゃないんだよ。先天的に。つーかお前もいい加減カーブをマスターしろよ。今のカーブはあれだぞ、尻すぼみへっぽこしょんべんボールだぞ」




「いちいち悪口がなげーんだよハゲ!!」




「というわけで次は熱田の発表です! それではCM!」

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