#11 part1

「皆さまごきげんよう。司会の黒鵜座一でございます。今回は第11回ということで、……まぁ数字なんてどうでもいいのですけれども、始めていこうと思います。口調が変なのは今回のゲストに合わせて都会派お嬢様になりきっているためですわ。そういうわけで、ゲストの紹介からしましょうか。『都会育ちのエリート型遊撃手』、宮東みやひがし夏樹なつき選手です」




「その喋り方はやめてください。キモいです」




「あ、そう? そりゃそうか、じゃあやめます。この前アンケートをとらせていただいたんですけどね、北君と宮東選手の同票ということになりました。で、野手の方が出れる機会は少ないだろうということを考えまして。現在軽いねん挫でベンチを外れている宮東選手に来ていただきました」




 宮東のシューズのかかと部分には軽く包帯が巻かれている。診断の結果軽症であり、大体5日くらいで実戦には復帰できるだろうと報告されていたため、登録抹消(二軍落ち)の対象には入っていない。




「というわけで、現在怪我している宮東夏樹です。よろしくお願いします」




「はい、自己紹介ありがとうございます! 宮東選手と言えばブルーバーズのショート三人衆の一角を担っている事でにわかに有名ですね。『打』の西木戸、『守』の宮東、『総合力』の南風と僕の中では話題になってます」




 黒鵜座の言ったこの評価には裏がある。つまり、挙げなかった方に少しばかり問題があるということだ。


西木戸はショートとしては守備がよろしくない。宮東はシンプルに打てない。南風は安定感があるが、今年で30になる年齢を踏まえるとずっとショートというわけにもいかない。こういう話になると、大抵消去法で「じゃあ今はとりあえず南風でいいか……」という結論に至るのが現状である。




「守備の事を取り上げていただけるのは光栄ですね。やはり守備が一番の武器だと俺も自覚していますから、今後もブルーバーズのショートには宮東がぴったりだと言っていただけるように頑張ります」




「おぉ、優等生……。なんかこういうコメントされると逆に照れるな」




 今までがアクの強い(選んだのは黒鵜座なので自業自得だが)ゲストだっただけに、黒鵜座は目頭が少し熱くなるのを感じた。




「と、いうわけでですね。お便りの方読んでいきましょう。黒鵜座さんお願いします」




「あ、うん。……はい、お便り『名古屋キッド』さんからです。『守備が上手くなりたいです。どうすればいいでしょうか』という事ですね。これはショートの宮東選手にぴったりな質問が来ましたね」




「俺がゲストで良かったなと思います」




 ―――さてはこいつ中々にプライドというか自己評価が高いな。


適当に相づちを返しながら、黒鵜座はそう思った。




「ではまず使うグラブの選び方から」




「待って。そこから? そこからなの?」




「当たり前でしょう。『弘法筆を選ばず』なんてことわざがありますが、あんなものはまやかしです。そもそもプロでもそんな選手はいません。現実をみてください」




「うん、ちょっと言い方がキツイかなぁ~!? 恐らく相手は学生だからそこまで言っちゃうと凹むと思うなぁ」




「そうですか、それはよくありませんね。ではまず根性を叩きなおすための精神統一法を……」




「相手が聞きたいのは守備の話だと思うんだけど」




「過程をもろもろとすっ飛ばして上っ面の話のみを信じようなど言語道断です。『千里の道も一歩から』、必要なのは準備です。それを怠ろうなどとは笑止」




 あぁ、今回はそういうタイプなのね。なるほどね。


普段のピッチングを3球種で乗り切っているだけあって、観察力にはそこそこの自信がある。これ上手く話を誘導しないと延々と説教が続くわ。観察眼はそう告げていた。




「じゃあ宮東選手はアマチュア時代どういうトレーニングをしてきたのかな?」




 我ながら中々上手い切り返しだ。速球をセンター前に運ぶくらいには上手い。




「トレーニング法ですか。そうですね。俺の場合はまず野球用具店をハシゴするところから」




「聞いた事の無いワードを簡単に並べないでくれるかな?」




「勿論ちゃんと根拠はあります。道具をしっかりと見る事は鏡を見る事と同じです。それに店の間にはかなり距離がありましたから、体力をつけるトレーニングになります」




「あぁ、うん。割とまともな返答がきてちょっと僕驚いてるわ」




「そして録音しておいた実況音声を流しながら練習します」




「あれかな? どういう打球が来るかイメージしながら練習に取り組むとか、そういう話?」




「いえ。ファインプレーの音声を流します」




「なんで?」




「褒められてる気がするからです」




「なんて?」




「いいですか、成功する自分をイメージするんです。大舞台で好守を見せて歓声を浴びる自分を。そうすれば多少の事は気になりません。何かミスをしたとしても『自分なら取り返せる』と思えます」




 思ったより参考になるぞ。


というか自分を褒めて伸ばすタイプなのか宮東選手は。




「虎ノ門精工(※宮東が所属していた社会人野球チームの会社)に入ったのも語感がいいからです。精工、つまりは成功ですね。縁起がよいです」




「そんな理由だったの……?」




「精密機械を製造するというところが自分と通ずる何かを感じたところもありましたが、やっぱり一番の決め手は語感ですね」




「思ったより肝心なところで適当だな。えー、でも今の宮東選手があるのはそういう前向きでストイックなおかげですね。では一旦CM入ります!」

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