#10 part1

「塩だろ」




「いやソースだろ舐めてんのかバカ」




「はぁ? 馬鹿って言ったやつが馬鹿なの知らないの? 全くこれだから頭小学生は……」




「黒鵜座さん、マイクオンになってます!」




「えマジ? こういう事前にもなかった?」




 ごほん、と咳ばらいを立てて黒鵜座が仕切り直す。




「というわけで皆さんごきげんよう! 今夜もやってまいりました『ブルペン放送局』、司会はいつも変わらぬ安定感と安心感でおなじみ黒鵜座一でございます!」




「どこに安心要素があるんだよ」




「うるっせぇバーカ今こっちが話してる途中でしょうが! えー、というわけでね。記念すべき第十回にのこのこと来やがったのは今回が2回目になります、熱田炎也です」




「のこのこじゃねーし! お前が言うから仕方なく来てやっただけだし!」




「えー、はい。男のツンデレほど醜いものはないですね。まぁこの通り、というか前回のやりとりを見てもらえれば僕ら二人の相性が悪い事はすぐわかると思いますが。なんてったって焼きそばの好みすら合いませんからね」




「いやソースだから」




「あぁん!? まだ言うかこの野郎!?」




 二回目となればもうスタッフも慣れっこである。火花を散らす二人をもはやネタとしか見ていない。




「まぁそれはそれとしてハガキを読んでまいりましょう。というわけで頼むぞ熱田」




「そうだな……どれにしーよーおーか」




「引き伸ばしてないでさっさと決めろ」




「おらよ!!」




「んな乱雑に取るなよ」




「じゃあどうしろってんだよ!」




「フツーに引けっつってんの! ……はい、ペンネーム『恋するビスケット』さんからいただきました。『私は今野球部の先輩に恋をしています。マネージャーとしてそこそこ話す機会はあるのですが、中々次の一歩に踏み出せません。どうすれば進展するでしょうか、プロ野球選手としての観点から教えてください』……だそうです」




「来たか」




「あぁ、来たな。ついにこの時が」




 恋愛相談! それは匿名性の高いラジオやテレビに度々出てくる定番である! 経験豊富な大人からのアドバイスを求めてまだ尻の青い学生たちが送る恋のSOS! それを前にしたこの二人はというと。




「やばいやばいやばい! おいコレ! どーすんだコレ! とんでもないモノ引きやがってお前!」




「おおお俺に言ってんじゃねーよ!」




 ものの見事に慌てふためいていた。




 彼らはプロ野球選手である。幼いころから白球を追いかけ、その能力の高さを買われプロになった。学校生活では(例外はあるが)常に野球と共にあった彼らはちやほやこそされてはいた。しかし悲しいかな、恋愛経験など赤子同然に等しかった。




 なぜなら野球部のエースをしていれば自然とモテるから! 駆け引きもクソもあったものではないのである!




「まぁこの人が求めてるのはアレですから。プロ野球選手としての観点ですから。……いやプロ野球選手にそんなこと求められても」




「露骨にトーンダウンしてんじゃねーよ。もう手っ取り早く告白しちゃえばよくねーか?」




「それが出来てたら苦労してないと思うけどな! お前みたいに単純じゃねーから」




「は? 俺はみっちり外堀から埋めるタイプだが?」




「知るかんなもん」




「まぁ安心しろ。今日のゲストが俺で良かったと言わせてやる!」




「何、自信あんの? さっきまで僕と同じくらいうろたえてたくせに」




「任せとけ! 何たって俺はあの大人気ラブコメ『くたばれ♡ロマンティック』を履修してるからなぁ!」




「いやその漫画名前しか知らんけど……」




 そう! 男子は普段恋バナなどは修学旅行の夜くらいしかしない。だがしかし、興味がないわけではないのである! 男向けの恋愛漫画が人気になりやすい事がそれを証明している!




 ちなみに恋川こいかわ夢乃ゆめの先生が描く『くたばれ♡ロマンティック』はどちらかと言うと少女向けの漫画である。単行本は現在10巻好評発売中である。お財布と相談して買おう!




「で、何を言うの?」




「そりゃあ、こうやって相手に壁ドンして……」




「おい待て。何で俺が相手なんだよ」




「相手ほかにいねーだろ」




「そうじゃなくてお前と仲良いって思われるのが嫌なんだよ!」




「こんなんで盛り上がるファンなんていねーだろ」




「たまにいるんだよそういうタイプのファン!」




「まぁいいや」




「よくねぇ!」




「とにかくこうやって相手と距離を詰めて、ちょっとワイルドな感じを出して」




「お前かきあげるほどの毛量ねぇだろ」




「やかましいわ。それで声を少し低めにして」




 軽く咳ばらいをして熱田がささやくように喋る。




「私の男になれよ、……ってこんな感じだ。分かったか?」




「……あぁうん。分かったよ、お前じゃ全くときめきもしないことが」




「死ね!」




「テメーが死ね! っていうかこういうのはもっとオラオラ系というかさ。少なくとも送ってくれたこの子は中々勇気が踏み出せないわけでしょ? そういう子がいきなりそういう事しだしたらどう思うわけ?」




「怖いな!」




「うむ、正直でよろしい。そこで下手におべっかを使う奴は大抵ろくでもない奴だからな」




 哀れ、熱田の策は一瞬にして瓦解した。




「じゃあさ、どうすんだよ。中々接点がありそうで無いぞマネージャーと部員って。しかも年上だろ? だったら余計誘いづらいだろ」




「そこなんだよなぁ……」




 ここは二人とも頭を抱えるところである。関係の進展というのは簡単なようで難しい。そこに恋愛要素があるなら余計にだ。




「あーでも、共通点から探してみるのはいいかもしれないですね。ほらー例えば好きな漫画とか音楽とか聞いて、そこから話題を広げていけばね。会話ってキャッチボールですから、うん」




「そんな回りくどい事聞かなくても良くね?」




「あ?」




「いやだってさ、二人とも野球部じゃん」




「…………」




「…………」




「あ゛ッッ!!」




 見落としていた。いやこれを見落とすってどういうことだよ我ながら。




「うるさっ!」




「いや、今回ばかりはお前の言う通りだわ……。何かお前にシンプルな事を指摘されてことがすごい癪に障るけど。そうだよ野球見に来ればいーじゃん! 寮生活とかだったらまた話は変わるだろうけど!」




「なら俺の登板する試合を見に来い!」




「それは先発に戻ってから言うべき台詞だろ。あ、でも彼が先発に戻る時は先輩がもう引退しちゃってる可能性があるので早めに来ることをお勧めします」




「おい。おい」




「いやーでもウチのチームって強いには強いけど試合の盛り上がりに欠けるところあるからなぁ。まぁもし、困る事があったなら選手コラボメニューでも頼んで楽しんでください。それこそね、えー僕プロデュースのかき氷とかいいんじゃないかと思います! それではCMのお時間です!」




「お前だけさらっと宣伝すんな」

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